確かな腕前
武器屋バザールを後にし、馬の預け場へ戻ると、預け場を区切る壁のなかから争う声がして、そのうちしたたかに殴られた行商人風の男が門から蹴り出されてきた。その後に預け場の下男たちが駄獣を引いて、その手綱を乱暴に放り、次に鞍を道へ放り出した。
「盗みやがった!」行商人らしい男が叫んだ。「鞍に隠してあった金貨を盗みやがった!」
下男がジロリと男を見やる。
「人を泥棒扱いするとどうなるか、まだその身に分からねえらしいな」
下男は大男だった。長衣のベルトには鋲を打った棍棒がはさんであった。行商人は泣き出しそうな顔をして、自分の駄獣の手綱を引くと鞍を乗せて、そのまま去っていった。
下男は、今度は銃術師のほうを見た。
「お前さんも気をつけるんだな」預け場の下男は嘲笑うように言った。「人を泥棒扱いすりゃ、相応の目に遭うもんだ」
銃術師が預け場に入り、馬を返してもらうと、鞍の銃嚢からグレンワース・ライフルが抜き取られていた。
前庭には預け場の主人の部屋に通じる扉があり、その前では例の大男がナイフで爪の先をほじっていた。
銃術師は肩をすくめて、少女に一緒に来るよう顎でしゃくると、主人のいる建物へのろのろと足を運んだ。扉を開けると、太った白い鬚の老人が机の上で三枚のエステル金貨を玩んでいた。そのそばにはこんな時間から飲んでいるのか、大きな陶器の酒瓶が置いてあった。赤い団子鼻の老人は家畜の預かり場の親爺が着るには分不相応のいい服を着ていた。上衣には銀のプレート装飾、赤い帽子には水晶がはめてあり、金の首飾りにはルビーが三つはまっていた。
「何か、あったんで? お客さん」
親爺はにやにや笑っていた。その後ろの壁にグレンワース・ライフルが立てかけてあった。
「おれの銃だ」銃術師はかすれた声で言った。「手違いがあったようだな」
銃術師がライフルに手を伸ばそうとすると、老人が立ち上がり、おおっと、と言って、ライフルを手に後ろに下がった。
「手違いはない。なんにもない。これはもともとここにあった。わしのものだ」
後ろで扉が閉まる音がした。振り向くと、四人の男が立っていた。毛羽立った兜や革の胴衣、鎖帷子のシャツを身につけ、顔を紫の布で隠していた。そして、腰のベルトにリヴォルヴァーを差していた。三人は右利きで一人は左利きだ。
「なあに、お客さん」親爺の耳障りな声が銃術師の鼓膜をふるわせた。「簡単な算数の問題だよ。五対一。どう見てもかないっこないだろうに」
「違う」銃術師は親爺に背を向けたまま言った。「二対四だ。この子を数えて、あんたは数にいれない」
怒った親爺の息を飲む音がし、空気が暴力の予感で緊張した。次の瞬間には銃弾が交差してテーブルの酒瓶が砕け散った。あまったるい蜜酒の匂いがする部屋に硝煙が立ち込め、四人のゴロツキはまるで壁に磔にされたように腕を広げて、ずるずると四つの血痕を残しながら、土間床に沈んでいった。
親爺はグレンワース・ライフルを手に銃術師の背中を撃とうとした瞬間、少女に腹を撃たれた。
テーブルの上にライフルが落ち、親爺がテーブルの向こうに丸めた背中から倒れていった。銃術師は急いで扉を開けて、外に逃げようとしている大男の背中を撃った。
正直、今日は殺しすぎていた。朝から十五人の盗賊を撃ち、ここで五人のゴロツキを撃った。ぐしゃぐしゃになった腹を抱えて、喘いでいた親爺を楽にしてやろうという気はしなかった。しかし、ひどい傷だ。どうやら服の装飾の銀の部分に銃弾が命中し、そこで弾が裂けて体へ刺さったらしい。腹は横に裂けて、ちぎれたハラワタがこぼれていた。このワタを拾って屑肉屋に持って行けば、サパタ銀貨で三枚くらいになるかもしれない。もっとも、このへんで本当に人喰いがいるのかどうかは知らないが。
銃術師は少女を見た。銃をしまって、しっかりホルスターに押し込んでいた。ついこないだまで奴隷だったとは思えない変貌ぶりだった。星金貨を費やすだけのことはあったらしい。
正直、今日はしゃべりすぎていた。それでも、銃術師はぼそりと、
「よくやった」
と、少女に声をかけ、握り拳でその華奢な肩を軽くついた。
久しぶりに銃以外のものを信じてもいいような気になれた。




