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召喚に巻き込まれましたが、せっかくなので異世界を楽しみたいと思います  作者: kyo
第4章 せっかくあなたに会えたので

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133話 悪意のお嬢様

 モードさんが試験を受けに行ってから3ヶ月が経とうとしている。

 モードさんにもうすぐ会える。

 ルークさんからはもし半年以上かかっても気を落とさないようにとは言われているけど、モードさんは3ヶ月と言ったから、きっとやり通すと思うんだ。


 牧場はかなり牧場らしくなってきた。

 ぴーちゃんやモーちゃんを連れて森に行くと、仲間意識があるのかコッコやホルスタがやってくることが多く順調に数を増やし、コッコ16羽、ホルスタ12頭となった。敷地内をみんな好きに放牧している。夜はちゃんと厩舎に帰る。

 あと何故か、羽の生えた羊がいる。メメではなくメイメイという魔物らしい。池のお水目当てで飛んできて、また飛んでいくかなと見守っていたら、モーちゃんたちやぴーちゃんたちの餌を食べ寛ぎまくっているので、パズーさんにテイムしてもらった。こちらが6頭。初夏になったら毛が刈れて、毛糸が紡げるらしい。結構高価なんだとか。よし、それも子供たちの仕事となりそうだ。


 魔感知で牧場から出そうになったらかなりな衝撃が襲う結界を張っている。わたしたちが一緒じゃないと外には出られないようしてある。けれど、外からは入ってこれちゃうのは不思議だ。領地にだって他の街同様、魔物避けの結界があるはずなのに。わからない現象なので、首を傾げるしかない。この間のカメさんといい謎だ。領主のお父様には報告をしてある。メイメイに関してはもうテイムしているので、自分から出ていこうとしないとは思うのだが。パズーさんのテイム数がすごいことになっているので、テイマーをもうひとり雇った方がいいかしら。

 頭の中の考えることの項目にメモ書きする。

 牛乳も卵もしっかり安定して採れるようになってきて、お菓子を作ったりしていっても大丈夫そうかなと思っている。細々とにはなるけど。まぁ、ハーバンデルクの北の北になるし、お客さんもそう見込めるわけでもないからちょうどいい感じかもしれない。


 従業員の3人は陰日向なく働いてくれていて、予定外の仕事もそつなくこなしてくれるので助かっている。燻し作業のできる小屋も作ってくれた。森に行った時は魔物をゲットして、そのお肉を燻してベーコンにして売ったりもしている。その燻す作業は孤児院の子供たちに来てもらっていたりする。魔物もわたしが無理なく狩れるようなものだけなのに、その素材や肉などを売るだけで、プラスにはならないけれど、マイナスにはならないぐらいで賄っていられる。ペクさんが魔物を捌けるからってこともあるんだけど。森に行く時は、パズーさんとペクさんと子供たちとわたしのメンバーとなることが多い。わたしが行くときにはもれなく護衛のルークさん、クーとミミ、時にはぴーちゃんやモーちゃんが含まれる。モードさんが持っていたバッグとして堂々とマジックバッグを持っていけるので、それもありがたい。森にはいっぱい恩恵があるしね。


 街にも定期的に行くようにしていて、顔を覚えてもらえた。

 セグウェイは形を何度か直してもらって、車輪もつけて、今ウォルターお兄さんに付与づけを頼んでいるところだ。魔石はトラジカのを渡しておいた。トラジカの魔石は風と相性がいいからだ。

 みんなが仕事を請け負ってくれているので、わたしの負担はほとんどない。

 皆さんにイレギュラーな仕事ばかり任せているから、モードさんが帰ってきたら給料アップを進言してみよう。


 ルークさんは絶対受け取ってくれないんだよね。王子から払われているからいいんだって。って、こっちの仕事をなんだかんだやってもらっているのに。わたしがまごまごしていると不器用なのを見ていられなくて、口を出すより先にやってくれちゃうからねルークさん。結局、一番働いているのではないだろうか。だからできるのはご飯を作るぐらいで。特に夕食は力を入れている。


 今日はお父様に頼まれて、ルークさんを貸し出し中だ。ルークさんはわたしの護衛だからと渋ったのだが、牧場内からは絶対出ないからと約束して、行ってもらった。

 お父様たちにも並々ならぬお世話になっているからね。


 今日はルークさんのためのご飯を作ろう。ルークさんは辛いものが好きだ、口にはしないけど。今日は辛めのペペロンチーノにしようかな。唐辛子多めで。ふふふ、わたしは試行錯誤をして生パスタをマスターした。メインはお肉の黒胡椒焼きにして、サラダは生と茹でたのでなんか作るか。他が辛いからスープは甘めのものがいいね、かぼちゃのポタージュにでもするか。


 献立を考えながら、ふと窓の外を見て牧場内に見慣れぬ色彩を認め、わたしは驚く。柵の中だよね?


「まだ、こちらは営業しておりません。柵より中に入らないでください」


 急いで走り出て、後ろ姿に声をかける。振り向いたのは典型的な貴族のお嬢様だ。同じ歳ぐらいかな、少しタレ目で可愛らしい感じ。ヘイゼル色の髪をハーフアップにして、高そうな髪飾りで留めている。

 コッコと睨み合っていたみたいだ。

 わたしはふたりの間に入って、お尻でコッコを厩舎の方へ押し出す。コッコはこっちを見ながら、なんとか従ってくれた。


「わたくしに指図いたしますの? 平民のくせに」


 好きになれない話し方のトーンだ。


「危険な場所に入らないよう、お願いしております」


 わたしは周りを見渡す。お嬢様ってひとりで行動しないと思ったんだけど、付き人いないの?


「ここは魔物と触れ合うところにするのでしょう? 何が危険なの?」


「まだ準備ができておりません」


 わたしは所々に貼ってある注意書きを指差す。危険ですので中に入らないでください。関係者以外立ち立入禁止。開場前なので、至る所に注意書きは貼ってある。

 お嬢様はふんと気に入らないようにそっぽを向く。


「あの魔物の目つきが気に入らないわ。鞭をくれてやるわ」


 そう言って、本当に鞭を出した。

 な、何考えているの?


「お納めください。魔物といっても、この敷地内のものは全てわたしに侍従するものです」


 わたしのものだから傷つけるなと言ってやる。お嬢様は意地悪げに嗤った。


「魔物ひとつに何をいっているの。いえ、いいわ。お金をあげる」


 お嬢様は、金版をわたしに投げつけた。この娘、お金投げたよ。


「お金に変えられるものではありません。お引き取りください」


「なんなの、あなた?」


「危険があると申し上げました。テイムしていても、魔物です。彼らがじゃれついたつもりでも、人は怪我をするかもしれません」


 そして、それなのに、魔物が人を害したら、魔物は処分されることになるのだ。

 わたしはわたしの勝手な理由でそんな理不尽な扱いを受けることになる街中に魔物を連れてきている。魔物をテイムしてここにいてもらっている。


「あなた、生意気だわ」


 わたしに向かって鞭を振り上げる。


「クー、ミミ」


 唸り出したクーとミミを短く呼んで止める。


「危険ですので、敷地から出てください。お願い致します」


「飼い猫まで生意気ね」


 わたしのお尻で押され厩舎に歩き出したコッコが立ち止まり甲高い声をあげた。ダダダッと音がして土煙がおきて、コッコやホルスタやメイメイまで集まってきた。魔物らしい目つきでお嬢様を睨み付けている。


『ティア、どうしたの?』


「ぴーちゃん、大丈夫だからみんなを厩舎に連れて行って」


 みんながいきなり1箇所にすごい勢いで集まったからだろう。パズーさんやケイリーさん、ペクさんも駆けつけてくれる。


「どうされました?」


「みんなを厩舎に連れて行ってください。敷地から出てくださいとお願いしているところです」


 鞭を手にしたお嬢様を見て、パズーさんはホルスタたちを、ペクさんはコッコとメイメイを誘導してくれる。ケイリーさんがオドオドとわたしとお嬢様を見比べている。

 とりあえず、みんなが離れていってほっとする。後はこの人をどうにか外に出さないと。


「本当にお願いします。こちらの敷地から出てください」


「知ってるのよ、子供たちだって入っているじゃない」


「それは仕事をお願いしているのです」


「10歳未満だわ。嘘までつくの?」


「給金ではなく、現物支給で労力を買っています」


 だんだんイライラしてくる。何が目的なんだ?

 魔物に触りたかったのか? 子供も触れるのに、自分は締め出しされるから怒ってるとか?

 わたしはお帰りくださいを示すのに、退場口を手で案内する。

 それが火に油を注いだ。顔をシュッと赤くさせ、鞭を振り上げた。

 敏捷性5のわたしがよく間に合ったと思う。わたしはクーとミミを抱え込んだ。鞭が風をはらんで、地面をえぐった。この人、本当にこんな小さな子猫に鞭を振るった。


「お嬢様、なんてことを!」


 ワナワナとケイリーさんの唇が震えている。


「何よ、その目は! 平民のくせに生意気なのよ。あんたのせいで、留学が取りやめになったのよ。これじゃぁいい笑いものだわ、どうしてくれるのよ」


 なんだそりゃ。

 バサバサっと音がして、見上げれば、降り立ったのはバラックさんだ。


「お前は地面にへばりついて何をしているのだ?」


 へばりついていたわけじゃないんだけど。

 クーとミミがわたしの手を遠慮がちに舐める。

 わたしは大丈夫だよとふたりの頭を撫で、立ち上がる。

 さて、このお嬢様をどうするべきか。


「娘、鞭など持って何をしておる?」


「竜人まで……」


「ルークはどうした?」


「ルークさんは今日は侯爵様とお仕事です」


「それでか」


 みんなを厩舎に連れて行った、パズーさんとペクさんも戻ってくる。

 わたしは味方が増えたことで安堵した。

 1対1だと後で平民がこんなこと言ったって嘘つかれて、モードさんのお家に迷惑をかけることになるのではと不安だった。

 でもこれだけの人の目があれば、大丈夫だろう。牧場の者だけじゃなくて、竜人さんもいるしね。わたしは改めて口にする。


「牧場はまだ営業しておりませんので、外に出てください」


 鞭もしまえと言いたいが、庶民は言いづらい。それでも動かず、どうしようと思っているとクーとミミが威嚇した。毛を逆立てて、唸る。


「クー、ミミ。やめて」


 ふたりは振り返って、どうしてだと言いたげにわたしを見る。

 その後ろでお嬢様が鞭を振り上げたのが見えた。


 え。

 クーとミミに被さる。


 バシッと音がして、背中の熱に自分が反り返った。


『ティア……』


『ティア!』


 背中が熱い、燃えるような痛み。

 クーとミミは無事だ。よかった。


「……医者を」


 うわずったパズーさんの声がする。


「いや、私が連れて行こう」


 バラックさんが屈み込んで、何やら焦った声を出す。


「娘、毒を仕込んだ鞭か?」


 毒? この痺れるような感覚は毒なのか?

 魔物といっても牧場なのに。そんな恐ろしい鞭を持ち込むのか?

 熱い。背中だけじゃなくて。どこもかしこも。なんだか、自分が膨れ上がっていくような感覚がする。なんだこりゃ。


『ティア、やだ。目を開けて……』


『ティア! ティア!』


 ミミ、クー、大丈夫だよ。わたしは大丈夫だから。そう口にしたつもりだったけれど、何もかもが重たくて、うまくいかない。

 熱いし、苦しくて、辛くて、真っ暗だ。


『ティア、やだ。やだーーーーーーーーーーー! 助けて! ティアを助けて!』


 ふたりが声を揃えて絶叫している。

 心配をかけている。大丈夫だよ。そう言ってあげたいのに、目も開けられず、口も動かない。

 誰かが何か言っている。


 真っ暗だけど、どこか照らされている気がする。

 風? たぷんとしたぬくいゼリーみたいのが背中を覆った気がした。

 額に羽みたいのがサワサワしている。

 痛みが和らぐ。苦しいのも辛いのもすーっとわからなくなった。

 自分が重たい。とても重たい。疲れた。眠くなった。


「ティア」


 モードさん?

 焦っているようなモードさんの声がした。でも目を開けられなくて。

 わたしは暗闇に閉じ込められた。

お読みくださり、ありがとうございます。


211202> 細々とはになるけど→細々とにはなるけど

ご指摘と適切な言い回しに、ありがとうございましたm(_ _)m


220508>安定して取れる→安定して採れる

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m


220616>10歳以下→10歳未満

ご指摘、ありがとうございましたm(_ _)m

(220616修正は全て〝以下〟を〝未満〟にしたものです)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 許せん! 偉いのは親であってお前じゃねー。 ちゃんと罰を受ける覚悟はあるんだろうなぁ!
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