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ある銃術師の建国記  作者: 実茂 譲
2.王なき地
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廃都アンノウン

 古の廃都アンノウンほど、人をがっかりさせる地名はないだろう。そこに都があったことを示すのは砂のなかから突き出た小さな塔と風の加減でむき出しになる石畳くらいしかないのだ。これならスワンプバードの沼を舟で行くほうがずっとわくわくするだろう。

 かつて都があったという平原には少女と銃術師しかいなかった。盗掘家たちに呪いをもたらす石の棺も、黒曜石でつくった剣も、宗教儀式のために一日に三百人を生贄にした神殿もなかった。地面に突き出ている岩の由縁を教えてくれる案内人もいなかった。

 少女は見た目でがっかりしているように見えないよう気をつけていた。せっかく銃術師が気を使ってくれた冒険の旅だから。だが、銃術師は渋い顔をしていた。何か気になることがあるときにする眉根を寄せた顔だ。少女の心に一抹の期待がかかった。銃術師は少女には分からない何かをこの砂漠に感じているらしい。銃術師は注意深く、砂漠を歩いた。蹄鉄の跡を砂に残しながら、彼は音を探していた。少女には聞こえないその音は砂時計のように砂が少しずつさらさらと流れ落ちる音で、どうやら、地下に空洞があると踏んだのだ。そのうち銃術師が手綱を引いて、馬の歩みを止めた。

 漏斗状に開いた小さな穴がポツンと黒い点を作っている。馬を降りて、砂を横に蹴り払うと、石畳が現れた。ただ、その石畳は他のものと違って、古代文字がびっしり書き連ねてあった。一ヤード四方の石畳の端には紐をくくるのにちょうどいい石の輪っこがあり、少女と銃術師はそれを馬とフレイにつなげて、動物の力で石畳を引っぱった。二人の予想どおり、そこには下り階段が口を開けていた。その階段は砂漠の表面に現れた白い石とは違って、藍色の石でできていた。それだけでも心ときめくのだが、階段を降りて、明かりのない通路を歩くためにランプを灯そうとすると、藍色の石壁が光り出して、行くべき道を照らしてくれた。馬を表の蓋の石につないだまま、二人はその通路を奥へ進んだ。それは魔法やかつて存在した王国に関するものであることに疑いはなかった。その壁には未知の文字が細かく綴られ、その文字がまるで誰かの読む速度に合わせるように一つ一つ流れるように光っていった。

 涼しく、うっすら青く光る空洞は居住区のような場所に出た。その廊下にはいくつも部屋の戸口が切ってあって、それぞれの部屋に石の寝台があり、腰掛があり、水差しや花壇のようなものがあったからだ。だが、最後の部屋を覗き見したとき、少女はちょっとした失望を味わった。というのも、その部屋は何年か前に盗掘家が残していった空の缶詰や折れたナイフ、革くずが散らばっていたのだ。自分たちが初めて発見したわけではないという事実は水を差したが、それでも、奥の部屋へ行くのを妨げる理由にはならなかった。

階段をどんどん降りて辿り着いた奥の部屋は横に十ヤード、奥行き二十ヤード、高さは九十フィートの細長い部屋でそこで道は終わっていた。ひょっとすると、隠し扉があるかもしれないが、少女と銃術師が見たかぎり、この部屋には節目はなく、非常に巨大な岩を四角に削って中も繰り抜いて作ったようだった。がらんとした何もない部屋のちょうど中心に真四角の柱が立っていた高さ十五フィート、横縦五フィートの四角柱は天井を支えるには足りない高さだった。ただ、奇妙なことにこの巨大な岩を繰り抜いて作った部屋で唯一の節目が柱の根元から二フィートのところで見つかった。つまり、そこから上は別の石材を使ったということだった。また、その二フィートの床を一体化している柱の基部は古代文字がびっしり書かれていたが、二フィートよりも上の十三フィートは滑らかで凹み一つなかった。

 この石柱に何か秘密があるのかもしれないと少女は期待してみたが、これが何であるのか知る手がかりは何もなかった。ひょっとすると、これは古代人が立てた銅像の一種かもしれなかった。古代人が現代人と違って自己顕示欲がなかったと誰が断言できるだろうか? ひょっとすると、これは古代の彫刻家が偉大な人物の石像を作ろうとして、特別にこさえた石であり、そして、最初の鑿の一撃が入る直前に王国が滅び、魔法が失われ、〈王なき地〉が生まれたのかもしれない。こういった想像をするだけでも、少女はそれなりに楽しめた。一方、銃術師はじっと謎の石柱を見ていた。そのうち、帽子を取って、右耳を石柱にぴったりくっつけた。

 そして、銃を一丁抜き出すと、言った。

「このなかに誰かいる」

 そして、撃った。

 弾丸は石柱の真ん中に命中した。ヒビが八方にピシリと走って、蜘蛛の巣のようになりかけたその瞬間、石柱が眩しく光りだし、一瞬にして透明化し巨大な一つのエメラルドと化した。そのエメラルドのなかには銃術師の言ったとおり、人がいた。

 黒い服をきた白い髪の少年だった。まるで眠っているように目を閉じていて、石柱のなかで浮いているように見えた。

 だが、そう長いこと観察はできなかった。銃術師が撃った場所からエメラルドの柱じゅうに亀裂が入り、亀裂は不自然なほどに細分化され、ついにとうとう透き通っていたはずの柱は見分けもつかないほどの亀裂が走りきって、淡い緑色のミルクのように白く濁ってしまった。

 それから数分間、少女も銃術師も何も言わず、白濁した柱の前に突っ立っていた。もう一発撃ち込んでみようと思った瞬間、亀裂の細分化が極致までいき、ついに濁った柱が崩れ始めた。破片はどんなに細かい篩でも取れないくらい細かい砂となって流れ落ち、少年の体だけをかつて柱が存在した空間に残した。

 少年の白い髪は本当に薄く青みがかっていて、透き通るような白い肌――砂漠を旅するのには向いていない肌をしていた。そのきれいに整った顔立ちも合わせて、造作全体を見ると、人間離れした作りものめいた印象を与えた。腰のところで絞られた黒い外套は裾を明るい青の金属で縁取らせた以外に飾りはなく、詰めた襟から腹部までぴたりと閉じられていた。石柱に閉じ込められているあいだは気づかなかったが、どうやら光り輝くエメラルドと似た素材で作られた刃付きの杖とも槍ともつかないもの――貴族的な歩兵士官が持つエスポントーンという短い槍に似たものが左手に握られていた。そして、少年はしばらくのあいだ浮いていたが、台座から最後の石柱の破片の一粒が転がり落ちると、ゆっくり下がってきて、台座の上に立った。

 そして、目を開けた。外套の裾の金属と同じ、きれいな南国の海の色をしていた。

 この美しい目に刷り込み作用があることを前もって知っていれば、銃術師は自分ではなく、少女のほうを見させるようにしただろう。だが、気づいたころには少年は台座を降り、銃術師の前に片膝を立て、ひざまずいていた。エメラルドグリーンに光る短い槍のようなものを左手に持って床にぴったりつけた。頭を下げていたので、銃術師に見えたのはうっすら青い猫っ毛気味の頭頂部だった。

 少年は言った。

「我が王。ご命令を」

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