第11話 ヤダ
「まさか沈没する護送船に忘れ去られるとは思わなかったよ」
無事に学園長室に集まった俺達はオリウスとレオンから冷たい視線を浴びていた。
「だから悪かったって。お前らこそどこに居たんだよ」
「俺達はあのゼンデンとかいう奴が部屋から出て行ったからそこに隠れてたんだよ」
「お前らが一番潜入任務をこなしてたんだな……」
真面目に潜入していたとは。
暴れ回ってちょっと申し訳ないな。
オリウスは「まぁ終わったことだ」と、この話を終えてくれた。
「それより、結局どうなったんだい?」
「それは僕から話しましょう殿下」
アデラートは任務を終えた俺達全員にこの国で行われた会議の結果を教えてくれた。
「──結果として、この国はエキナ君を守る方針となった。良かったね」
「……はい!ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げるエキナ。
「そして今後だが、間違いなく聖国はエキナ君を取り戻そうと戦争を仕掛けて来る」
「……だろうな」
アデラートは少し神妙な面持ちで続きを話した。
「今回の会議でこの国の汚職貴族達が大勢投獄された。この国の戦力は大幅に低下しているから学園の生徒達からも兵を募るだろう」
「そこで俺達にも参戦しろと言うんだろ。元からそのつのりだから安心しろよ」
「人を大勢殺める事になる。……大丈夫かい?」
珍しく本気で心配しているように見えた。
大丈夫。覚悟はもう出来てる。
「ルークやメリア先輩にもう発破を掛けて貰った。大丈夫だよ」
「ならいいさ。あ、そうだ」
アデラートはエキナの方を向き、思い出した事を伝えた。
「先生──王妃様にもお礼を言ってあげてくれ。あの方が随分君を気に掛けていたから」
「分かりました。必ずお礼をしにいきます」
しかし、エキナがレインさんに会うのは中々難しそうな……?
俺がそう思ったタイミングでオリウスが何かを閃いたのかある提案をした。
「そうだ、打ち上げでもしないかい?」
「おぉ、いいんじゃないか?」
「以前君達を招いてパーティーをするとも言ったしね。いい機会だぜひ今夜にでも開こうか!」
オリウスは言うやいなやさっさと部屋を後にした。
去り際に、時間と場所を伝えてきた。
「時間は夕方6時頃に王宮に来て!ドレスとかはこちらで用意するから手ぶらでいいよ!」
「え、お前それ結構ガチのパーティーじゃ……」
「それじゃ!!」
「お、おい!」
やばい、なんか緊張してきた。
まさかあいつ国のお偉いさんとか呼んだりしないよな?
不安だ……
「さて、君達は一度寮へ戻るといい。少し眠った方がいいよ」
「そうするか……疲れたしな。それじゃ皆、また後で」
俺達は別れの挨拶済まし、それぞれの寮へと戻った。
俺もルークと一緒に自室に戻ろうとすると、エキナが声を掛けてきた。
「ルーク、ちょっとユウ君をお借りしてもいいですか……?」
「……ダメ、あたしも一緒じゃないとヤダ」
「ルーク……可愛いですよ」
「……も、もう」
ルークがエキナの言葉に顔を真っ赤にしている。
あらやだ。またホワホワした気分に……
「ならルークも一緒に私の部屋に来てくださいませんか?」
「分かった」
俺達はそのままエキナの部屋に向かう事となった。
※
エキナの部屋に入ると、座布団を用意して俺とルークをベッドの前に座らせた。
エキナも同じように座り、3人で円を作っている。
「まずは2人共、本当にありがとうございました」
「よしてくれ、勝手をやったのは俺達なんだ」
「そうだネ。あたし一人でも連れ戻すつもりだったし」
エキナは本当に嬉しそにもう一度俺達に礼を言った。
そして、俺達をここに呼んだ理由を語った。
「それで、ここに来て貰った理由なんですけど……」
「あぁどうしたんだ?」
「──セレントちゃん」
エキナは未だにウエディングドレスのままで、大きく開いた胸元の紋章輝かせた。
「はーい、どうしたのー?」
エキナと契約している精霊、セレント呼び出した。
「あ、セレント久しぶりだネ」
「ルークちゃん……本当に久しぶり……!!」
セレントは涙を流しながらルークの頬っぺたに擦りついた。
「良かった……生きてて……!」
「ヒヒ、あたしはそう簡単には死ねないんダヨ」
「あのー感動してるとこ悪いんだけど、どうしてこいつを?」
「ゲッ、ニセマーネ」
誰が偽物だ!
ツッコもうかと思ったが話が進まなさそうなので、エキナに理由を聞いた。
「それで、エキナどうして?」
「聖女の力に目覚める方法を聞きたくて」
『!』
そう言えばすっかり忘れていた。
セレントにはそいつを教えて貰わなきゃいけなかったんだ。
「エキナ……あちしはこの方法をやって欲しくはないの」
「それでも私はユウ君を、ルークを──皆を守れる力が欲しいです……!」
「……分かった。教えるよ……」
セレントは、語り出した。
聖女の力に目覚めるその方法を。
「聖女には、負荷を掛ければ掛けるだけ負の力を蓄えていくの。そしてそれを浄化する事で奇跡の力を振る舞えるようになる」
「だから私に聖国に行って負荷を……」
「そうよ、でも徐々にやらないと聖女そのものが壊れちゃうの。そのギリギリのラインを聖国は知ってるんだよ」
つまり、そのラインを考えなければ聖国に行く必要はない。
エキナにそんな負荷を掛けたくはないが……
「でももう聖国には行けない。だから──」
セレントは俺とルークの方を見て、本当に嫌そうに言う。
「──負のエネルギーの塊である吸血鬼、それも真祖の魔力を注ぎ込めば条件は満たせる」
「えっ、めちゃめちゃ簡単じゃないか!」
俺がそう言うとセレントだけじゃなく、ルークからも睨まれた。
「ユウ……エキナの血を吸いたいだけじゃないよネ?」
「いやいやいや!それならルークがやればいいじゃん!」
「あたし、血を吸うのは得意だけど注ぐのは苦手なの。ユウもよく知ってるでしょ?」
「あ、あぁ……そう言えばすっげぇ痛かった……」
そうだ、この世界に来た時気絶するくらい痛かったんだ。
やるならまだ俺の方がマシか……?
「それに、エキナもユウの方が嬉しいだろうからネ」
「そ、そんなことは……ルークがしてくれても嬉しいですよ」
「エキナ……もぅ……また今度吸ってあげるから」
「あ、あんまり痛くしないで下さいね」
恥ずかしそうにお互い目を合わせたり、外したりしている。
おぉ……顔が熱い……何故だ。これが百合の良さなのか!?
「……もういい?説明を続けるよ?」
「は、はい!」
「あちしがこの方法をしてほしくないのは一歩間違えれば、エキナが吸血鬼になってしまうからなんだよ」
そうだ。真祖の力を注ぎ込まれた俺は見事吸血鬼化している。
注ぎ込む量を間違えたら終わりだ。
「それに、聖女が吸血鬼化したら恐らく聖女の力は失われる。そんな方法、精霊が教える訳にはいかなかったのに……」
「これで余計に俺がやるしか無くなったか……」
俺はエキナの方を向き、必要は無いだろうが最後に確認する。
「エキナ、本当にいいんだな?」
「はい……!もし吸血鬼になってもユウ君とルークと一緒だと思うとそれはそれでいいかなって」
「お前なぁ……」
俺はエキナの方を見て、嬉しそうのニッコリ笑っている彼女の頭をポンポンとしてやった。
すると、座っている俺の膝に何かが乗る感覚があった。
「……ん」
「はいはい、ルークもだな」
「よろしい」
俺の膝の上で頭を撫でるように甘えてくるルークは、正直めっちゃ可愛かった。
「ルークばっかりずるいです!」
「ヒヒ、甘いネエキナ」
「むぅぅ~……」
むくれているエキナもすっげぇ可愛い。
両手で彼女らの頭を撫でていると、部屋の中にノック音が響いた。
『お~い、イチャイチャしてるとこ悪ィんだけど殿下から伝言だ』
外から聞こえたのはレオン声だった。
俺は2人の頭から手を離し、レオンの方へ向かった。
「断じてイチャイチャはしてないが、オリウスが何だって?」
「女子の部屋から出てきておいてよく言うぜ。ほい、招待状だ」
「あいつ、恐ろしく仕事が早いな」
俺はレオンから、3枚の招待状を受け取りそれを開けた。
「お、おい……参加者の名前に……」
「あぁ国王と王妃様、公爵家とか色々来るから、楽しみしててって殿下が言ってたぞ」
「あのアホ王子が!!こんな緊張させられる式にするんじゃねぇー!!」
一応俺って伯爵様だから色々ご挨拶しなきゃならないだろう!?
やっぱりあのアホ王子は一回殺そう。
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