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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第一部 異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。
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第3話 ダンジョンへ


 エキナと仲良くなってから一週間が経った。

 彼女と過ごす一週間は本当に楽しかった。

 いよいよダンジョンへと潜る前日、寝付きが悪かった俺は、入学式後すぐに学園長室に呼ばれた時のことを思い出していた。


「さて夕。いよいよこの学園に入学してきたわけど、意気込みはあるかい?」

「そうだな、まず俺はこの学園でお前を涙目にしてやると決めている」

「威勢がいいねェ!でもね、お前じゃないよ、お兄様だよ、おとうと君?」

「楽しみにしとけよ、クソ兄貴」


 なんでこいつの顔を見ているとこんなに腹が立つのだろう。この世界で生きる道をくれたことに感謝はあるが、こう生理的に腹が立つんだ。病気かな?


「冗談はここまでにしよう。今日呼び出したのは君に伝えておくことがあるからだ」

「なんだよさっさと言えよ」


 塩対応の俺に構わず、ケラケラ笑ながら伝えてくる。


「冷たいねェ。いやまぁ少し注意事項があるだけだよ」


 軽く咳払いをして喉の調子を整えたアデラートは、笑みを消し脅すかのように睨み付けてきた。


「決して血を吸うな」


 相変わらず恐ろしい殺気を放ってくるな。もう慣れたけどな。


「吸血鬼に血を吸うなって無茶苦茶だな」


 おどける俺に、アデラートは心配するような顔を覗かせている。


「一度血の味を覚えた吸血鬼は段々と吸血衝動を抑え切れなくなる。それも君は真祖の吸血衝動だよ、甘くみちゃダメだ」

「そんな脅してくんなよ、わかったよ血は吸わない。吸血衝動ってのに刈られたこともないしな。」


 それでもまだ不安なのか、らしくなく不安な顔をしている。


「ホント、頼むよ?」

「大丈夫だってば。そんで他には?」

「……まぁいいか。2つ目だけど、学園生活は大人しくしててくれよ?」


 好んで目立つ趣味はないが……


「自分から暴れることは無いって」

「……その言葉忘れることのないように」


 なんなんだよ、ったく。

 しかし、俺に目立って欲しくないのかぁ……そうか、ククク。


「ちょっと?今なに考えたの?」

「いえ、何も」


 危ない危ない、顔に出ていたか。


「あと3つ目だけど、これは僕が聞きたいことなんだけどね」

「何だよ」

「あっちの世界の両親は元気かい?」

「なぜにお前にそんなことを聞かれなきゃならんのだ」

「ただの質問じゃないか」

「……兄弟揃って居なくなって泣いてるかもな。少なくとも、俺が最後に見た時は超元気だったよ」


 俺には4つ離れた兄がいたが俺がこの世界に来る遥か前に交通事故で他界している。

 本当に親不孝な息子達だったよ。


「そうか」


 その声色から感情は読み取れなかった。


「そうだ、夕」

「ん?」


 なんだ?まだ何かあるのか?少しだけと言ってだらだら語り出す奴は嫌いだ。あぁ、こいつのことはそんなことが無くても嫌いだけどね。


「本当に死にたくなったら僕の所へおいで。死ねないってのは辛いからね。僕が殺してあげるから、そんだけ」


 ……なんて物騒な奴だよ、真祖の力を受け継いだ俺を殺せるのかよ。まぁ、そんなことより──


「失礼します」


 頭を下げながら俺の顔はニヤつきが止まらない。

 ──この4ヶ月の恨み、どうして晴らしてくれようか。

 


 夕が退出し、アデラートは隣にいる秘書に声を掛けられる。


「学園長」

「お、初台詞が僕とは光栄だね」

「ふざけてないでちゃんと聞いて下さい。──これで良かったのですか?」


 アデラートは瞳を閉じる。

 目蓋の裏に映るのは、彼だけが視える風景。


「貴重な聖者の弾丸を1発消費してまで、彼女を引きずり出す必要があったのですか?」

「もちろんさ。それに、持ってる弾丸はまだ3発残ってる」

「それならいいのですが」

「不安かい?大丈夫さ」


 アデラートも学園長室を出ようと扉に手を掛ける。


「ミラ。全ての事は僕の予知通りに進む」

「承知しております」


 仏頂面のミラ・イル・ルーデランドは微かに微笑んだ。



 吸血姫ルーク・エリザヴェート。

 彼女は現在、滝川夕の使い魔として彼の血の中に潜んでいる。


 この世界では、魔族は人間の血の中に潜むことで魔力を供給してもらうことを対価に主従の契約を結ぶことがある。

 遥か昔、魔族は魔力を回復する術を持たず、人間を食らうことで魔力を回復していた為、人間と魔族の間には決して相容れぬ溝があった。


 太古の英雄は、自らの命を懸けてこの溝を埋めた。


 人間も魔力を持つが、魔族と違い消費した魔力を回復することが出来た。

 人間の魔力は血の中に存在する。


 魔力=血なのだ。


 魔族は失った血液を作り出す器官が存在しない。その分、魔法を行使する際の魔力の消費が人間に比べて極めて少ない。

 人間も魔法を使えるが、失うのは魔力であり、血なのだ。魔族よりも燃費が悪い人間には魔族が使うような大きな魔法は使えない。

 

 主従の契約は世界に広がり、魔族は高位の魔法を、人間は魔力を提供する。こうして共存することが出来るようになった。

 英雄は主従の契約を初めて行った者であり、契約した相手は現在、滝川夕の血の中で眠っている。彼女は少なくとも1年は目覚めないはずだった。


 ──アデラート・ジル・リレミトはそう予知し、またそうなるのが最善だと判断した。


 アデラートの予知は外れないし、この世界で彼の力を越える存在はいない。


 吸血姫が人間にその力を託さなければ。



「ダンジョン攻略だぁーーー!!!」

「が、頑張りましょう!」

「ユウ、お前そんなキャラだったのか?」


 俺達は今、学園から約2km離れた所にあるダンジョンを目指し、てくてく歩いている。

 同行するのは、エキナと、レオン・デル・ハーミット。

 学園で出来た数少ない友人達だ。もう友達がいないとは言わせない。

 人数はバラバラだが、周りには俺達と同じ様にパーティーを組んだ学園の生徒達がいる。


「俺は昨日ワクワクして全然寝付けなかったんだ」

「お子様だなぁ」

「ユウ君って学園長の弟さんとは思えないですよね」

「いやこいつはちゃんとその血を継いでるぞ?」


 おい。

 こいつはこの世界の人間だから分からないのか?

 リアルに冒険ができるってワクワクするじゃん!

 ようやく異世界らしいことをしているなぁ。


「てかそれより俺この子のこと何も知らないんだが……」

「そ、そうでしたね!すみません……」

「おい、怖がらせるなよ」

「あぁわりぃ。俺はレオン。レオン・デル・ハーミット、よろしくな」

「エキナです。こちらこそよろしくお願いします!」


 エキナは俺達にペコリと頭下げている。

 やっぱレオンはいい奴だ。

 平民のエキナにも偏見がない。

 そのレオンが俺達に問い掛ける。


「そろそろダンジョンに入った時の動き方について確認しておかないか?」

「そうだな。縦に並んで前衛がレオン、真ん中にエキナ。最後に俺でいいか?」

「エキナちゃんが真ん中はもちろんだ。けどお前、俺を一番危険な配置にするのに迷いが無かったぞ?」

「え?当たり前だろ?ヤだよ、一番前なんて」

「テメェ……」


 睨み合っている俺達を、エキナはあわあわしながら仲裁しようとしてくる。


「あ、あの、私が前衛行きますよ!」

「いいんだ。レオン君の犠牲で俺達が助かるんだ。安いもんだろ?」

「ホントいい性格してやがる……」


 文句を言いながらも結局先程のフォーメーションで落ち着き、いよいよダンジョンの入り口に着いた。

 先頭にいる引率の教員が俺達学園の生徒に準備をするよう声を掛ける。


「皆さん、いよいよダンジョンに突入します。いち早く用意を済ませるように!」


 一流の冒険者は、準備すらも早く丁寧に終わらせるものだと続けた。


「準備を終えたパーティーから順番に入って行って下さい。3階層のモンスターを各個撃破し、核を持ち帰ることで今回の単位とします」


 モンスターとの戦闘があるのか。

 まぁ俺は死なないらしいし、いざとなればレオンとエキナは逃がせばいい。


「それと、3階層より下の層は本当に危険なモンスター揃いです。気を付けるように!」


 以上で注意を終わりますと告げられた後、続々と生徒達がダンジョンへ突入していく。

 俺達も剣や鎧はしっかり身に付けて、準備完了と言った所だな。


「さて、俺達も行きますか!」


 意気揚々と、出発しようとしたところで前方に鬱陶しい連中がいることに気付いてしまった。


「やぁ、君達も今から攻略開始かい?」

「あら、平民。男を2人も捕まえてパーティーを組むとは。そのいやらしい体を使って籠絡したのかしら?」


 ニヤニヤと金髪縦ロールが王太子であるオリウスや取り巻きを連れてやってくる。

 エキナがびくっと肩を震わせ、俯いてしまったじゃないか。


「ディセート、みんな仲良く。ね?」

「殿下はお優し過ぎます。本来、平民などこの場にいていいはずがありませんというのに」


 優しく咎めるオリウスは度量の広さを見せ付けるが、注意するなら二度と関わらない様に言ってやってくれ。イライラする。


「ごめんね君たち。僕からもちゃんと注意しておくから」

「僭越ながら、それならばもう関わらないように言っておいてくれませんか?」

「なっ!?」


 ディセートと呼ばれた金髪縦ロールは俺の不遜な物言いに驚愕と同時に怒りを滲ませていた。


「さすがあの男の血筋ですわね。躾のなっていない……」


 親指の爪を噛み、俺の方をキッと睨みつけてくる。


「私ごときの事を知って頂けているとは誠に恐縮ですね」


 ニヤっと笑い返してやる。

 オリウスもまさか王太子である自分に、こんな無礼なことを宣ってくる奴がいると思わなかったのだろう、言葉に詰まっている。


「えっと……ま、まぁ僕らが悪かった。謝る。そうだ、今度仲直りに交流会でも開こうじゃないか」


 こいつ頭の中にお花畑でも詰まってるんじゃないのか?


「いやいや、あんなにイジメられてるのに本気で言ってんのか?」

「ま、まぁディセートにはディセートの考えがあるんだよ」

「エキナに手を出すなら──」


 言い掛けた所で後ろにいたレオンに肩を捕まれ、耳打ちをされる。


 (そこまでにしとけ。目立ってるぞ)


 ダンジョンにも入らず、引率の教員も含めて皆俺達の様子をこそこそ話しながら見ている。


「ちっ」


 レオンは俺の前に出て、オリウスに頭を下げる。


「俺の連れが失礼しました殿下。交流会の件非常に嬉しく思います。しかし、我々はしがない貴族の跡取りでございます。我々が参加しては殿下の評判に関わるかと」


 流暢に語りだしたレオンは、エキナを気遣ってかやんわり交流会への参加を断ってくれる。

 だが、ディセートがニヤついた顔で割り込んでくる。


「あら、殿下のせっかくの申し出を断るつもり?」

「身分というものを弁えておりますので」


 さらりと嫌味を挟みやがった。食堂での件、こいつも怒っていたのかもな。


「……ふん。しかし、ダメですわ。殿下のお誘い断るというのは殿下の顔に泥塗る行為ですわ」

「メンツ云々は置いといて、僕もみんなと仲良くしたいしさ、今回のお詫びも兼ねてるんだしぜひ来てよ!」


 レオンが苦い顔していたがここまで言われては断りきれないのだろう。


「また招待状でも送るよ。それじゃ、お互いダンジョン攻略頑張ろうね!」


 オリウスは笑顔で別れの挨拶を済ませると、連中はダンジョンへと向かった。

 ディセートはこちらを見もせず、周りの取り巻き達は去り際にこちらを見て凄い顔で睨んでいた。


「……お二人とも、私のせいですみません」

「エキナちゃんは悪くないって。こいつが変に突っ掛かるから」


 レオンはやれやれと首を振る。


「悪かったよ。ほら、あいつらも行ったし俺達も行こうぜ」


 出鼻を挫かれたがようやくダンジョンに入れるな……

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