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ある銃術師の建国記  作者: 実茂 譲
2.王なき地
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スワンプバード

 カーディナル・タウンから象牙街道を二日進むと、スワンプバードの町が見えてきた。かつて、そこは渡し守の町だった。この何百年というあいだ、南東へ運ばれる象牙はこの町の渡し舟で対岸に運ばれていた。渡し舟は町の生命線だった。川幅六十ヤードを超えるホーリー・フィアー川に接した町の住人はこれまでに十三回、この川に橋をかけようとした工事を妨害してきた。その妨害行為は具体的に言えば、工事の資材を盗んだり、工事人夫の膝を撃ったりと荒っぽく、いつの間にか、スワンプバードの町はならず者が集まる危険な町と化していた。商人たちはここから一マイル離れた東と西に頑丈な石と鉄の橋を築き、象牙街道はすっかり寂れてしまった。今では渡し守をするものもいなくなり、桟橋は壊れて沈んだ舟で溢れていた。男たちは白く濁った酸っぱい臭いをさせる発酵酒で泥酔しては女を殴り、女たちは子どもを殴り、子どもは打ち上げられた魚や野良犬に残虐ないたずらをして、うっぷんを晴らしていた。スワンプバードの町は川沿いの沼地を拠点とする盗賊たちの町となり、さらに川を上った場所にあるいくつかの岸辺で住民を恐慌に落とした川盗賊たちの本拠地となっていた。

〈くたばりぞこない亭〉はスワンプバードの町の中心部から南へ数分歩いたところにあった。天井が低く、胸のむかつく発酵酒の臭いが獣脂蝋燭の煤と交じり合って、最低のゴミためを演出していた。店主は床におがくずをまくことさえ面倒臭がったようだった。少女は早速タートルネックを引きあげて顔の下半分を隠した。全ての悪臭から逃れるにはもう少し本格的なマスクが必要だったが、それでもないよりはマシだった。 銃術師はいつもの冷徹な顔でタバコを噛み、痰壷に吐いていた。

 銃術師が店主にたずねた。

「ジュニアはどいつだ?」

 店主は奥のテーブルで革製のコップにサイコロを入れて、奇数か偶数かを当てる賭博をしている四人組を指差した。

「あの背中をこっちに向けているやつだ。浅黒くて、とうもろこしの鬚みたいな髪をしてるだろ。ああ、それと、撃ち殺すなら、外でやってくれ。掃除が面倒だからな」

 銃術師が近づいたとき、ジュニアが親だったらしく、他の三人にはやく賭けろとせっついていた。だが、他の三人はただならぬ風貌の銃術師がやってきたことで銀貨を場に置いたり、ゲン担ぎの文句を唱えるのを止めていた。

「なんだってんだ?」ジュニアは振り返って銃術師を見た。「なんだよ、あんた」

「カーディナル・タウンの代言人の紹介で来た。お前がおれたちをティーグの元へ案内してくれるときいた」

「げっ。あのクソジジイ」ジュニアが憎々しげにつぶやいた。とうもろこしの鬚のようによれよれの口髭をしきりに噛みながら、ぶつぶつつぶやいた。「ティーグの私掠許可証の件か? 冗談じゃねえ。そんな話、ティーグにした日にゃ、ぶっ殺されちまう。今、ティーグには五十人の手下がいる。ログス侯の鉄騎隊だって関わり合いになるのを嫌ってるってのによ。冗談じゃねえよ、ほんと、マジで。そのメスチビを連れて、とっとと消えちまいな、おっさん」

 ジュニアが振り返り、革のコップに三つのサイコロを入れて、ふってからテーブルに叩きつけた。

「ほら、お前ら、はやく賭けろよ。今度ぁ、親の総取りだぜ」

 銃術師が銃を抜いて、革のコップを撃ち飛ばした。

 目をパチクリしているジュニアの頭に銃を突きつけて、撃鉄を引き上げた。

「ティーグのいるところまで案内しろ」

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