第11話 下部組織Jrセレクション
幼年期は訓練編と言っても過言では無いと思う。
主人公は小4になります。
浦和レッド・ドラゴンズ セレクション会場
「おいコネ野郎!まだここに居るのかよ。俺だったら恥ずかしくて帰っちまうよ」
「............」
「おい、てめぇ無視してんじゃねぇよ。ちっ、セレクションで覚えてろよこのクズ野郎が。」
これで何回目だろうか、はぁ。いちいち相手にしてられねえよ。最近の小4は本当に刺々しいなぁ。 はぁ。
なぜこのモブAが俺に敵意を露わにしているかというと、1時間前に受付で起こったある出来事が原因だ。
◆◆◆◆◆◆◆
疋田敦賀幼稚園を卒業してそこそこ時間が経ち、俺は小学4年生になった。卒業後も家から近いこの幼稚園で放課後練習している。
ありがたいことに練習相手には困っていない。園長先生や彼の元後輩がメニューに付きって合ってくれるからだ。おかげで俺の技術レベルはトントン拍子で上がっていった。これぞ英才教育と言われるものだろうか。
練習では俺に股抜きされるのが相当悔しいのか、顔を真っ赤にしながら鳥籠でボールを追いかけて来る。もちろん触りもさせずに他の選手にパス。
こうやって大宮アルディーの訓練生と一緒に毎日練習する日々を過ごした。あっという間に月日は流れて俺は4年生。
小4ということは.....そう。クラブの下部組織に入団できる年齢になったのだ。
もちろん古川園長先生やその一味からは彼らの古株、アルディージュニアに入団してくれと悲願された。
しかし距離的にも設備的にも浦和レッドジュニアの方が良いと思い、悪い気がしたが断ったよ。
いつぞやの泣き止まない園長先生&その取り巻きが合わさり、なんともカオスな状況を背にセレクションに向かう。しっかり先生の推薦状も忘れずにだ。
チャリ圏内のセレクション会場には既にかなりの人数が受付の列に並んでいた。
ちなみにセレクションは非公開だ。そのため会場の外には多くの保護者が緊張した面持ちで自慢の子供を見送っている
そこそこ長い列だったが、20分くらいでようやく俺の順番が来た。自分の氏名を告げると神経質そうな受付から、
「はあ?名前が登録されてないし受付証明書がない?」
何でも書類が偽造されるのを防ぐための受付証明書がないらしい。
「うん、ないね。君どこクラブ出身?地元のサッカー団に入ってたのかい?」
「いえ、入ってないですけど.....」
「じゃあ海外留学組かい?」
「いえ、違います」
「え?じゃあ何。今までサッカークラブとかに入っていなかったの?」
「...はい。しかし」
「じゃあ紹介状はどこから貰ったの?」
無言で書類を受付のお兄さんに渡すと、
「はいはいはい、またあの副理事長かよ。毎回使えない選手推薦しやがって。お前もコネかよ。あ~坊っちゃんは楽でいいですねっ!」
「は?」
「ここは全国30万人のサッカー少年の頂点を集めたセレクションだよ?親のコネだか何だか知らないけど、君みたいな人が居ていい場所じゃないんだよ。反吐が出るね。」
「君みたいな初心者、うちにはいらないから。はい帰った帰った、しっしっ」
推薦状を見せると態度を一変させ、目も合わせずに手であっちに行けと言われてしまった。
一瞬頭が沸騰するくらいキレそうになるが、前世で習ったアンガーマネジメント、6秒コントロールで我慢する。だか流石に門前払いは許せなかった俺は、
「お兄さん、田中裕二って言う名前なんですね?僕記憶力良いんでしっかり後で伝えときますね。現場の貴方の記入漏れのせいで僕が試験も受けられずに門前払いされたって。上とどういう確執があるか知らないのですけど、人事権はあっちにあるのはお忘れなく」
タグの名前をしっかり覚えて、暗にてめぇのミスでクビになっても知らねえぞと伝える。
直ぐに事がバレたらどうなるか想像できたのか青ざめた顔で自分の失態に気付いたらしい。これだか癇癪持ちは嫌いなんだよ
「ちっ、これに署名して進んでください」
少し考えたら分かるだろ。なんなんだよこいつは。さっとサインして進もうとすると、
「あーあー親のコネ使って受付の人いじめてるじゃん!え〜二宮ケイ君?最低だな〜実力もどうせ大した事ないくせに。あー俺もボンボンに生まれたかったぜ」
親のコネじゃねえよ。練習相手のおっさんのコネな。俺のサインを覗き込んで名前を確認し、文句を言うセレクション生。突っかかってくるなよ面倒くさいな。
「はいはい、そうですね」
と適当に返すと
「帰れよっこのコネ野郎」
と列に並んでた誰かが言った。この場にいる子供たちは、このセレクションに選ばれなかったチームメイトの思いも背負っているのだろう。
そんな中誰かの推薦であっさりセレクションを受けられる俺に怒っているのだろう。
こいつらはプロのスカウトが日本中を飛び回り、地元の小さなサッカークラブまで視察し集められた才能原石だ。
色々な思いを持ってここに来たのだろう。推薦はテストを受けられる権利であって、結果を残せなければ加入できない事を分かってないんじゃないか。くそ、本当にめんどい......
だが最初の帰れコールを境に、ドミノ倒しのように次々とボソボソとだが帰れコールが始まり、
「俺と同じくらい上手いのに紹介状貰えなかった奴もいるんだぞ!帰れ!」
「どうせどっかのボンボンだろ。金の力で合格するのは嬉しいかよ!帰れよ!」
「こんな騒ぎを起こして恥ずかしくないのかい?責任とって帰ったらどうだ」
「「帰れー!帰れー!帰れー!」」
い、いやなんでだよ....極端だろ。
流石の俺もメンタル折れるぞ.......てか副理事長嫌われ過ぎでしょ。
流石にここまで大事になると遠くに居た職員も何かがおかしい事に気付いた。
係の人が止めに入り一喝すると、渋々ながらセレクション生達は大人しくなったよ。
もちろん俺をめちゃくちゃ睨んで。自分達が注意されたのは俺が帰らなかったからだと思ってるのかよ。本当に子供だな。いや子供か。
はあ、なんて面倒な。しかもこのクソ受付帰れコールを止めるどころかしっかりコールに混じってたの知ってるんだからな。
まあそういう事もありまして俺に対する好感度はゼロを振り切ってマイナスに突入。もはや未来の長期政権並みの嫌われよう。何をしても火に油状態。
少し憂鬱な気分になるが俺はこんな所で立ち止まっていられない。お父さんに世界一になった姿を見せたいんだ。
実は俺のパパン、数年前に糖尿病にかかってしまった。若い頃はかなり貧しかったみたいで、会社が軌道に乗ってからは昔できなかった不摂生な生活をしてきた。ママンと結婚してからは食事面では改善されてたみたいだが、お酒や煙草が原因で内臓はボロボロ。
最近では入院する手続きを進めているみたいだ。俺のママンもかなり精神的に参っている。弟は何が起こっているか理解できてないみたいだが、それは果たして良いことなのか分からない。
お父さんは弟の誕生日ケーキを自分で作りたいといって入院を拒否している。
クソっ.......こんなにチート貰っているのに人一人の命も救えないのかよ。
あのとき【ガチャ】で出たのが【回復魔法】とかだったら良かったのに。そしたら.....
はっ、珍しくネガティブな思考に陥ってしまったな。
自分はかなり精神的な成熟をしていると思ったが、家族を失いたくない気持ちは何度目の人生だって同じだな。
少しでも良い結果をパパンに、いや、お父さんに伝えれるように頑張ろう。こんな俺を本気で愛してくれたお父さん。
ふう。指の先端を一つ一つ小指から順番に反対の手の親指と中指で挟んでニギニギする。
これを反対側の手でも行う。これは動揺や緊張している時に行うルーティンだ。こうすること何だか落ち着く。
おっと、かなりの時間考え事をしていたみたいだ。あと少しでセレクションが始まるな。
残り時間僅かだが軽くアップしよう。
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