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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第一部 異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。
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第2話 選択肢2


 さて、かくして最強らしい吸血姫ルーク・エリザヴェートと出会った俺、滝川夕はこの世界に来てから4ヵ月が経ち、現在ユウ・ジル・リレミトと名前を変え、銀髪のアデラート学園、学園長のアデラート・ジル・リレミトの弟として彼の実家である、リレミト家で厄介になっていた。


「あぁ……ユウ、もういってしまうのね……」

「レミア、彼も困ってしまうだろう。こういう時は笑顔で送り出してやるもんさ」


 今日から俺はアデラート学園に入学することとなった。

 不死身の吸血鬼となった俺は、容姿が十代後半の頃くらいになっていた。

 学園に通えるようになるのが16歳からなので、丁度高校生って感じだろう。

 制服もちょっとおしゃれな高校生って感じだし。


「お二人とも4ヵ月間お世話になりました。また顔を出しに来ます」


 ペコリと頭を下げ、お礼を言うと養父であるアルベルト伯爵は俺の両肩に手を置きにっこりと微笑みかける。


「いつでもおいで。短い間だったが、私達は君を本当の息子だと思っているのだから」

「ありがとうございます。貴方達のような素晴らしい両親からあのゴミが産まれたのが本当に残念でありませんね」

「ハハハ、君には迷惑かけたな……いやァ本当に……」


 遠い目でどこを見ているんですか。


 早い話が、この4ヶ月この世界の常識や、吸血鬼となってしまっていたらしい俺に、必要な戦闘技術を叩き込まれていた。

 あの軽薄な男にだ。

 あの野郎教え方はテキトー、おまけに戦闘面では無茶苦茶しやがった。

 詳しくは語りたくないので、察してくれ。

 あいつには痛い目を見せてやる、それだけは宣言しておこう。


「ゴミ掃除は任せて下さい!それじゃ、行ってきます!」

「あぁ!ユウ……!やっとできたまともな息子がぁ……!!」


 養母であるレミアさんは、本気で泣いていた。

 安心して下さい、あの野郎には俺が天誅を下してやる!



 アデラート学園入学式も無事終わり寮生活を始め、一週間が過ぎようとしていた。

 なぜ俺は異世界にまで来て、二度目の高校生活を送っているんだろうね、全く。

 しかし、この一週間で俺は何と友達を作ることに成功していた!

 前の世界の高校生活?ハハ、聞くなよ。

 まぁ友達と言っても1人だけどね。友達って達って付くから複数いない俺には友達はいないとか抜かす奴は俺が叩きのめす。


 そんな貴重な友人と、食堂で昼食を食べていた。

 食堂と言っても、まるで高級レストランのような佇まいだが。


「なぁ、ユウのお兄さんが学園長ってマジ?」

「本当だよ。それがどうかしたのか?」


 冷や汗を流しながら、コソコソと話し掛けるこいつはレオン・デル・ハーミット。

 茶髪で俺より少し背の高いいわゆるイケメンだ。なんだこいつムカつくな。

 この学園にはほとんど貴族しかおらず、そのほとんどが腐った連中で、レオンは数少ない優良貴族家の出身だ。

 そう言えば、今現在通っている平民は確か一人だけだったか……?


 おかげで、ごく僅かの平民はこの学園での扱いは良いとは言えない。

 まぁ、よくある話だろうが直面すると中々胸糞悪い。


「……お前、狙われているぞ」

「オーケー、クソ兄貴様関連だな」


 あの銀髪、色んな貴族様連中に恨みを買っているらしい。

 この一週間、あいつのせいで二桁は喧嘩を売られている。


「ユウがやたら絡まれるから何事かと思ったら、家名が一緒だもんな。驚きだよ」

「俺としては非常に不本意だけどな」

「良く言うよ。お前、絡んできた相手を徹底的に痛め付けてるだろう」

「俺は、やられて黙っていられる程人間出来てないからな」

「最悪の血筋だって話題だぞ。ちょっとは大人しくしろよ。来週、ダンジョンに入るんだからさ」


 この学園には、冒険者として経験を積む授業がある。

 何百年も昔、魔族と人間との戦争を一人の冒険者が止め、後に彼は英雄と呼ばれた。

 そんなありふれた昔話だが、これは実際にあった話らしく、以来この世界では冒険者という職業を神聖なものとしており、貴族は皆その肩書きに冒険者と刻む為に、日々精進しているらしい。

 もはや、職業と言うより資格に近いイメージだな。


「そんな肩に力入れるような内容じゃないだろ?潜る階層も浅い所なんだし」

「お前、妙に肝が座ってるよな。命って一つしか無いんだぞ?初めてのダンジョンで死ぬやつだって0じゃない」

「極めて非常に不本意ながら、あのバカの弟だからな」


 ……俺が、自分の命を軽んじていると思われてしまったのは、俺が本当に死にたくても死ねない体になってしまったからかもな。

 俺達が駄弁っていると、食堂の中央に人が集まっているのに気が付いた。


「貴女、誰に断ってこの食堂利用しているの?」

「す、すみません……」

「殿下もご利用される場所に、貴女の様な平民が居たのでは食事も不味くなってしまうというものだわ」


 なんだあのいかにもなイジメは。

 というか、責められているあの子。

 前髪を右目にかかるように切り揃えたグレーの髪で大きな胸……

 あぁ、俺がこの世界に来た時後ろでこけていた黒のレースちゃんだ。


 それにしても、平民だから食堂を使うなって本当胸糞悪い光景だな。

 金髪をド派手に縦にロールさせちゃって、何年前のお嬢様だよ。


「そうよ!殿下のご迷惑になるとわからないの!」

「これだから平民は」

「あなた、自分の立場ってものが分かっていないみたいね?」


 周りに取り巻きを連れて、黒レースちゃんを威圧していた。

 すると、食堂の出入口が開き、入ってきたこの国の王子様。

 こちらも数人の取り巻きを連れた連中が仲裁しにきた。


「み、みんな落ち着こう?」


 少し冷や汗を流しながらも、颯爽と登場したのは、やや薄目で短めの金髪を爽やかに流した、ハイスペックそうなイケメンだ。

 この国の王位継承権第一位の正真正銘の王子様である。

 彼の姿を見た金髪縦ロールは、腰から頭を下げ丁寧に謝罪する。


「これは、オリウス殿下。見苦しい場面をお見せしてしまい申し訳ございません。」

「それは構わないけど、この状況は……?」

「いえ、この平民が身分も弁えず殿下と同じ空間で昼食を食べようとしていましたので、直ちに退席するようにと、注意していたまでです。」

「そんなことしなくていいよ!」


 へぇ、腐った貴族だらけのこの国のトップは、どうやらまともな価値観をもっていそうだな。


「ご飯くらい皆で仲良く食べようよ。ね?」

「殿下がそう申されるのであれば」


 黒レースちゃんや周りに優しく微笑みかけるオリウスは、爽やかにその場を鎮めていた。

 あれがイケメンパワーである。

 しかし……


「殿下は非常にお優しいの。調子に乗るんじゃありませんよ?」


 オリウスには恐らく聞こえていないだろう声量で、黒レースちゃんに捨て台詞を吐く。

 ま、だろうな。

 イジメと言うのは皆仲良くしましょうなんて言葉じゃなくならない。

 あの王子様はその辺り分かっていないようだが……


 ちなみに、俺は吸血鬼になってから五感が鋭くなってしまい、嫌でも彼らの会話が聞こえてしまうのだ……

 基本的な肉体性能も桁違いに上がっていた。ろくでもない体になったもんだよ、便利だけどさ。


「はい……」


 完全に萎縮して、ずっと俯いている彼女はオリウス連中が離れて行くと、涙を浮かべながら食堂から出ていった。


「やれやれ……」

「おい、ユウ!あの子を追いかけるつもりか?」


 無駄に鋭い奴め。


「昼食も食べきらずに……あの子に手を貸してもお前にメリットはないぞ」


 俺を気遣っているのだろう。いい友人を得たみたいだな。


「美少女とのフラグを立てに行くだけさ」

「お前のことは何だかんだいい奴だと思い始めていたんだけどな……」


 何でそんな残念そうな顔をするんだよ。

 


 この学園の中庭は、あまり人通りが多くなく、ぼっちが休憩するにはもってこいの場所なのだ。

 そこでは、先程の黒レースちゃんがベンチに座り、俯きながらコッペパンを食べていた。


「や。4ヶ月振りだね」

「あ、貴方は!」


 お、覚えていてくれたみたい。ちょっと嬉しい。

 すく、と立ち上がった彼女は俺を指差し大声で叫んだ。


「面接の時、急に現れたどへんたいさん!!!」

「おいぃーー!!今すぐその口を閉じろぉぉぉ!!!」


 このアマァ!とんでもないことを大声で口走りやがって!!

 人通りは少ないだけで0じゃ無いんだぞ!?

 慌てて彼女の口を手で塞ぎに行くと、コッペパンでブロックされた。


「ふ、甘いですね。こう見えても身体能力には自信が……あ、ふぇ?」


 俺から距離を取ろうと、ベンチがあるのにステップバックしたため、思いっきりベンチの背に足を引っ掛け、尻餅を付きまたしても柔らかそうな太ももの付け根まで、大胆にさらけ出していた。

 ベンチの後ろの彼女を上から覗き込んでしまったが、これは男ならば仕方ない。不可抗力だ。


「ふむ……今日は熊さんか。なるほど、この前のあれは勝負下着だったのか」

「ひゃうぅ……」


 顔を真っ赤にして涙目で俺を睨んでくる。

 おぉ、変な性癖に目覚めてしまいそうだ。恐ろしや熊さんめ……


「そ、その、大丈夫か?」


 足元から目線をずらし、手を差し伸べる。


「……ありがとうございます」


 素直に俺の手を取り、とりあえず俺達は拳3つ分くらいの距離を空け、ベンチに座る。


「……あの、何をしにきたんですか?」


 警戒されているな……当然だけど。ジト目で見てくるなよ……


「いや、その大丈夫かなって思ってさ」

「お尻はとても痛いですが、私が失った羞恥心に比べたら安いものです」

「……それはごめんね。でもそっちじゃなくて、食堂での件だよ」

「!  見ていたんですか……?」


 びくっと体を震わせてまた俯いてしまった。


「あいつらに目を付けられているのか?」

「はい……でも仕方ないんです。私、平民ですから」


 無理をして笑うなよ、相当に参っているな。


「それにしてもお前どうして食堂に?こう言っちゃあれだけど、あぁなるのは分かってただろ?」


 彼女はずっと俯いている。


「寮の私の部屋に手紙が置いてあったんです。必ず来るようにと……」


 ……性根の腐った奴らめ。

 「自分がこんなに嫌われるとは思ってませんでした」と困ったように笑うが本当に辛そうだ。

 そんな彼女は、俺がここに来た時から思っていただろう疑問を口にした。


「……あの、どうして私に構うんですか?私に優しくしても良い事なんてありませんよ……?」


 俺が何故追い掛けてきたのか、彼女には分からなくて当然だ。

 俺ははぐらかすように答える。


「同じ学校の仲間だろ?俺は生憎、貴族がどうのとか興味ないんでね」

「仲間……ふふっ平民の私をそう呼ぶなんて変な人ですね」

「熊さんに言われたくないね」

「む、むぅ……」


 再び、顔を真っ赤にして俺を睨んで来る彼女はとても可愛いらしい。

 しかし、すぐに表情が曇る。


「私、この学園に居てもいいんですかね……」

「当然だろ?それに、やりたいことがあってここに来たんだろ?」


 言い方は悪いが、平民がこの学園に入学して来るなど、大きな目標が無いとまずあり得ないことだった。


「私……この学園で沢山勉強して、いつか冒険者になりたかったんです……」

「なればいいじゃないか」

「無理ですよ。周りの方はみんな貴族の方達です。誰もパーティーを組んでくれません」


 命懸けでダンジョンを攻略する冒険者は、パーティーで行動するのが基本だ。ソロで挑む馬鹿はこの世界にはいない。


「私、そんなことも知らずに夢だけ見てこの学園に入学したんです」


 彼女は段々と涙がこぼれ始めていた。


「みんなに……迷惑をかけて、このままじゃ夢を応援してくれたお父さん達に合わせる顔がありません……」


 太ももの上に置いていた拳をぎゅっと握り込み、大粒の涙を流す彼女はとても見ていられなかった。

 言っておくが、俺に優しい言葉で慰めるカッコいい男を期待するなよ?それでも──


「……来週さ、ダンジョンに挑むだろ?俺とパーティーを組まないか?」

「……え?」


 泣き腫らした顔で俺を見上げた彼女は、驚いたように俺を見上げた。


「俺もさ、友達全然居なくてメンバー探してたんだよ。迷惑か?」

「い、いえ!!でも、どうして私なんかを……?」

「……俺が変態じゃないと証明する為だ」

「えっと……それは難しいかと……」


 困ったように言ってくるなよ、悲しくなっちゃっただろうが。


「ふふっ、本当におかしな人ですね」


 ──この子には笑っていて欲しい。


「そう言えばまだお名前を聞いていませんでした!私はエキナと言います、貴方は?」

「ユウだ。ユウ・ジル・リレミト」

「ユウ……ユウ君ですね!これからよろしくお願いします!」


 ニッコリと眩しいくらいの笑顔を見て俺はこう思うのだった。


 (フラグ立ったんじゃねぇの!?)

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