第21話 真祖の槍
「ルーク、まずい」
「え、どしたの?」
「落ちる──」
「えぇ!?」
当然だ。だって俺空飛べないし。
ここまでジャンプしただけだし。
「せっかくカッコ良かったのにぃー!!」
「掴まえてくれぇぇぇ!!」
ルークが落ちていく俺を空中で受け止め、抱っこされる形に落ち着いた。
「超カッコ悪い……」
「仕方ないだろ!俺飛べねーもん!」
「やれやれ……セレント、お願い」
「ったく……」
セレントが俺に向かって指を回した。
すると体が宙に浮く。
さらに俺の意思で自在に動けるようだ。
「おぉ、すげぇ……サンキュセレント」
「どういたしましてっ、ほらあいつどうするか考えなさいよ」
「あーあのでっけぇのか……あれ何……?」
「地の盾っていう鬼硬い兵器。それに天の矛が合体してるの」
「普通にやべぇ奴だな、……にしても……」
『?』
俺達の目の前にいるのは、ガン○ムよろしく巨大なロボットのようなデカブツだ。
しかも、さっきまで戦艦の底に付いていた目玉が頭に搭載されている。
一言で言って──
「超カッコいいな!?」
『これだから男は……』
ルークとセレントに同じ反応で呆れられた……
なんだよ、まさか異世界でこんなに男心をくすぐる物あるとは思わなかったんだよ。
だが、どうやら様子がおかしいみたいだな。
「なぁ、あいつ何で攻撃してこないんだ?」
「分からないんだよネ。ずっとあーやって固まってて、ただただ攻撃が効かないの」
「今の内にやっちゃえば?ニセマネ、あんたなら出来るんでしょ?」
出来るとは思うけど……
いいのか?そんなあっさり終わっちゃって……
「まぁいいか、やるよ。2人共離れてくれ」
「うん。ファイトだよユウ!」
「あちしはエキナの所に戻るよ?何かあっても2人なら大丈夫でしょうし」
「あぁ、そうしてやってくれ」
セレントはエキナがいる地上へ戻り、ルークにも少し離れて貰った。
よし、やるか。
右手の甲の紋章を紫色に光らせ、ルークと俺の魔力を混ぜ合わせる──
「──魔力砲!!!」
「やっぱだっさいよネ……」
……デジャブだ。
今回も無視するからな。
俺の魔力砲は、きちんと地の盾とやらに直撃し、煙りを上げている。
しかし、次の瞬間俺とルークの頭に声が響く。
『忌々しい吸血鬼共め……今殺してやるぞ……』
「お、おい今のは……!?」
「ゼンデンって"聖職者達"の幹部の声だネ……天の矛に吸い込まれた筈だけど……」
おいおい、魔力の塊となって意識を取り戻したのか!?
人間の意識があったのは分かってたけど、まさか自我を取り戻すとは……
『まずは真祖……お前からだ!!』
「ルーク、避けろ!!」
巨大な一つ目に魔力が集まっている。
そして、放たれた黒い閃光はルークに向かって直撃した。
「ルーク!!」
「大丈夫だって、あたしにはこれがあるって言ったでしょ?」
『なっ!?』
ルークは、英雄の剣で閃光を一太刀で退けた。
「ヒヒ、何回も同じ攻撃しか出来ない無能に負ける訳ないヨ」
『ならこれでどうだ!?』
ゼンデンはいくつもの細かい閃光を俺達の真上の空に向けて撃ち上げた。
そして、やがて降り注ぐのは黒い閃光の雨。
「おいおい、これはきっついぞ」
「ユウ、あたしに任せて!」
ルークは英雄の剣を高く掲げ、光り輝かせる。
「もう一度お願い──奇跡は剣の中にある!!」
強烈な輝きは、上空から落ちてくる黒い閃光その全てを掻き消した。
そして、ルークが上空に集中している最中に、ゼンデンは追い討ちを掛けるように一つ目から攻撃を仕掛けてくる。
「……やらせねーよ!」
俺はそれを魔力砲で撃ち返す。
『忌々しい……!』
「もう作戦終了か?止めを差させて貰うぞ?」
『ふっ、この鉄壁の体は貫けんぞ』
「やってやるさ!」
ルークが黒い閃光を防いだのを見て、俺はゼンデンに集中する。
「ユウ、魔力足りる?あたしの吸う?」
「冗談やってる暇ないっての、まぁ後で貰うかも」
「ヒヒ、ユウのえっち──」
俺がありったけの魔力を溜め終わり、いよいよあいつに放とうとしたまさにその時だ。
『甘いわ』
上空から一本の閃光がルークの体を貫いた。
「……なん、で……?」
「ルーク!!!」
まさか、一本だけさっきまでの閃光よりもさらに高弾道で撃ち出していたのか!?
時間差でルークを貫けるように……!
俺は空中に居られなくなったルークの体を支え、腹部から血を流す彼女の名前を呼ぶ。
「しっかりしろ!ルーク!!」
「だ、大丈夫……でもちょーっと動けないカモ……」
ぐったりとしたルークを抱えていると、ゼンデンはその巨大な右腕を振り上げ、俺達に向かってくる。
『ふんっ戦争中に相手を気遣うような甘さを見せるな。まぁ2人共今殺してやるから気遣いは要らないぞ』
「くそっ……!!」
巨大な腕を振り回し、隙間隙間で閃光を放つゼンデンの攻撃を躱すのは容易だが、これじゃ攻撃に移れない。
「ユウ……離して……」
「駄目に決まってんだろ!?」
「違うよ、ユウの血の中に戻って休むの……」
「あ、あぁなるほど」
最近あまりにもずっと外にいるもんだから、血の中に戻れる事を忘れてたわ。
ルークはゼンデンの攻撃を避け続ける最中、霧の様に消えていった。
そして、心の中で話し掛けてくる。
(ユウ、あたしが外で使うエネルギーが必要無くなったから、今ならあたしの全ての力を使える筈ダヨ)
(そうなのか?例えば?)
(魔装とかカナ?)
いぃっ、魔装ってルークの胸元と、下半身くらいしか隠して無かったような……
(言っとくケド、ユウのイメージ通りの装飾になるからネ)
(お、おぉそれなら安心して使えるわ)
依然として猛攻を止めないゼンデン。
だが、それももう終わりだ。
俺は先程までのルークの魔装を思い浮かべ、ちゃんと俺の体に合うように身に纏う。
そして、ゼンデンの強烈な両腕での叩き付けを片手で受け止める。
『貴様、その姿は──』
「へっ、真祖の力を舐めすぎたんだよおっさん!!」
受け止めた両腕を、力の限り引きちぎった。
『グァァァァア!!!』
「へぇ、痛みも同期しているのか。それは悪かった……な!!」
ルークと同じ様に翼を広げ、羽ばたきの余波でゼンデンの巨体を吹き飛ばした。
「俺達は下でエキナ達が待ってるから、あんまりゆっくりやってる時間は無いんでな──」
俺は今までで最大の魔力を右腕に集めた。
血の中にいるルークもエネルギーの全てを俺に渡してくれている。
右手の紋章は紫色の輝きを見たことが無いほどに強くする。
──これで最後にしてやる。
俺は血の中のルークに伝える様に言い放つ。
そして、彼女も俺の心の中に返事をしてくれる。
「さっさと終わらせるぞ、ルーク」
──了解、あたしの英雄
ありったけの魔力を集中させると、魔力砲とは比べ物にならない威力になりそうだった。
この全部を収束して解き放つ。
「真祖の槍!!!」
放たれた魔力は、もがき苦しんでいるゼンデンへと向かい、その巨体をも越える大きさの極大の攻撃で、一欠片も残すこと無く消し去った。
『忌々し……い、吸血鬼共がぁあああああ!!!!』
そして、極太の一閃は聖国の艦隊のほとんどを撃ち落としていった。
(ユウ……良かったの……?聖国の連中本当に死んじゃうよ……?)
(ルークやエキナ達を守る為だ。戦争で甘さは要らない、あのおっさんも言ってた事だ……)
(そう……辛くなったらちゃんと言うんダヨ)
(ありがとな、後はもう勝てるだろうしエキナ達の所に戻ろうか)
(そうだネ!)
俺は地上にいる、エキナとセレントの元に戻った。
聖国の艦隊はほとんどが消え去ったから、後は王国の軍隊に任せれば大丈夫だろう。
──早く、メリア先輩に終わった事を伝えたいからな。
俺は王宮へと帰路を急ぐ。
お読み下さりありがとうございます!
もう少しで第二部完結です!
また明日もよろしくお願い致します!




