第5話 貴族と平民
教会へ向かって歩いていると後ろから野太い声が聞こえた
「よお!平民ども!」
2人は(げ!またアイツか!)と思ったが、あっという間に3人の男達に囲まれた
無能のノーティスにさえ優しい村の人達の中で例外の3人・・・
王都近郊の村であるここイナホ村を治める領主「ギュスターヴ準男爵」の次男坊「オーギュスト・ギュスターヴ」
通称「ギュギュ」
身長は180cmを軽々と超え、貴族とは思えない程健康的に焼けた肌
トサカのような黒髪、筋肉質な体つき
性格は絵に書いたような横暴貴族である
残る2人は双子の兄弟「ボーン」と「リバー」
いつもギュギュの腰巾着をやっている
スキンヘッドが眩しい
「ギュギュ!・・・今は構ってる暇がないんだ」アルナーが言った
「保護者のアルナーは引っ込んでな!」
ノーティスが遠出をする際には戦闘全般を担当し、ギュギュがノーティスに絡んだ際にも横から入ってきて仲裁、もしくは返り討ちにすることからアルナーは〖保護者のアルナー〗の異名を付けられていた
ノーティスにとっては非常に不名誉な異名である・・・
「今日はノーティスに用事があんだよ!・・・リバー!」
「あいさ!・・・鑑定所と腰の剣って言やぁ伝わるか?村人はあまり入らない鑑定所に入っていくのを見ててなぁ」
(迂闊だった・・・前に進むことしか考えていなかったため、後ろへの警戒を怠っていた)ノーティスは反省する
「つーわけで、その剣は平民のお前が持ってるよりも貴族の俺様にふさわしい・・・よこせ!」
「ああ~なるほどね~!そういうことか~・・・じゃあ僕が相手をしてあげるね」
アルナーは臨戦態勢に入った
「待て待て!今日の相手はお前じゃねぇって言っただろ!」
ギュギュがたじろぐ
それもそのはず、ノーティスに絡んだ際の代打とアルナーに決闘を挑んだ際の合計戦績はアルナーの437戦437勝である
毎度のお約束のように返り討ちにあっていた
「条件がある!」
(自分から仕掛けといて条件って、コイツやっぱりバカなんじゃないか)とアルナーは思ったが聞くだけ聞いてみることにした
「俺様とノーティスの一騎打ち!俺様が勝てば剣を貰う!お前が勝てば1つだけ何でも言うことを聞いてやろう!」
「ノーティス!受ける必要無いよ!」
アルナーは止めようとしたが、ノーティスは迷っていた
(条件としては悪くない・・・こいつも一応貴族の息子だから大金を払ってもらうとか・・・いや、二度とちょっかいを掛けてこないとかでもいいな)
(ただ、負けた場合は唯一の家族の形見を失うことになる・・・)
ちなみにたまたまアルナーが村にいなかった時に絡まれた際の戦績は、ノーティスの16戦16敗である
(いや待てよ?今までは素手でしか戦わなかった・・・鑑定士の話だと盾としても使えるって事だったな)
「質問だが武器の使用はいいのか!?」ノーティスは聞いた
「当然だ!決闘だからな!俺は魔法と素手しか使わんがお前は好きに使え!まあ、貴族であり強者の余裕だな!ハンデってやつだ!」ギュギュは高笑いをする
そもそもギュギュは魔法を使うがノーティスは使えない
(ハンデって何だろうか・・・)
アルナーは思った
「はぁ・・・ノーティスがやるって言うなら止めないよ・・・でもどっちかが死にそうになったら止めるからね」
「この戦い受けよう!アルナー悪いな!」
ノーティスは鞘に納めたままの剣を左手で構える
「逃げなかったのは褒めてやる!ボーン!合図しろ!」
「へい!・・・それでは始め!」
戦いが始まった
先に仕掛けるのはギュギュ
「グラビティ!」
下級重力魔法「グラビティ」
単体に自重の3倍の負荷をかける
「身体能力強化!防・速!」
同じ属性の魔法は同時に使えないという世界の理の中で、身体能力強化魔法は少し特殊な扱いになる
攻・防・速・跳の分類があり、術者は自分の適正に合ったものが強化される
つまり「防・速」で1つの魔法になる
例で言えばギュギュの「防・速」
〖全能の勇者〗ディアウスの「身体能力強化・全」である
それぞれを任意で外すことも可能だ
ギュギュがノーティス目掛けて真正面から突っ込んで来た
ギュギュは凡能持ちであり、「身体能力強化」と「重力魔法」の2種類の属性魔法しか使えない
しかし、必ずしも凡能持ちが有能持ちよりも弱いとは限らない
生まれた時の適正で膨大な数の属性から、4つの属性に適正のある有能持ちに生まれたとしても、似たような系統を引くこともある
例えば、水魔法、泡魔法、石魔法、岩魔法の4種類に適正を持って生まれた場合
全くの無意味ではないが、内2種類は死んでいる状態になる
しかも、完全に目覚めた状態でこれなので場合によっては最初のうちは石魔法と岩魔法の2種類しか使えないという可能性もある
ギュギュは正しく大当たりを引いたと言える
対象の行動力を奪う重力魔法
自身を強化する身体能力強化魔法
2種類しか使えないとはいえあまりにも相性のいい属性だ
(コーンスープのクルトンのようだ・・・)とノーティスは思った
ノーティスは身動き一つ取れないままギュギュに殴られる
「ぐあっ!」
ギュギュは今のところ身体能力強化・攻は取得していないが、体格に恵まれているため1発1発が重い
「どうしたどうした!何か勝算があったから受けたんだろう!見せてみろ!」
ギュギュのラッシュは止まらない
タフなノーティスも急速に体力を奪われていった
(・・・身体が・・・動きさえすれば・・・この重力が無かったら!)
「ダメだ!もう終わ・・・」アルナーが止めようとした時ノーティスが立ち上がった
ゆらりとでは無い
スっと立ち上がった
「ん?魔法の効果時間切れか?なら再びかけ直してやる!グラビティ!」
ノーティスは依然立ち上がったままである
「「え!?」」ギュギュとアルナーが同時に叫んだ
驚愕の表情を浮かべるギュギュにノーティスが右手に持ち替えた剣の鞘で殴りかかった
ガキンッ!!
鉄を殴ったような音が響き、頭部から血を流したギュギュが後退する
「何をしやがったか知らねぇが危なかったぜ!万が一にも必要無いとは思ったが身体能力強化・防が無けりゃ今ので決まってたな!」
「くそっ!」
ノーティスは自身に起きた現象よりも今ので決まらなかったことにショックを受けていた
アダマンタイト整の鞘で殴ったにも関わらず倒せなかったギュギュ
(あいつどんだけ硬いんだ・・・)
剣を抜けばおそらく真っ二つに出来るだろう
だが、ノーティスは人はもちろんのこと魔物ですら切ったことは無い
ましてや剣を抜いたこと自体が鑑定所で初めてである
「アダマンタイト整か・・・ますます欲しくなったぜ!」
ここで引くようなギュギュではない
そもそもそんなに物分りが良かったらこんなことにはなっていないのだ
(殺さずに無力化するしかない!)ノーティスは思った
(くそ・・・あいつの身体能力強化さえなければな!)
真正面からノーティスが突っ込む
余裕の笑みを浮かべるギュギュ
「ハッ!重力魔法はなぜか使えないようだが、まだ身体能力には圧倒的な差があることを教えてやる!」
ギュギュはノーティスの右ストレートを回避・・・
・・・出来なかった
腹に思い切り決まり、ギュギュの身体がくの字に曲がる
「ガハッ!・・・なぜ!?」
「俺もよく分からん!」
「何を・・・しやがったぁ!」
「分からん!分からんが1つだけ分かった!」
ノーティスが鞘に納めたままの剣を構える
「・・・待て待て!ちょっと待て!」
「決闘だろ?これは・・・」ノーティスがニヤリと笑った
「なぁぁぁ!?」
ノーティスは剣に力を込めず重力に任せてギュギュの頭部に振り下ろした
メコッ!
そんな音が聞こえた気がした
ギュギュは頭部から血を流し倒れた
「よし!勝った!・・・死んでないよな?」
「ノーティスお疲れ様!普通の人なら分からないけどギュギュだからね!気絶してるだけだよ」
「ギュギュが・・・」
「やられた・・・」
力なくギュギュに歩み寄るボーンとリバー
「凄いねノーティス!」アルナーが激励する
「俺も勝つつもりでは挑んだが勝てるとは思わなかった」
「また教会に行く理由が増えたね」
「そうだな・・・痛っ!回復して貰わないと」
「とりあえず、さっきの条件を果たせる状態じゃなさそうからギュギュは後回しにしよう」
何だか濃い1日になりそうだ
ノーティスには妙な充実感があった
ついに力の片鱗を見せた主人公
ノーティスに秘められた力とは・・・
ここまで読んで下さった方ありがとうございます!
もう少ししたら設定集と登場人物紹介を載せます!