第3話 勇者と祖父
・・・王都を出てから約2時間後、何とか村に到着した
「調べるのは明日にして、今日はゆっくり休もう」
「そうだね」
2人はアルナーの家に向かう
夕飯をここで食べるのがノーティスの日課でもあった
「ただいま~!」
「遅くなりました!」
アルナーの母、ペチュニアが出迎えてくれる
「おかえりなさいアルナー、ノーティス、ご飯出来てるわよ」
「はーい!」
アルナーの父、ストローも風呂から上がってきた
「おかえり2人とも、パレードはどうだった?」
「凄かったよ!出店もたくさんあったし」
「さすが王都だけあって人も多かったです」
「「それで!」」
2人は同時に顔を見合わせた
アサシンウルフのことを話すべきだろうか迷ったのである
話せば余計な心配をかけることになるかもしれない
だが、ノーティスの父ドレッドとアルナーの父ストローは友人だったため、もしかしたらノーティスの剣について何か知っているかもしれない
「それで?」
ストローが聞いてくる
結局、アサシンウルフのことは伏せて剣のことだけを聞くことにした
「・・・それで、パレードの中央で全能の勇者様を見かけたんですが、この剣は祖父が若い頃に勇者様から頂いたと父から聞きました」
「ふむ、私も若い頃にドレッドに聞いてみたことがあったな」
「どういう経緯で頂いたかご存知ですか?」
「ああ、知っているよ」
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「早く逃げないと!」
少年は走る
もうそこまで魔物の群れが追いかけてきた
昨日までは平和な村だった
近くの洞窟から突如大量のゴブリンが発生し、村に襲いかかってきたのである
大人達が囮になってくれたおかげで、少年はなんとか村を離れることが出来たが一部のゴブリンにしつこく追跡されていた
「痛っ!」
振り向きながら走っていたためか、疲労のためか少年は木の根につまづいてしまった
「ゲヒヒヒ!」
ついに追いつかれてしまった
振り返ると20体以上はいるであろうゴブリン達
勝ち誇るゴブリンの一体が少年へと剣を振るう
「ファイヤーボール!」
「ギッ!?」
油断しきったゴブリンの顔面に、少年が全力で唱えた下級炎魔法が直撃する
「・・・ざまぁみろ!」
少年は肩で息をしながら笑った
しかし、ゴブリンは倒れなかった
効いてはいるが、絶命させるには威力が足りないようだった
怒りの表情を浮かべたゴブリンが再び少年に切りかかる
(もうダメだ!)
少年は目を閉じた・・・
「ヒュー・・・ヒュー・・・」
風の音が聞こえる
(他の人達はどうなったんだろう・・・)
どれほど時間が経っただろうか・・・
いや5秒ほどもしくは永遠のような時間・・・
風の音が聞こえなくなった
少年はゆっくり目を開けた
目の前のゴブリンは首の後ろから喉まで鋭い石柱で貫かれ絶命していた
先ほどの風のような音はおそらく貫かれた喉から漏れる呼吸音だったのだろう
そして、目の前に人間が一人
金色にたなびく髪、花のような香り、中性的だが凛々しい顔立ち
〖全能の勇者〗ディアウスがそこにはいた
「少年、頑張ったね。そこで休んでいるといい」
「・・・勇者様?」
何が起こったか理解が出来ないゴブリン達と少年
だが、仲間をやられディアウスを敵として認識したゴブリン達が一斉に襲いかかってきた
「渦魔法サイクロン、油魔法オイルスリップ、石魔法ストーンニードル」
空中に現れた巨大な渦にゴブリン達が飲み込まれ、渦の中を飛び回る石柱に串刺しにされていく
かろうじて身体能力の高いゴブリンが石柱をキャッチしようとするが、油を纏った石柱は容赦なく手をすりぬける
20を超えるゴブリン達は瞬く間に全滅した
「・・・さて、少年。私はこれから君の村を救助した後、洞窟を片付けてくる」
「本当!?・・・お願いします!」
「追っ手は全滅させたから心配は要らないと思うけど万一の事もある。最低限自分の身を守れるようにこれをあげよう」
「・・・剣?」
白と金を基調に装飾を施された見事なショートソードだ
「本当は君を村まで連れて行ってあげたいが、君の状況から察するに村は予断を許さないようだ・・・」
「ありがとうございます!・・・村の人達を・・・父ちゃんと母ちゃんを助けてください!」
勇者は軽く頷き爽やかに笑った
「その剣はきっと君を・・・そして家族を守ってくれるだろう」
「時空魔法ワールドステイシス」
目の前の勇者が消えた
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「・・・というような話だったな確か」
ストローが話し終えた
「そんなことが・・・」
ノーティスは考える
「まるで見てきたように随分詳しいですね」
「そっち!?」
アルナーは盛大に突っ込んだ
「俺とノーティスの父ちゃん・・・ドレッドは友人だったと言っただろ?・・・小さい頃からお前の爺さんにしつこいくらい聞かされてなぁ・・・」
「なんとなく分かる気がします」
ノーティスが物心がつく前に祖父は亡くなってしまったが、父からは熱血で快活な人だったと聞いていた
「あいつの家に遊びに行くたびに「お!また俺の武勇伝を聞きに来たのか!ハッハッハ!」って捕まってなぁ・・・」
「なんかすいません!」
謝るノーティス
「それよりもそっちじゃなくて!」
アルナーが話を区切った
「その剣、思った以上に凄い力があるんじゃない?・・・明日、鑑定士に見てもらおうよ」
「全能の勇者様から貰ったならきっと凄い性能だろう」ストローも頷く
「分かりました!」
畑仕事と魔物図鑑を読むこと、アルナーと遊びに行くこと以外に特にやることが無い生活
ノーティスは少しワクワクしていた