蘇る王国
ウィズダムの湖は四方を丘に囲まれた池でどうやら川や海とはつながらない火口湖のようだった。
時刻は朝の五時半で銃術師の望んだ素晴らしい朝日が緑樹の茂った丘の向こうから昇り、空を薔薇色に染めていた。まだ丘の影に閉じられている湖はその鏡のような水面で薔薇色の空を映していた。
岸辺から眩い光に目を細めつつ、水面を眺めた。その水は渓流のように透き通っていた。湖の一番深いところで古い水が染みこみ、新しい水が染み出す形で循環していたのだ。生き物の種類は多いとは言えない。なぜなら湖に新しい生き物が現れるには鳥の体に卵をくっつけて運んでもらう必要があったからだ。
この湖に大いなる知恵を授ける学院がある。だが、そこに広がっているのは毛鉤でも投げ込みたくなる静かな湖面だ。
銃術師は自分は何を期待していたのだろうと考えてみた。自分の出現と同時に大地が揺れて、冷たい水が泡立ち、その水底から大理石でできた巨大な建物が次々と現れ、全ての窓と戸口から水と魚が流れ出すのを期待していたのだろうか?
だが、湖は静かだ。薔薇色の空には雲が流れていた。陰になった部分が淡い紫をしていて、その色は水面に映るときは鮮やかな緑に見えた。
その緑が湖面でふるえ始めた。そのふるえ方は生まれたての子馬が自分の足で立とうとするような心を打つもので、銃術師の目はそこに釘付けになった。そのうち、大きな陽炎のようなものがゆらめき始めた。最初に見えたのは巨大な森だった。だが、その森が徐々にほぐされて、石造りの建物や回廊が見え始めた。何か力が働いて、必死になって森に守られた石の学院をこの世に出現させようとしていた。千年前に失われた叡智を甦らせるという困難に立ち向かおうとしている力がそこにあった。千年間、何かを待ち望みその何かが現れたことを確信したその力は最後の務めを果たそうとしていた。そこには風化することなく今でもページを繰ることのできる書物庫があり、鳥が飛んでいて、本棚や書見台に生えた緑樹にとまり羽根を休めていた。古代文字で創世記を記した廊下では元気な宿り樹が壁の文字を為す刻み目に枝葉を伸ばし、創世記の物語をなぞろうとしていた。苔に覆われた岩から水が湧く中庭は多くの賢者たちが物思いにふけたときの姿をそのまま残していた。大広間に何百本と並んだ石碑には大きな知恵とその知恵を生んだ賢人の姿が刻まれていた。白い花をつけた浮き草を浮かべる水の上に数知れない大樹が立ち、その幹に開いた洞は石の通路でつながっていて、香り高い樹の匂いと甘い花の香りがした。石畳の先にある学院の入口には門の代わりに二本の大樹が生えて、その奥には宇宙の象徴である世界樹が刻まれた石板があった。学院がこの世に再びもたらそうとしているのは魔法だけではなかった。万物の均衡、自然への回帰、知恵の持つ危険性、幸福と運命の再定義をも人間にもたらそうとしていたのだ。
そして、太陽が昇り、丘の頂から離れた。曙光が湖に差し込んだ瞬間、全て黄金色の光を放ち、目を眩ませた。
音一つさせないまま、銃術師たちの前にウィズダムが――清らかな水の上の緑深き学び舎が現れた。




