何事においても初めてはある
リスエン川にかかった橋の先には森を切り開いた街道がジグザグに北へ伸びていて、雨をしのぐ屋根と薄いスープ以外の何もない宿屋が数軒ずつ街道の脇に腫瘍のように固まっていた。最初のうちは普通の貧しい宿場に過ぎなかったが、監獄川へと近づくにつれて、宿場は盗賊が獲物を物色するための待合所のようになっていた。銃や大ぶりなナイフを腰に差した目つきの悪い男たちは宿屋の前で火にかけた鍋を囲み、小魚とわずかな芋がぼろぼろに煮崩れるまでかきまわしていた。銃術師たちは彼らを便宜上〈スープ盗賊〉と名づけた。旅人がそばを通りかかるたびに、〈スープ盗賊〉はひそひそと言葉を交わして襲うかどうかを話し合った。旅人を一人殺っつければ、彼らのスープに香辛料や豚の血入りソーセージが入るのだ。
最初の連中はただ話し合うだけで結局、襲わずにそのまま銃術師を素通りさせた。だが、北に行くにつれて、〈スープ盗賊〉はだんだん殺気立ってきた。南から数えて八つ目の宿場で銃術師はついにショットガンを抜いて、撃鉄を二つとも引き上げた。そして、銃の台尻を腰に押しつけ、銃身を斜め上に向けた。銃術師はウィリアムをかばいつつ、一発で〈スープ盗賊〉全員を薙ぎ倒せる位置に馬を進めた。
「あと宿屋は何軒ある?」宿屋を通り過ぎて、ショットガンの撃鉄を下ろしながら銃術師はたずねた。
「あと一軒です」
「次は人死にが起きるな」
銃術師はウィリアムの銃をちらりと見た。リスエンブルク銃士隊に支給されるのは照準鏡付きの長銃と銀の蔓草模様がきれいなリヴォルヴァーが二丁。クルミ材の握りには銃士隊の紋章が刻まれていた。
「人を撃ったことはあるか?」
「いえ。ありません」
ウィリアムの声には緊張がみなぎっていた。銃術師はおそらくこの少年にとって、今日という日は忘れられない日になると踏んだ。だが、この少年は人を撃ち殺すことで成長できる。それもいい方向に成長するだろう。しかも撃ち殺す相手はスープの具を増やすために殺人も辞さない連中だ。言うことなしだ。
監獄川から一番近い宿屋は平屋で前庭には五人の〈スープ盗賊〉が陣取っていた。大きな顎にむさくるしい赤鬚を生やし、顔を隠すための布が外され兜の片側から垂れ下がっていた。趣味の悪い色使いの革兜、頭巾、鞘に模様を刻んだ剣を差し、肝心の銃は雷管式の長銃だが地べたに置いてあった。全員がリヴォルヴァーを腰の右の革のホルスターに入れていた。スープ鍋のなかには一握りの塩の他は何も入っておらず、飢えた狼のような目で銃術師を、そして、ウィリアムを見た。ひょっとすると、人間を食べる気かもしれない。というのも、盗賊たちは歳をとって筋張った銃術師よりも、若くしなやかで食べやすそうなウィリアムを見ていたからだ。銃術師は既に宿屋から五十ヤード離れた場所でショットガンを抜き、撃鉄を上げていた。銃口は下げていて、少しでもおかしな真似をすれば、引き金を引き切って、二発の散弾を一度に放つつもりでいた。そこからリヴォルヴァーを抜くくらいの時間はウィリアムが稼いでくれるだろう。
人を撃ち殺すのはメイヤーガルド以来だった。銃術師の感覚では結構な時間が空いたことになる。銃術師の見立てでは四人は銃術師たちが通り過ぎてから背後を襲う腹づもりらしかったが、一人、声変わりして二年経っているかも怪しい少年がいて、これがピリピリしていた。今にも銃を抜きそうで、他の四人はそのことに気づいていなかった。
彼我の距離が五ヤードに縮まった瞬間、少年が立ち上がった。盗賊の一人が慌てて、まだ早い! と怒鳴り、銃術師に背をむけて座っていた男は振り向くと、まるで弾から頭をかばうように手をかざしていた。
銃術師は八番径の散弾を二発同時に撃った。鍋が吹っ飛び、五人の盗賊の空きっ腹に大きな鉄の弾がめり込んだ。熱湯をもろにかぶった若い盗賊がわめき声を上げながらのたうちまわった。ウィリアムの撃った弾が一発地面を跳ねて盗賊の剣の鞘に当たった。二発目はまだ早いと叫んだ盗賊の胸を貫通した。銃術師が素早く抜いて、残り四人の盗賊の頭を撃った。一人は散弾でボロボロになった両手を上げて投降の意思表示をしていたが、撃ち殺した。ウィリアムがなぜ撃ったのか、なかば驚いた顔でたずねたので、銃術師はこたえた。
「銃が撃てないと思って放っておいたやつに、思わぬ方法で背中を撃たれるのは馬鹿馬鹿しい。それに生かしておいたところで次の〈スープ盗賊〉が現れれば、間違いなくスープの具にされる。それも生きたままだ」




