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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第一部 異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。

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第13話 ルーク・エリザヴェート


「貴様らァァ……八つ裂きにしてくれる!!」


 完全に頭に血が登ってるな。

 右腕を失い、ルークの強烈な一撃を喰らったのに、まだ立ち上がるのか……

 しかし、奴特有の両手を叩いて発動する魔法はもう使えまい。

 

「往くぞ……!!」


 地を蹴り、猛烈なスピードで突進してきやがった。


「ユウ、下がって!」


 俺を庇う様に前に立ったルークは指を鳴らし、防御の魔法陣を張った。


「甘い──」


 ジジイの左の掌に、魔力が集まり剣の形を作っていく。

 おいおい、ちょっとカッコいいじゃねーか。

 出来上がった剣を突き出して、ルークの魔法陣とぶつかり合う。


「ユウ!今だよ!!」

「分かってる!」


 俺はせめぎ合う2人の衝突の隙を突く。


「……いくぜぇ、クソジジイ!」

「……なっ!?」


 俺は右手の甲の紋章を紫色に光らせ、ルークと俺の魔力を混ぜ合わせる──


「──魔力砲!!!」

「……だ、ダサい……」


 ……うるさい!!

 ルークのツッコミは受け流す。

 俺は右の掌に魔力を集中させ、衝撃を左手で抑えながら奴に向けて真祖の魔力を解き放った。


 ──パァン!


「な……!?」


 至近距離だというのに、俺の魔力砲は当たった気配すら無かった。

 さらに驚いた事に、両手を打ち鳴らした音が辺りに響いた。


「ルーク!?」


 俺達の背後に移動していた奴は、人質を取る様にルークのこめかみに拳銃を構えていた。


「……そこで大人しくしていろ」

「ジジイ、どうやって移動した……!」

「足元を見るんだな……」


 奴が移動する直前に居た場所には引き千切られた右腕が落ちていた。


「……そういうことか」

 

 失った右腕を叩いて魔法を……!

 ルークのこめかみに銃口を向けたまま脅しをかけてきた。

 

「……この拳銃には聖者の弾丸が装填されている。意味は解るな?」

「……嘘だな。もうこの世界にその弾丸は無い筈だ。それにお前自身がもう持っていないと言った」

「フッ……そう思うならばこやつの頭を撃ち抜くだけだ……」

「ユウ!こんなのハッタリだよ!大丈夫、あたしは頭を撃たれたって死なな──」

「黙れ……!」

「っ……」


 銃口を強く押し付けられ、痛がるルーク。

 こいつ……!

 くそ、どっちだ!?本当にあれに聖者の弾丸は入っていないのか!?

 万が一、弾丸の製造に成功していたら……

 それに、例え死ななくても女の子が頭を撃たれる何て──絶対にさせない。


「爺さん、そのままどうするつもりだ……?」


 俺は出来るだけ刺激しない様に語気を弱めた。

 奴は「交渉だ」と言った。


「大人しく聖女様を連れて来い……そうすればこの引き金は引かん……」

「どうしてそこまでエキナに拘る……!?」

「……我らが治める聖堂国家ミュステリウムにて聖女の座に着いて頂く。そうすれば我らの安泰は約束される……!やがては、聖女様を筆頭に魔族を滅ぼすのだ……!!」


 ご丁寧に説明どうも……

 俺は一応聞きたい事があったので、ルークには悪いが聞いてみる事にした。


「それで、エキナは幸せになれるのか?」

「勿論だとも!!聖女様の幸せとは我等が魔族を滅ぼし、聖女様に人類だけの世界をご用意することなのだっ!!!」

「……安心したよ」


 こいつのおかげで決心が着いたよ。

 俺はクソジジイに向かって宣言する。


「お前らには絶対エキナは渡さない!あいつは優しい人間だ。他人を傷付けるやり方しか出来ないお前らにあいつを幸せに出来る訳ないだろ!!」

「小僧……貴様のくだらない物差しで聖女様を測るな……!!」

「なら、交渉決裂だな。引きたきゃ引けよ……その引き金」

「いいんだな……?」

「俺の相棒、吸血姫の力を舐めるなよ……!」

「フン……!」


 ──バァンッ!!


 ずっと俺達のやり取りを見守ってくれていたルークは、目を瞑って撃たれる覚悟をしていた。

 そんな必要は全く無いがな──


「フゥ……!」

「小僧……貴様!?」


 右手の紋章は灰色に強く光り輝き、ゼロ距離で射出された弾丸を、射出された瞬間に光の粒子に変換させていた。


「今のは……あたしの……!」


 そう、ダンジョンでルークがモンスターのブレス攻撃を掻き消した魔法──バニシング。

 ルークと違って完全に消失とはいかず、粒子が残ってはいるがな。

 対象が物体でも、魔力そのものでも効果がある、恐ろしい魔法だ。


「ジジイ、あんたの拳銃も消してやる」


 紋章の光をさらに強め、拳銃をも光の粒子へと換える。


「……私の負けか」

「……あぁ」

「殺せ」

「!」


 もう打つ手は無いと、敗北を認めた奴は自身の死を望んだ。

 俺がバニシングの対象をジジイにするだけで、こいつの命は簡単に奪える。しかし──

 

「……怖いのか?臆病者が……」


 相手を本当に殺すのか。

 そう一瞬でも考えてしまうと俺の体は震え出していた。


 こいつを殺すかどうか決めてしまう、それはこいつと同じ事をしているだけじゃないのか?

 ──人間を殺すのか?殺せるのか?俺が?

 段々と思考が停止していくのを感じる。


 青冷めた顔で思考の海に落ちていた俺を、ルークが呼び戻す。


「ユウ!こいつは国に引き渡せばいい!大丈夫、落ち着いて!」

「え、あ……あぁ、そうだな」


 俺の返事に少し頬を緩めて頷くルーク。

 彼女はそのままジジイを拘束する為に魔法を発動する。


「抵抗しないでね。あたしはユウと違ってあんたを殺すのに何の抵抗も無い」


 ルークは冷たく言い放った。

 発動した魔法は足元から奴の体を石化させていく──


「フンッ、やはり今殺しておくべきだったと後悔するぞ」

「ユウにあんたの命を背負わせたく無いだけダヨ」

「甘くなったものだな……忌むべき魔族の頂点よ」


 ルークは何も答えない。

 やがて顔まで魔法が行き渡ると、奴の体はその活動を完全に停止した。


「……ルークこれ死なないのか?」

「大丈夫。体が動かないだけであの魔法、ちゃんと酸素を取り込む様にしてるから」

「凄いな……」


 これで一段落だな。

 こいつの身柄は国に引き渡すとして、惨殺された周りの死体を何とかしてやりたい。


「ルーク──」

「言わなくても分かってるよ」


 パチン、と指を鳴らすルーク。

 首と体が泣き別れした死体を宙へ浮かせ、綺麗に並べていく。

 顔に被せるものが無くて申し訳ないが、あとは遺族に任せよう。


「後の事はアデラートにでも押し付けるか」

「ヒヒ、それがいいかもネ!」


 感謝しろよアデラート。

 お前にはありとあらゆる面倒全てを押し付けてやるからな……ククク。

 悪い顔をした俺をジと目で見ていたルーク視線に気付き、「そう言えば」とルークに話し掛ける。


「お前いつまでエキナの髪型でいるつもりだ?」

「……これ付けてたらちょっとは胸が大きくなるかなって……」

「……そうだといいな」


 憐れな……まぁ俺も応援してる。割と本気で。

 さて──


「帰るか。エキナが待ってる」

「うん!」


 俺達はエキナの待つ学園へ歩みを進めた──



「大人しくしろって言ったのに……」


 悲惨な光景となっている噴水の広場にやってきたのは、恐ろしい程の美形。銀髪のアデラート・ジル・リレミトだ。

 

「……これは酷いですね」


 彼の隣に侍るのは、ミラ・イル・ルーデランド。眼鏡を掛けたスタイル抜群の秘書である。


「見なよ、首謀者の老人を。これは……ディープフリーズだね」

「……真祖が持つ最悪の魔法と呼ばれる7つの魔法の1つですか」

「あぁ、これは僕にも解除出来ない。自然に解けるのを待つしかないね。……夕がやったのかな?」


 夕の起こす行動にはアデラートの予知も意味を成さなくなってきていた。

 段々と真祖の力を物にし始めた夕に、アデラートは喜びを禁じ得なかった。

 

「彼はそこまで魔力を精密に扱えるようになったのでしょうか?」

「──それとも予知通りルーク君に力を返したのか……?そうだとすると今の夕は一体どういう存在なのか……」

「学園長?」


 ミラの言葉に反応を示さないアデラート。

 ミラは知っていた。

 彼がこうなっている時、大抵ロクなことが起こらないという事を──


「ミラ、世界が動き始めるよ。楽しもう──新たな英雄の誕生を!!」


 何も言わず、ミラはアデラートに笑顔を向ける。

 彼と一緒に居れば退屈はしないという事も知っていたから。



 あれから一週間後、俺達は学園での日々に戻りつつあった。

 まぁそもそもろくに出席していなかったので、俺は結局レオン以外の友人が出来ず、中庭のベンチに腰掛けて一人で昼食を摂っていた。

 一人で昼食を楽しんでいると、中庭と廊下を繋ぐ扉が開いた。


「ユウ君、お一人ですか?」

「今日も明日も明後日もお一人だよ」

「なら、私が今日も明日も明後日も一緒にいてあげますね」

「なっ……!」

「ふふ、顔が赤いですよ?」


 俺の元にやってきたのはエキナだった。

 そう言えば彼女と初めてちゃんと話したのもここだったな。

 エキナがそうして笑っていると、俺の血の中から──奴が出てきた。


「残念、あたしがいるからエキナはお呼びじゃありません~」

「ルーク、だからお前何で勝手に出て来られるんだよ!」


 俺がお前を喚ぶ時はわざわざ血を流さないといけないのに!

 あれ結構痛いんだぞ!?


「あたしが外に出るかはあたしが決めるもん」

「なら俺が来て欲しい時も勝手に来てくれよ……」

「だ、だってユウに喚んで貰えるのすきなんだもん……」 

「……ったく」


 俺達が2人の世界に浸っているとエキナが目の笑っていない笑顔で俺達を遮ってきた。

 ……エキナさんその笑顔本当怖いんだって。


「私を忘れないで下さい?」

「や、いや、忘れてなんかないって。それよりどうしてここに?」

「……約束したじゃないですか。2人の事を教えてくれるって。あの後、中々時間が合わなかったので」

「……そうだったな」


 あの後、俺は通常一回の出世ではあり得ない伯爵という身分を与えられるとの事で、式典に出席する為、様々な準備に翻弄されていた。

 式典の当日には、沢山の貴族様方に囲まれ、この国の王様や、王妃であるレインさんからありがたいお言葉を戴き、さらには王太子であるオリウスからは、嫌味めいた微笑を受け取った。


 ──そんなこんなでエキナとの約束を果たせずにいた。

 エキナはむすっと頬っぺたを膨らませている。


「とても忙しそうだったので我慢していましたが、今日こそ話して貰います!」

「悪かった。ルーク、どこから話そうか?」

「そうだねぇ、あ……あたしとユウが初めて致した時のことから……?」

「待て!?とんでもないことを口走るな!!」

「へぇ……その話、詳しく聞きたいです」


 真顔で詰め寄ってくるエキナ。殺気がすんごいの。

 や、ヤバいこれ昼休みだけじゃ終わらんぞ……

 この2人、やっぱり混ぜたら危険だった。主に俺が。


「ユウ君!観念して全て吐き出してください!!」

「ユウ……ダメ、やっぱり2人だけの思い出にしたい……」


 両隣から詰め寄られ、俺はこう思うしか無くなった──


「諦めてくれよ……」



 桜が舞い散り始めたとある丘の上、墓地なのに不思議な穏やかさを感じさせるその場所に一人の少女が訪れていた。

 この場所でも一際大きな桜の木の下には、一振りの剣が差し込まれている。

 太古の英雄の墓地として彼女自身が作った。

 2人が世界で初めて契約を交わした思い出の場所だ。


 薄紫の髪を靡かせて、彼が好きだったオレンジジュースを供えた。


「助けに来てくれてありがとネ……」


 真夜中の墓地だというのに、月明かりが桜を照らし、英雄と彼女2人だけの空間を演出する──


「あんたはずっとユウの中に居たんだね。あたしがどれだけこの世界で探しても見付からないはずだ……」


 涙は見せなかった。もう泣き顔を見せたく無かったから。


「あんたがユウにあたしの真名を教えるから、ユウが無茶したんダヨ……それに──」


 彼女は両手をぎゅっと強く握って、体を震わせていた。


「──そのせいで……あたしの為に、消えていって……ホントバカなんだから!!!」


 墓地には彼女の悲痛な叫びが声が響く。


「あたしはあんたを許さない。ずっと──だから、その魂は永遠にここに置いていく」


 英雄の剣が淡く光る。

 散ったはずの彼の魂が彼女の言葉に反応する様に。


「ねぇ、ユウは強くなるよ。あんたよりもずっと強く。──あたしを守る為に」


 彼女は英雄の剣を優しく撫でた後、背を向けてその場を後にする。

 最後に彼女は──


「あたしも、何百年時間が経とうとずっと愛してる。さよなら……マーネ──」


 本当に最後まで涙を見せなかった。

 段々と白み始めた空を見上げ、新たな英雄の元に彼女は歩みを進めた。


今回で第一部完となります!

ここまで読んで下さった皆様本当にありがとうございます。

明日25~26時頃から第二部の投稿をスタートさせて頂きます!

良ければ評価やいいね、ブックマーク等とても励みになりますのでお待ちしております!

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