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ある銃術師の建国記  作者: 実茂 譲
1.銃術師
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リヴィングストン・リヴォルヴァー

 都に着くと、隊商と別れて、銃術師と少女は武器屋を探した。まだ昼だというのに、けばけばしい服を着た売笑婦や正体を失った酔っ払いが通りをよろめいていた。この都の前の都と大差はなかった。最上階が崩れたまま放置された建物が大通りに並び、人々は買うか売るか騙すか騙されるかしていた。物は錆びているか脂でべっとりしているかの二通りしかない。通りに向かって口を開ける穴倉のような酒場のなかでは獣の脂でつくった蝋燭の火がちらついていて、弦を張った共鳴箱で奏でる不釣合いなほど美しい音楽が流れてきていた。

 少女に渡したリヴォルヴァーを返してもらい、似たような機構のリヴォルヴァーを与えることにした。いずれは馬と鞍をそろえる。とはいっても、このあたりには馬がいない。かといって、あのイーグルクロウは駄目だ。あんなものが自分のすぐ隣に顔を並べている光景は、考えただけでぞっとした。もっとまともな家畜を探さないといけない。しかし、馬の調達もそうだが、リヴォルヴァーの調達も難しそうだった。この土地で正規の工場で作られたバーミンガム・リヴォルヴァーが手に入るかは怪しい。盗賊から奪ったものは装飾品も銃も服も全部荷車に積んで都で叩き売り、護衛たちと山分けした。クライン金貨で六枚の思わぬ収入だ。盗賊のリヴォルヴァーももちろん売り払った。どれも動作の危ない三級品で、あんな銃なら持たないほうがマシだ。ズボンの後ろのポケットに粗悪なピストルを差していた男が突然の暴発でケツの肉の半分を失ったのを見たことがある。

 馬を預け場に置いて、武器屋のバザールを覗いた。飾った剣や槍、曲刀、盾に混じって売られているピストルのうち、半分は火打ち石式の単発だった。見事な象嵌細工がされていたり、宝石が握りに埋め込まれていたり、銃身を銀でつくったりしたものがあったが、火打ち石式では問題外だ。店で見つけた管打ち式リヴォルヴァーのうち、地元の鉄砲鍛冶が作ったらしいものを除くと、バーミンガムややや小ぶりなカール・ボイド・リヴォルヴァーやクーリッジ・リヴォルヴァーということになるが、実際に手にとって、弾倉をまわしたり、何度か撃鉄を上げて引き金を引いてみると違和感があった。銃身ががたつき、弾倉が六十度回転するときの音が砂を噛んでいるようで部品が噛み合っていないし、引き金が鈍すぎだった。一度など完全に引ききったのに撃鉄がうんともすんとも言わなかった。ろくに手入れがされていないのが半分、工業機械がある正規の工場で作られていないのが半分の粗悪品で話にならなかった。

「むしろこっちがあんたの銃を売ってほしいくらいさ」ある武器屋が言った。「どうだい? 一丁につきエステル金貨二枚。三丁売るなら七枚にしようじゃないか」

 銃術師は首をふって、その提案を断った。

 かぎ慣れない匂いがただよってきた。武器屋のバザールはそのままスパイス・バザールへとつながっていた。赤、青、黄のスパイスが平たい皿の上できれいな円錐をつくっているのが見える。

 武器屋バザールがスパイス・バザールに混じる前の最後の一軒はひどくみすぼらしい店だった。両腕を広げるほどの広さもなく狭苦しい構えの穴倉に小柄な老婆が一人座っていて、左右上下対称のきれいな模様を刺繍した布の上に馬乗りが使う短剣が五本、棍棒が一本、火打ち石式のかなり古いピストルが一つ。壁の奥には火縄銃とマスケット銃が立てかけてある。

「硝煙の臭いがする。それもすっかり体に染みついた硝煙だ。銃術師とは珍しいねえ」

 盲目の老婆は濁った目を上向きにした。

「それも子ども連れ。その子の銃が欲しいのかい?」

 少女が驚き、銃術師の後ろに隠れた。

「怖がらなくてもいいよ。あたしは目が見えないけど、息遣いで相手がどんな人間だか分かっちまうのさ。銃術師のあんた、あんたはいい銃には金を惜しまない。違うかい?」

「ああ」

 かすれた声で銃術師は答えた。

 老婆は手で布の上の武器をどかし、平らな木の箱を取り出した。その留め金を外すと、青みがかった鋼鉄のリヴォルヴァーが現れた。

 リヴィングストン・リヴォルヴァー。バーミンガムと同じ四四口径だが、銃の構造に大きな違いがある。リヴィングストンは回転弾倉の上に固定式ブリッジが渡っていて、フレームがずっと頑丈だ。そして、その構造のおかげで回転弾倉から心棒を抜いて、回転弾倉だけを取り替えることができる。だから、箱のなかには回転弾倉が五つ入っていた。バーミンガムのように銃を何丁も持たず、弾を込めて雷管をはめた弾倉さえ持っていればいい。

 ただし、これが本物の工場で作られたものであればの話だ。

「銃に触るぞ」

 銃術師がたずねると、老婆はうなずいた。

 撃鉄を半分だけ上げて、回転弾倉をまわし、弾込め用のレバーを倒して、小さな金具を引く。それは回転弾倉の軸だ。それを抜けば、撃ち尽くした弾倉を外し、新しい弾倉をはめられる。銃術師は何度も撃鉄や弾倉の付け替えを試した。その結果、分かった。これは本物のリヴィングストン・リヴォルヴァーだ。弾倉と銃を箱にきちんと入れて、老婆に返し、いくらだ、とたずねた。

「あんたがその銃に感じた価値の分だけ払えばいいさ」

 銃術師は大ブランシェ王の魔法星金貨を老婆の手に置いた。彼は金と価値のあいだの問題については常に正直な態度を取ることにしていた。

 老婆は弾倉が入る弾薬ベルトをつけた。銃術師はリヴィングストン・リヴォルヴァーを少女に渡し、弾を込めるように促した。

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