Take to the Future.
多分だけど、本当に死にたいわけじゃない。
学校好きだし部活は楽しいし、友達との仲も良好。家族とも割と仲良いよ。お姉ちゃんとはしょっちゅう喧嘩するけど、勉強教えてくれる。お母さんは仕事のことでよくピリピリしてるけど、毎日ちゃんとお弁当作ってくれる。お父さんは……まぁでも中2の娘との関係なんてたかが知れてるでしょ?
どこもかしこも似たようなもの。だから不幸じゃない。でも時々、全てが嫌いになる。誰にも言えない最低の言葉を叫んで全部壊したくなる。
自分が何者にもなれないっていう漠然な不安から、もうみんな死んじゃえって思う。誰かを死ねって思うから死にたくなる。この時は本気で。これも普通?本当にみんなこんな黒い気持ちを抱えながら大人になってくの?……そんな訳ない。みんなどこかにこれを置いていくんだ。私だけが何にもなれず、どこにも置いていけず、ただこれを抱えなくちゃいけないんだ。私だけ……ほら、また死にたくなる。
夜になると、このような考えが頭を巡る。
自室の布団にくるまって泣いていると、突然ドアが開いた。
「えーっと…おじゃましまーす」
そこには小学4年生ぐらいの、見ず知らずの女の子がいた。
「えーっと…はじめまして?は何か変な気もするけど。はじめまして」
「え……?誰?」
「だよねぇ。驚くよね。でも安心して。私は貴方が知らない人じゃないの」
「え?は?……はぁ!?え、誰?誰?なんで勝手に人の部屋に入って来てんの?……お母さーん!お姉ちゃーん!」
私が叫ぶと、その少女は私に飛びついてきて私の口を急いで塞いだ。
「シッ!シー!お…落ち着いて!ね?大丈夫。ほら、私小学生ぐらいの見た目でしょ?こんな幼い子が中学生の貴方に危害を加える訳ないでしょ?だから誰も呼ばないでー…ね?お願い…」
「ふーーふーー…あの…もう叫ばないから手をどけてほしい…です」
自分より何歳も年下の少女に口を塞がれ、恐怖で泣きそうになっているのが自分でも惨めに思えた。
「あー!ごめーん!あー、泣かないでー!ごめん!本当にごめん!説明するから!」
手をどけてもらい、涙を拭って少女を見ると、罰の悪そうな顔でこちらを見ており、なんでこんなにか弱そうな少女に恐怖を感じていたのか不思議で、私は少し笑った。
「落ち着いた?それじゃあ時間もないから説明するね。えーっと、単刀直入に言うと、私は未来から来ました」
「え……」
「あれ?意外と驚かないのね。……驚いてたと思ってた」
「え?いや、驚きすぎて声も出ないのよ。え?未来?あんたみたいな子どもが?何?冗談?」
「それが冗談じゃないんだな~」
少女はいたずらっ子っぽく、そしてなぜか嬉しそうに頭をかいた。
「なんで嬉しそうなのよ。え…未来って…え?なんで私のところに?」
「大丈夫って言いに来ただけ」
「どういうこと?よっぽどの事がない限り、未来から人が来るなんてそんな訳…」
「そうだよね~信じないよね、普通はさ。でも、本当なの」
「…証拠。未来から来たって証拠。名前は?どの時代から?何で来たの?」
きっと答えてはくれないと思ったけど、意地悪な気持ちで聞いてみた。すると少女は案の定困りながら、
「えーっと…そういうのはね、教えられない決まりなの。ほら、未来を知ると未来が変わるって言うでしょ?だから証拠とかはちょっと……」と、威勢を捨てた小さいな声でゴニョニョと答えた。
「ふーん。わざわざ未来から、ただ私に大丈夫って言う為だけに来たっていうの?」
「うーん…それだけじゃないけど…うん。まぁそれだけ」
「…何それ。あのさぁ、嘘つくならもっとマシな嘘つけば?大丈夫って…あんたみたいな他人に、しかも子どもに言われても響かないからね。そういう無責任な言葉、簡単に言ってくれないでよ」
中学生が小学生に今の自分の気持ちだけのイラつきをぶつけてどうする。とても大人げないことをしているのかはよく分かっていたけど、口に出してしまった言葉は、もう呑み込めない。
「そうだよね…その気持ちよく分かる。だって私、あなたのこと、よく知ってるから…」
「え?」
「別にね、私が未来から来たって信じてくれなくてもいいよ。でもね、未来のことは信じてあげて。必ず来るから。今がすごく嫌でも、大丈夫だから…」
「なにそれ」
「訳わかんないよね。でも、貴方に大丈夫って言うためだけにやって来る、私が未来にいることは、憶えててほしいな」
気弱そうに頼りなさげに、でも、まっすぐと私の眼を見て言った。
「…それっていつかはあんたに会えるってこと?」
「うん。私は確実に未来にいるから。ぜーーったいに会えるよ」
「そっか」
「うん」
「あんた…私の将来の子どもとか?」
「ふふ…どうだろ?自分の眼で確かめてみてよ」
「ちょっと私の小さいころに似てるからそうだと思ったんだけどな」
「もしそうでも、「うん」なんて言えないけどね」
「ふふ…そっか…大丈夫なんだ。ふーん、そっかぁ」
「あ!だからと言って今の状況にあぐらかいてちゃダメだよ!?そうじゃないと私が来た意味ないって言うか…未来が変わるかもって言うか…えーと、今のまま!今のままで大丈夫ってことが言いたくて~…」
「分かってるって。未来から来たなんて大口叩くから、もっと堂々としてるのかと思ってた」
「えー……だって貴方にとっての私が未来でも、私にとっての未来は今でしょ?」
「なんかよくわかんないね。あー色々ありすぎて、なんか眠くなってきちゃった…」
「うん。今日はよく眠れると思うよ。このことも夢だったって思うよ」
「え?そうなの?忘れちゃうの?」
「軽くね。でも残るところは残るから。ほら、未来ってあなたの想像で進むから。夢みたいなもんなんだよ」
「そう…なん…だ」
「だから、安心して眠りな。未来でずっと、待ってるから」
「う…ん…」
私は急な眠気に耐え切れず、眠ってしまった。
「おやすみ」
目が覚めると、体がとても軽かった。久しぶりに熟睡した。熟睡しすぎて学校に遅刻したぐらい。なんかとても変な夢を見てた気がする。すごい変な夢。でも、その夢を見てから突然襲って来ていた絶望が少なくなった。時々やって来るけど何故か大丈夫って思えるようになった。なんでだろう?分かんないけど、未来にもちょっとだけ希望が見えた。
それから20年後。小さい頃に想像していた未来より、少しだけ形を変えて今に存在していた。過去に行けるタイムマシンが発明されたのもまさかの出来事。でも誰でも行けるわけじゃない。ちゃんとした試験を受けた者だけがタイムスリッパーの資格を与えられる。何者にもなれないと思っていた私は、タイムスリッパー初の女性操作員になる為、最終試験である実技訓練を受けようとしていた。
「えーそれでは、最終試験を行います。行く年代と場所を設定してください」
「はい…」
教官の指令に従い、私はマシンのパネルを操作する。
ペポピプペポパ
「過去に行くのですか。場所は……実家ですか」
「はい。無くなってしまった故郷をもう一度この目で見たいというのが、私の操作員になった理由でもありますから」
「良いと思います。でも気をつけて下さいね。過去の自分に会ってしまう可能性がありますから。そうなると未来が変わってしまう可能性もあるので」
「はい。えーと、確認なんですが、未来から来たことは言っても良いんですよね?」
「はい。未来の不具合は過去に生きている者たちが理由の可能性もあるので、誰かと出会ってコミュニケーションが取れることは、タイムスリッパーとして重要なスキルです。でも言ったならばしっかり責任を持って説明してあげてください。勝手にパニックになって強制終了だけはしないように。自分と会ってしまったら、ちゃんと眠らせて記憶を曖昧にしてこないと失格になりますよ」
「はい。最善の注意を払います」
「行きたい年代に着いたら、まずは場所と自分の姿を確認してくださいね。過去の姿はランダムに選ばれますので、今の自分と違う姿でも驚かないように冷静に対応してください。制限時間は20分です。時間が過ぎたら強制終了で失格ですから!それでは用意が出来ましたら、自分のタイミングで出発してください」
「はい!」
私は時空を移動した。
「っはぁ!え?着いた?…あれ?」
自分の声が違う。ということは着いたのだろう。私は腕についている時計パネルを確認した。
最初は年代の確認…令和2年。うん、OK。場所もちゃんと実家になっている。実家だけど…ここは家の中?そうか、外って設定するのを忘れていたんだ。家の中から外に出るのは至難の業。やってしまった。いやいやいや…落ち着け落ち着け…自分の姿も確認しなくては。それによっては不審者度がだいぶ変わる。
時計パネルを操作すると鏡になる。私は恐る恐る鏡を見た。
驚いた。
夢に出てきていた少女が鏡に映っている。いつ見たのかも忘れていたあの夢を、私は一瞬で思い出した。
そうか。そうだったのか。あれは私だったんだ。未来の私。私に会いに来てた訳じゃなかった。本当はあの言葉じゃなくて、もっと言わなければならない大切なことがたくさんあった。でも、あの時の私が1番欲しい言葉を言ってくれた。私はどれだけあの言葉に救われたんだろう。
私が大学生になるまで暮らしていた部屋の扉の奥から、過去の私の声が聞こえる。鏡の中の少女に行ってもらった言葉を、次は私が言う番なんだ。この時代でこうやって泣いてる私は、きっと無駄じゃない。そうじゃないと、今の私に繋がらない。なるほど、未来はこうやって作られていて、私はこれからもこうやって、過去の私を未来に連れて行く。
待っていて。もう、大丈夫だから。
悲しくて悲しくて、どうにかなりそうになった時、助けてくれるのは、他の誰でもない自分自身だと思います。




