第20話 私は貴方が大好きです。
「ユウ君……興奮してるんですか……?」
エキナは着ていたシャツを地面に落とし、俺の顔に手を当てる。
ひんやりとした感触が、火照った俺の顔にはとても気持ちいい。
スカートを履いたまま、上半身ははち切れそうなブラジャーだけ。
はっきり言ってエロ過ぎる!!
と言うか……
「何で服を脱いだんだ!?」
「ルークから脱いだ方がやりやすいって言われてて……」
「え?さっきはそんな事言って無かったじゃん」
「いえ、少し前に──あ、いや何でも無いです。ほ……ほら、早く吸って下さい!」
何だ?何を慌ててるんだ?
まぁいいけど。
しかしなぁ、何と言うかここまでお膳立てされていざどうぞ!ってなると何て言うかその……
「ユウ君、まさか萎えてきたとか言わないですよね?」
ギクッ。
それにその怖い笑顔を止めてくれ!
大体何で分かったんだよ!?
「ここまでお膳立てされすぎて、興奮する要素が私の体だけというのは諦めて下さい」
「そこまで思ってねーよ!」
「へぇ……じゃあやっぱり萎えてるんですね……」
「い、いや血を吸うのに別に性的欲求は関係無いから大丈夫だって!」
これは本当の事だ。
ただし、全てではない。
「ユウ君、私知ってますよ?興奮してる時の方が吸収率が上がったりするって。あ、あと痛くなりにくいって……」
「詳しいな……」
一体どこでそんな知識付けてきたんだ……
俺も最近ようやく経験と共に知ってきたってのに。
「もう……しょうがない人ですね……」
「え?」
エキナはスカートのポケットから、護身用であろうナイフを取り出し、左手首を薄く切った。
そして流れ出た血を自分の口に含む。
彼女は俺の頭に手を回し、甘く蕩ける様なキスをした。
さらに、含んでいた血を俺に流し込みながら俺の顔を見ている。
唇を離したエキナは、自分の口端から垂れた血を拭いもせずに妖しく笑う。
「……これだけで満足ですか……?」
足りない。もっと血が──エキナが欲しい。
チロっと舌先を出し俺を煽るかの様に誘惑するエキナ。
普段の優しくて少し控えめな彼女からは、想像も付かない魅惑的な姿だ。
こんなの我慢出来る訳がない──
「……痛かったら言えよ」
「乱暴にしてくれてもいいんですよ。物みたいに扱って下さい……私がユウ君の物だって教えて……!」
「後悔するなよ……!」
エキナの体を抱き締め、狙いを定める。
俺は牙を剥き出しにして、エキナの首筋を遠慮無く血で溢れさせた。
吸い出し、喉を潤す。
ただそれだけで俺の細胞一つ一つが喜んでいるのを感じる。
「ぁっ……ユウ君……もっと、んっ……は、激しくして下さい……こんなんじゃ足りません……!」
そこまで言うなら、もっと戴いてや──
ふと、エキナの首筋から胸の谷間に集まった血溜まりが視界に入った。
血の記憶が頭を過る。
腹部を撃ち抜き、大量の血で濡れたメリア先輩の姿が。
──気が付くと俺の体は震え始めていた。
「……ハァ、ハァ……ユウ君……?」
抱き締めたまま血を吸うのを中断した俺に、違和感を感じたのだろう。
エキナは、ガタガタと震え始めた俺の顔を覗き込んだ。
「血が怖いですか?」
「……わ、分からないんだ……堪らなく血が欲しいのに、記憶が血を拒んでる気がして……」
段々と震えが大きくなり、エキナを抱き締める事も出来なくなりそうになってくる。
その時だ、エキナが俺の頭を血溜まりが出来た胸の谷間に押し付けた。
「ふぇひな!?(エキナ!?)」
バタバタと抵抗をするが、その豊満で全てを包み込むような感触に呑まれていく。
「ユウ君って本当おっぱい好きですよね」
「お、男はみんな好きだぞ」
「震え、止まりましたか?」
「!」
本当、敵わないよ。
エキナは俺を安心させる為だろう、思い出話をしてくれる。
「ユウ君、初めて会った時の事覚えていますか?」
「あぁ、お前に踵落としを喰らったよ」
「私、すっごくびっくりしたんですからね。でも、あれが私達の出会いだったんですよ。私の初恋の人はとってもえっちな人でした」
「お前なぁ今言う事かそれ?」
「はい。あんまり時間が無いのは分かっていますけど、これは今言う事だから言わせて下さい」
どうやら、エキナは思い出話がしたかった訳じゃないみたいだ。
彼女が口にしたのは俺の不安や恐怖を吹き飛ばす言葉だった。
「ユウ君との出会いは私の人生を変えてくれました。そして、これからもきっと変わっていく。その思い出全てをユウ君と歩んで行きたいです」
真っ直ぐに俺を見てちょん、と唇を触れ合わせた後、ぎゅっと抱き締めてくれた。
「さっきも言いましたが、ユウ君の重荷は全て私も一緒に背負います。だからどうか怖がらないで、怯えないで下さい。私の初恋の人はもっとカッコいい人ですから!」
もう、エキナの首筋から流れ出た血を見ても、震えは無かった。
一緒に背負ってくれる、ただそれだけでどれだけ救われるか。
「ユウ君、私は貴方が大好きです。愛しています。あの式場で私を連れ出してくれた、カッコいいユウ君をもう一度見せて下さい!」
返事は返さなかった。
言わなくても分かってるんだろ?
返事の代わりに、俺は再びエキナの皮膚を貫いた。
「ぁっ……そうです……もっと強く……!」
びくっと体を震わせて、俺の背中を掴むエキナ。
「ユウ君……私の血は美味しいですか……?」
「あぁ……もっと貰うぞ……!」
「ユウ君ばっかりずるいですね……」
エキナは俺の耳を舐めてきた。
這わせる舌は柔らかく、恐ろしく気持ち良かった。
「びくびくして……ふふっ……可愛いっ……ですよ……!」
うるさい奴だ。
少し大人しくしてて貰おうか。
「あっ!?ユウ君……そんなところ揉んじゃだめ……!」
エキナは体を限界まで震わせて、悶絶している。
「私……もう、だめ……です……ごめんなさいっ……ぁっ……んんっ……!!」
エキナはそのままぐったりと俺に全体重を預けた。
いつの間にか、穴だらけだった俺の体の傷は塞がり、体は魔力で満ち溢れている。
痙攣しながら、俺の体にしがみつくエキナの頭を撫でてお礼を言う。
「ありがとう、エキナ。行ってくる……!」
「……終わったらさっさと行っちゃうなんて、ひどい人ですね」
「ちょ、お前!分かってて言ってるだろ!?」
「ふふっ、ほーんと可愛いですよユウ君!」
「お前って奴は……」
俺達を囲う結界に手をかざし、人が通れるくらいの穴を開ける。
エキナを守る結界を壊さない様に、部分的に開けた穴を結界の外側から俺の魔力で塞いだ。
「エキナ、そこで見ててくれ。ルークを助けてやらないと」
「はい、後は頼みます。怪我をしたらすぐに戻ってきて下さい。また吸わせてあげますから」
「これ以上は駄目だっての。それじゃ、色々ありがとう。行ってくる!!」
「頑張っ下さい!!」
俺は魔力を脚部に溜め、ルークの元まで跳んだ。
──今行くぞ、ルーク!!
※
「ルークちゃん、これやばくない……?」
「ヒヒ……そうだねぇまさか天の矛の次は地の盾とは……」
あたし達の前方にはさっきまでの天の矛を搭載した戦艦はいない。
正確には動き出す前に、戦艦そのものを破壊したんだけど……
破壊した中から現れたのが鉄壁を誇るという巨大な自動魔人形──ユウの世界で言うところのロボットだった。
しかも、先程まで戦艦の底に付いていた天の矛が頭部に搭載されている。
一つ目の巨大な自動魔人形はあたしの攻撃を物ともしない。
大昔にもあいつには苦しめられたんだよネ……
「セレント!何か案はない!?」
「んー……とりあえずあいつほっといて周りの戦艦を屠るくらいしか……」
「そうだよねぇ……でも聖国の艦隊はもうアデラートが大分片付けてるっぽいし、結局こいつを倒さないと意味が無いんだよね……」
これはいよいよユウの魔力砲に頼るしか無さそうかな……
あたしも使えるけど魔力足んないし。
そこまで考えた時だった。
地上からとてつもない魔力の塊が接近して来ている事に気付いた。
「ユウ!!」
「待たせたなルーク!」
お読み下さりありがとうございます!
いよいよ第二部クライマックスになりそうです!
また次回もよろしくお願い致します!




