ウイルス感染確率を0%にする方法
お久しぶりです。
コロナウイルス流行でどこにも遊びに行けないので、思いついたネタを書いてみました。
30分で考えた話なので、設定などに粗があるかも知れません。
半年前に某国にて新感染症が発生。
既存の治療薬は全く効果が無く、最初の感染発見からわずか1ヵ月で感染者は100万人を突破した。
一部の患者検体から病原体が検出されたものの、既存のいかなるウイルスとも遺伝子型が類似せず、全く未知のタイプのウイルスとされている。
当然ながら治療の解明は進んでおらず、塩基配列や増殖方法などの詳細も明らかになっていない。
現時点で判明しているのは、
空気感染により患者が同空間にいるだけで感染すること
潜伏期間は約5日、発症から7日で45%が死亡すること
我が国の国民の半数以上が感染、約2割が死亡したこと。
恐るべきことに、この未知の感染は私の居住する地域でも急速に広まりつつある。
先日、ついに市内で複数の感染者が発見された。
「感染者の出た町や村では軍隊による隔離をしていたが、駄目だったな。」
強力な空気感染なら、むしろ逆効果だったかも知れない。
20メートル離れていても感染するという報告もある。
「打つ手無しか。」
ワクチンも特効薬もなく、都市封鎖も無意味。
下手に治療を行おうものなら、逆に感染を広めてしまう。
「残された道は…」
確実に生き残る方法。
もともと医療用に開発途中だった治療用ポッドを改造した冷凍睡眠装置。
状況が悪化するのを見て、自宅に持ち帰り一人この地下室で改良を行っていた。
「そう言えば、最近は外が静かだな。」
数日前まで呼び鈴が鳴ることもあったが、今日はそれもない。
あちこちで感染者が出ているこの状況では俺の身を案じる余裕も無いだろうな。
ついに市内で感染者が出た時点で、部屋に引き籠って電子ロックを掛けた。
これを解除できる技術者はいまい。
「皆には悪いが、死にたくないんでな。頑張って生き残ってくれ。」
完成している装置は1基のみだ。
親しい友は何人もいるが、命に代えて守りたいほどという訳でもない。
「…よし。」
地下室に籠って既に二週間。
潜伏期間は過ぎている。
俺が感染している可能性は無いと考えて良いだろう。
コンピュータを操作し装置を起動する。
『モードヲ設定シテ下サイ。』
モードは、「長期冷凍睡眠」だな。
期間…いや、解除条件は
自分が感染する可能性が完全になくなるまで。
これでいいだろう。
『解除条件「現在全世界デ流行中ノ新興ウイルス感染症ヘノ感染可能性ガ0%ニナルマデ」』
『設定完了シマシタ。』
よし、大丈夫だな。
装置の中に入り、身体を横たえた。
次に目を覚ますのは、流行が完全に収束した時だ。
どれだけ先になるかは分からない。
数か月後か、数年後か。
あるいは、何十年も経っているかも知れない。
だが人類は滅亡してないはずだ。
死亡率から考えて、人類を滅亡させるほどの力はない。
一部の非感染者や治癒者は生き残るだろう。
「さて、目覚めた後がどんな世の中になってるのか。あんまり変わってないとありがたいが。」
そう言えば、起きた時は皆に何て言い訳しようか。
「発症したから自己隔離してた」とでも言おうか。
…少し苦しいかも知れないが。
「………よし!起動!」
機械音とともに装置の蓋が閉まる。
間も無く装置内を冷気が満たし、意識が薄れていった……。
「……うぅん。」
機械音とともに、装置が開いた。
外気に触れ、次第に意識が覚醒していく。
どうやら解除条件を満たしたようだ。
「と言うことは、感染が完全に収束した世界だな。」
一体どれだけ寝てたのだろうか?
感覚的には一晩寝たのと変わらない気がする。
外はどうなったんだろうか。
案外、あれからすぐ流行が収まっていたかも知れない。
「知り合いが外で待ち構えてたら怖いな…ん?」
そこで違和感に気付く。
部屋の様子が何か変だ。
この部屋は長期の状態保存が可能なシェルターだ。
全く手入れしなくても、100年は室内を同じ状態に維持できるはず。
なのに…
「床や壁がボロボロになってる…何故だ?」
塗装は剥げ、剥き出しのコンクリートも擦り減っている。
「妙だな。外に出てみよう。」
さて、外の世界はどうなってるのか。
「あれ?出口が塞がってるな…」
土が被さっているようだ。
10分ほど扉を押して、何とか開けることが出来た。
「なっ…!!」
地上に出ると、周囲の景色は一変していた。
「これは一体どうなって…いや、ここは本当に俺の住んでる町なのか?」
今自分が立っているのは、深い森の中だった。
寝ぼけてるのかと思い頬を抓るが、痛みを感じるだけで辺りの景色に変化はない。
おかしい。
俺は間違いなく自宅の地下で眠りについたはず。
なのに、目の前にあるのは草木に覆われた古い遺跡のみ。
劣化は激しく、相当の年月を風雨に晒されているのが見て取れた。
散見される床や壁らしき物が、わずかに文明の跡を留めている。
「市街地…も無い。」
街があった方向に目を向けると、そこにあるのは大自然だった。
その中に、ボロボロのコンクリートの構造物が溶け込んでいる。
まるで、ずっと昔からそこにあるように。
「俺は…一体どれだけの間…」
俺はふらつく足取りで地下室に戻った。
「おい…俺が眠ってからどれくらい経ったんだ?」
コンピュータに尋ねる。
『約2万4000年経過シテイマス』
に…にまんねん…だと?
「ちょっと待て。いくら何でもそれは…」
いくら未知の感染症とは言え、収束にそんな時間がかかる筈が無い。
「どういうことだ!何があったのか説明しろ!」
『分カリマシタ。睡眠開始後ノ流行経過ヲ時系列ニ沿ッテ説明シマス。』
『…トイウ経緯デ、起動カラ372日後ニ多国籍ノ研究グループニヨリ治療薬ヲ開発。464日後二特効薬ガ実用化シマシタ。』
『原因ウイルスハ、アレナウイルス科ノ近縁種ノ新型ウイルスデアリ、人獣共通デ感染スルコトガ判明。電子顕微鏡デノ目視オヨビ塩基配列ノ特定ガ困難デアルコトガ治療法確立ノ遅レヲ…」
「ウイルスの正体はどうでもいい。…何で今まで解除しなかった?」
『特効薬完成後、死亡率ハ3%以下ニ低下。感染ハコントロール可能トナリマシタ。』
『シカシソノ後モキャリアノ人間や宿主動物ハ多数存在シ、感染可能性ノアル状態デアッタタメ装置ノ稼働ヲ継続。』
「いや待て、特効薬が出来たならもう大丈夫だろ。何で解除しなかった…あっ!」
そうだ。
機械の設定条件は「感染の可能性が0%になるまで」
あまり考えずに聞き流してしまったが…
「ということは…」
な、何てことだ。
『3245年235日後ニ全人類ガ死亡。24001年62日後ニ感染可能性ノアル哺乳類全テガ絶滅。』
『キャリア種ノ完全消滅ニヨリ病原ウイルスハ根絶サレタト判断、装置ヲ解除シマシタ。』
『現在ノ感染可能性ハ0%。安全ニ外出デキマス。』