第18話 天の矛
「アデラート学園長、そろそろ限界です……!」
「そうだね……夕が間に合うかはギリギリか……」
アデラートは国が出した戦艦の中で随一の性能を誇る一隻に搭乗している。
そこに彼の予知を駆使して、たった50隻の王国の戦艦で、100以上をも越える敵艦を撃ち落としてきた。
しかし、それももう限界を迎えようとしていた。
「本当に弟君の到着で事態は変わるのですか……?」
「僕の弟だからね。ただ……」
「?」
アデラートはユウの魔力が不安定な事に気付いていた。
しかし、今はユウの力に頼るしかない。
アデラートは一緒に搭乗していたミラの方を見た。
「とにかく今は耐えるんだ。ミラ、指揮を頼む」
「はい。学園長もお気をつけて」
「あぁ」
アデラートは指を鳴らし、移動魔法を発動した。
移動先は──
「はぁい。聖国の皆さん人類最強の登場ですよ」
『!?』
──敵戦艦の中に、アデラートは単身で乗り込んだ。
聖国の訓練された兵達は、慌てつつも銃を構えアデラートを迎え撃つ。
「こちらは余裕が無いからね。手荒に行くよ──」
人類最強の男は床に手を付き、移動魔法を発動する。
すると、敵戦艦に居た筈の兵士達が消えた。
正確には、この戦艦とアデラートだけが移動し、中に居た兵士達は空中に放り出された。
「さて、次──」
魔力が尽きるまでこの方法を繰り返し、少しでも多くの敵を倒すのがアデラートの作戦だった。
空になった戦艦を相手にぶつけたりと、派手に敵兵を散らしていった。
王国の若い兵士は戦艦の中から感嘆の声を上げる。
「凄まじいですね……」
ミラは、微笑みながら「当然です」と答えた。
しかし彼女の顔はすぐに曇る。
もしも敵の戦艦の中にあの女がいたら、彼は正気を保っていられるか……
「どうかあの人を守ってあげて下さい、シーエルさん──」
だが、ミラの願いは届かなかった。
※
「これで15隻目と──!!」
アデラートが次に転移した艦内には、クイーンと名乗る"聖職者達"の幹部の女が搭乗していた。
クイーンの顔を見るや、その顔を歪ませて笑う。
「あらぁ?どこかで会ったかしらぁん?」
「覚えてなくていいさ、どうせ今から俺に殺されるんだからな!!」
アデラートは、普段の温厚な彼からは想像もつかない声量で、クイーンを威圧した。
「キャハッ、威勢のいい子ね。でもね私反抗的な目って嫌いなのぉ、まずはお目目から矯正してあげる!!」
クイーンはアデラートの右目を狙って拳銃を向ける。
当然アデラートはそれを予知し、銃を構える前にクイーンの背後に転移した。
「おいおい、後ろだぞ」
「! その転移の魔法……見覚えがあるわねぇ」
「散々痛い目を見させられただろうからな」
アデラートはクイーンの背中に手を当て、肺の方に魔力を流し込んだ。
「……っがっ……息が……!」
「今お前の肺を俺の魔力が満たしている。意識を失うギリギリで止めてやるよ」
アデラートを囲うように聖国の兵士が集まるが、クイーンを盾に一定の距離を保っている。
兵士達を見回し、クイーンの背に手を当てたまま銃を取り出す。
「お前ら何か余計な真似をしたらこの女の心臓を撃ち抜くからな」
「……卑怯だぞ!王国の人間め!!」
「……卑怯……?」
アデラートは兵士達を睨み、銃をクイーンの心臓の裏に強く押し付けた。
「この女が俺の親友に何をしたかも知らずに……こいつは俺の手で死ななきゃいけない人間だ!!」
「……そっそうかっ!……ハァッ、あんたあの時のっ……!」
クイーンの記憶に蘇るのは拷問の記憶──銀髪と黒髪の2人の少年を捕らえた数年程前の過去。
「どうやら思い出したようだな」
肺を塞いでいた魔力を解き、アデラートは後ろからクイーンの右の目蓋に手を近付ける。
「……ハァッ……ハァッ……」
「お前は"聖職者達"の中でも格別だ……シーエルが受けたら苦痛を味わわせてやる──」
アデラートは、そのまま眼球に指を食い込ませた後、何の躊躇も無く引き抜いた。
「アァァアアアアア!!!」
「シーエル……見ていてくれよ。今仇を討つ……!!」
──しばらくの間、艦内からクイーンの悲鳴が止まる事は無かった。
※
「ユウ君!見てください!」
「あぁ、すげぇ数の艦隊だな……」
エキナを抱え、王国の国境付近までもうすぐという所まで来た。
吸血鬼として強化された脚力を全開で走って来た為、少し疲れがあったが気にする間も無く着く事だろう。
しかしエキナをどうしたものか……
俺のそんな思考読み取ったかのようにエキナは胸元を光らせた。
「セレントちゃん!」
「精霊か、それなら安心だな」
セレントを喚び出すと、小さな妖精は俺の髪の毛の上に落ち着いていた。
そしてツンツンとあほ毛を引っ張っている。
「ちょ、お前引っ張んな!」
「ふんっ!」
出てくるやいなやご機嫌斜めだ……
「てか、エキナの方にいろよ!エキナが危ないだろ!!」
「あちしは怒ってるんです!エキナにあんたの重荷を背負わせて……!」
「……すまん」
「しっかりしなさいよ!あんたは英雄の生まれ変わりでしょう!」
こいつ……もしかして励ましてくれてるのか?
「あぁ……生まれ変わりかは知らないけどな」
「ったく!本当頼りないとこまでそっくりよ!」
「うっせ」
言いたい事は言ったとばかりにセレントはエキナの頭に移った。
「もうセレントちゃん。私はユウ君と一緒に背負うと決めてるんですから」
「あちしはエキナの事が心配なの!彼氏がこんなんじゃお母さんは不安なの!」
「誰がお母さんだよ……」
俺達が軽口を言い合っている間にようやく真上に戦艦が見える位置まで来れた。
「よしエキナ、思いっきりジャンプするからな。しっかり捕まってくれ」
「はい──あ、待って下さい!!」
「エキナ、ちゃんとスカート抑えなよ?熊さんが見え──」
「セレントちゃん!」
エキナは慌ててセレントの口を、いや体ごと両手で自分の頭に押さえ付けた。
「違います!あそこ、ルークじゃないですか!?」
「え!?」
エキナが指差した先には、翼を地面に広げ魔装を纏ったルークが倒れていた。
「ルーク!!!」
「ルークしっかして下さい!!」
「ルークちゃん!?」
ルークが持っているのは英雄の剣か……?
どうしてここに……
俺のそんな疑問はすぐに頭から吹き飛んだ。
彼女の元まで近付くと、足元が濡れている事に気付いたからだ。
──ルークから流れ出た血だ。
「……ルーク?お、おい嘘だろ……起きてくれルーク!」
「ルーク!!目を覚まして……!」
血溜まりにも構わず膝をつき、ルークを抱き抱えた。
俺の頭にあの光景が蘇ってしまう。
「……ルーク、お願いだ……お前まで失ったら……俺はもう──」
──俺の心が、エキナが繋ぎ止めてくれた心が壊れていく音がする。
エキナはルークの胸元に耳を近付けた。
「──心臓が少しですが動いてます!!」
「助けられるか!?」
「絶対助けます!!!」
ルークのケガの中でも一番酷い部分、腹部に手を当てたエキナはセレント方を向く。
「セレントちゃん!私に魔力を!」
「あいよ!──ありったけ行くよ!」
「はい!!」
エキナの周囲が光り輝く──
「まぶし──」
ルークから流れ出ていた血は、時間を巻き戻すかの様にルークの体に戻っていく。
俺が最後に見えたのはそんな光景だった。
徐々に光が収まると、ルークに集まっていた奇跡の光の余波が、荒れた大地に花を咲かせ始めていた。
「すげぇな……」
あまりの生命力に驚いていると、ルークが目を覚ます。
「……ユ……ウ……?」
エキナの腕に抱かれたルークの手を取る。
「ルーク……!どうして……!?」
「ヒヒ……ちょーっと無茶しちゃった……」
「あんまり心配させないでくれ……」
「心配してくれたの……?嬉しい……」
「馬鹿野郎……!」
元気が無さそうだが、とりあえず事情だけ聞いておかないと。
「ルーク、一体何があったんだ!?」
「う、上……あれはヤバいヨ……」
「……上?」
俺達が上空を見上げると、空には沢山の戦艦の中に、巨大な瞳の様な兵器を取り付けた戦艦が浮いていた。
「なんだあれ……?」
「天の矛……聖国はそれを戦艦に取り付けたんだよ……」
「天の矛!?聞いた事もないぞそんな兵器」
疲れ果てたルークに代わり、セレントが答えてくれた。
「あれはね、太古の昔禁忌とされた魔術の一つだよ」
「あれが魔術だってのか……?」
あまりにも不気味なそれは、ずっとルークを睨め付けている。
ちょっと待て、何か黒い魔力が集まっていってるぞ……?
「お、おい、あれまさか砲撃してくるのか?」
「ヤバい……!みんな離れて……!!」
「クソ!!」
大きな瞳をより一層開いて、ドス黒い魔力が俺達に迫る──
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