ご懐妊です!
この話はグルム童話『ラプンツェル』をベースに作ったものです。違和感や不快感がある方はご遠慮ください。
「おめでとうございます!ご懐妊ですよ!!」
その日、体調がすぐれないために村に一人しかいない医者のもとを訪れた女は、予想外の診察結果にテンションが上がった。
「うええええええ!?マジッスか!?マジなんですか!?嘘だったら殺すぞコノヤロー!!」
女は白衣の襟を掴み、医者の頭をこれでもかと揺さぶる。
まるで人形のようにガクガクと揺れる医者はそれでも何とか女の言葉に対応する。
「マっ…マジで…す。今、さっ三か月め…」
「よっしゃああああああああああ!!」
医者の襟首を離し、女は見事なガッツポーズを決める。
その横で、ようやく解放された医者は吐き気&眩暈と必死に戦っていた。
「こうしちゃいられない!!早く夫に知らせなきゃ!!」
女は哀れな医者に何の詫びも礼も述べず、妊婦とは思えない俊足で一目散に夫の元へと走って行った。
「ああ!!奥さん、赤ちゃんがいるから落ち着いて…おぇ…」
吐き気&眩暈に青ざめながらも、女と女の赤ちゃんを思って必死に叫んだ医者の注意は女に届くこともなく宙に消えた。
「てゆうか、診察代金…」
その言葉はもっと虚しく宙に消えた。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「ダーリン、子供よ!子供ができたわ!!」
「おいおい嘘はつくもんじゃねぇぜ、ハニー。妊婦がそんなサイみたいな勢いで全力疾走できるわけがな…」
「誰がサイだって!?」
医者のもとから見事な走りで畑で働く夫の元へとやってきた女は、妊娠の知らせを飛び蹴りとともに夫に伝えた。
「ぐぇッ!!…相変わらず良い蹴りだぜ、ハニー…!」
「子供よ!!子供ができたのよダーリン!!」
蹴り倒され、畑に倒れ込んだ夫の上に女は馬乗りになって狂ったように妊娠の知らせを繰り返し叫んだ。
「うおおおおお…!この桁違いの体重の重さ、確かに子供が授かってる…」
「誰が重いだって!?」
「うぎゃあ!!」
女の完璧な右ストレートを顔面に受けた夫の意識は一瞬にして三途の川べりまで飛ばされた。
「やっとよ…やっと念願の子供が授かったわ!!どれだけこの日を待ち望んだか!!ああ、嬉しい!!幸せだわ!!!!」
なかなか子供が授からなかった女は、意識を失ない白目をむいている夫の上で幸せの絶頂に達していた。