第1話 全能と無能
最強系物語ですが、主人公は持たざる者として生まれました
序盤はとても弱いです
そんな主人公の無双の物語
長い目で楽しんで頂けたらと思います
全ての人間が魔法を使える世界・・・
これは最強の持たざる者が歴史に名を刻む物語である
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「魔法国家セラエノ」
今日は建国2000年を記念して盛大なパレードが行われていた
パレードの中央には国王である「プリズム・ウル・セラエノ」、そして隣には国を代表する勇者である「ディアウス」がいた
沸き起こる観衆、鳴り止まない拍手
この国では約500年間戦争が起こっていない
「賢王」と名高いセラエノ王や、その祖先達が圧倒的な外交力で他国との友好を結ぶのが上手かったことが1つの要因
もう1つの要因は隣の勇者・・・
今年で527歳を迎える歴代でも最強かもしれないと言われる男である
527歳とは言っても、自ら生み出した不老不死魔法により見た目は20代後半、輝く金髪をたなびかせ爽やかに笑ういわゆるイケメンである
・・・そんなパレードを見に来た近隣の村人が2人
「速いよ!ノーティス!」
「アルナー悪ぃ!待ってやりたいけど建国祭だぞ!?しかも2000年記念パレード!」
「分かってるけど、7日間もやるからそんなに急がなくても・・・」
白髪に野暮ったい顔の平民の青年、ノーティス
腰には身分には不釣り合いな見事な装飾のショートソードが差してある
息を切らして後を追うのは唯一親友と呼べるアルナー
小柄であり、幼さの残る顔立ちだ
この世界には大きく分けて人間に4つの線引きがされてある
全能「オール」と呼ばれる全ての属性の魔法を使うことが出来る500年に1度生まれるかどうかという極めて稀な人間
有能「ハイアビリティ」と呼ばれる3~7種類の属性の魔法を使うことが出来る「エリート」「天才」
凡能「ローアビリティ」と呼ばれる1~2種類の属性の魔法を使うことが出来る一般人
無能「むのう」と呼ばれる全く魔力を持たず、魔法も使えない1000年に1度生まれるかもしれないというある意味では伝説のかわいそうな人間
「あれが国王様と全能の勇者様か~!」
ノーティスが叫ぶ
「全能の勇者」の異名を持つディアウス
この男こそ、戦争が起こらない最大の要因であった
その身には状態異常無効魔法、身体強化魔法を纏い、地震や津波、果ては隕石まで降らすような魔法を行使出来る勇者
誰もそんな男がいる国に喧嘩を売りたくないのだ
全能の勇者は時代にたった一人、つまりディアウスが自分に不老不死魔法をかけた以上そういうことである
「羨ましいよね~」
アルナーも答える
「まだアルナーは有能持ちだからいいよな・・・」
「あ、ごめんごめん!ノーティスは無能だもんね」
「無能ってどういうことだ、おい」
「いや、魔法的な意味で・・・」
赤子は生まれてすぐに教会で魔法の才能と適正を診断される
鑑定台に乗り、隣に設置してある石版に神官が魔力を流す
石版にはめ込まれたオーブがいくつ光るかという診断方法だ
オーブは8つはめ込まれており、2つ以下なら凡能、3つ以上で有能となる
8つ目が光ることはまず無い
それは全能ということになるからだ
貴族でさえ凡能が多い世界で、平民のアルナーは稀な有能持ちだった
光ったオーブの数は7つ
アルナーの両親は泣いて喜んだという
そして、ノーティスは全能以上に稀な無能であった
つまりオーブは1つも光らなかった
ノーティスの両親は笑いながら気絶したという
ノーティスという名前は今は亡くなった両親が「せめて病気も怪我も何事も無いように注意して欲しい」と付けた名前だ
「そういや、アルナーは村を出たら魔法学院に入って将来は「ハイガード」になるのが目標だったな」
「うん!かっこいいよね!」
国王直属の近衛騎士団「ハイガード」、団員は貴族、平民問わず優秀な有能持ちで構成される集団だ
今も国王と勇者の護衛で配置されている
「もうこんな時間か・・・」
「7日間やるとは言っても宿に泊まるだけのお金はないしね」
気が付くと夕暮れ時になっていた
出店で軽い腹ごしらえを済ませた2人は村に帰ることにした
半分近く歩いた所ですっかり暗くなってしまった
「ライトウィスプ!」
アルナーが下級光魔法を唱える
10メートル先まで照らしてくれる光だ
たいまつと違い、手で持ち歩く必要は無く術者の近くで浮遊するため便利である
2人の暮らす村「イナホ村」までは20キロ程、街道は整備もされており冒険者や一般の王国騎士も通行する
もちろん魔物も出るが・・・
何かが近づいて来る音が聞こえる
・・・ドドドドド!
夜行性の下級魔物ブラックウルフだ
夜に旅人や冒険者を群れで襲う
数は8頭
「ノーティス、下がって!」
アルナーが前に出る
「気を付けろよ!アルナー!」
ノーティスも大人しく後退する
ノーティスも日頃の畑仕事で腕力と足腰には自信があった
実際、人間相手で魔法禁止という縛りの喧嘩であれば強い部類に入るだろう
しかし、ここは魔法がものを言う世界
しかも相手は魔物で命を奪い合う戦いである
身体が鍛えられていないアルナーの方は現在3種類の属性魔法を使える
ショートソードを所持しているとはいえ、鞘から抜いたことは1度も無い
父の形見だから身に付けているだけ
どう考えてもノーティスは足でまといだった
ならば戦いに参加しない方が余程勝率は高い
アルナーが先制攻撃を仕掛けた
「バブルスリップ!」
下級泡魔法がブラックウルフの足元に拡散する
この魔法自体に攻撃力は無いが、機動力を武器にする相手には効果的だ
案の定ブラックウルフ達はまともに立つことも走ることも出来なくなった
そこにアルナーが追撃をかける
「ライトニング!」
1頭のブラックウルフに直撃した雷撃が濡れた地面を伝い他のブラックウルフ達にもダメージを与える
通常、下級雷魔法のライトニングは単体攻撃だが、先にバブルスリップを使うことにより範囲魔法へと変わる
アルナーの最も得意とするコンボだ
「ライトニング!」
「ライトニング!」
「バブルスリップ!」
「ライトニング!」
ピシャァ!ピシャァ!ブワッ!ピシャァ!
と逃げることも防ぐことも出来ないブラックウルフに更に追撃を浴びせる
ノーティスは思った
(うわぁ・・・容赦ないな・・・)
明かりの無い状態で群れと戦った場合、Cランクの冒険者でもソロで勝つのは難しいと言われるブラックウルフ8頭は約1分程で全滅した
原則的に同じ属性の魔法は2つ以上同時に発動出来ない
つまり、先程のアルナーのように「ライトウィスプ」で明かりを確保している場合は光属性の攻撃魔法は発動出来ないということだ
逆に光属性魔法で攻撃をする場合は「ライトウィスプ」は消滅する
これが凡能持ちと有能持ちの絶大な差である
1属性しか魔法を使えない冒険者などが戦闘を行う場合、攻撃魔法か防御魔法か補助魔法などのどれか2つは捨てなければならないのだから
いかに有能持ちとして生まれること自体がアドバンテージを有しているか分かるだろう
「片付いたかな?」
アルナーがつぶやく
「相変わらず強いな~こいつらDランクの魔物だろ?しかも5頭以上の群れだとCランク扱いになるらしい」
「ノーティスは魔物に詳しいよね」
「ああ、戦えない分魔物の生態は勉強しておかないとな」
「もうマニアの領域だよね」
「まぁ・・・そうだな」
「若干気持ち悪いよね」
「おい」
「冗談だって」
ノーティスは自分に魔法の才能が無いことをよく分かっている
将来は村で畑仕事続けるか、魔物学者になるかで迷っていた
(これでノーティスに魔法の才能があれば2人で冒険者になるっていう選択肢もあったんだけどな・・・)
アルナーはこの他愛ないやり取りを心底気に入っていた
「じゃ、帰ろうか」
「ああ」
2人は再び歩き始めた
初連載です!壊滅的に絵が下手くそな作者です!
書きだめが無くなるまでは早い更新をしていきます。
余談ですが、現在のノーティスの身体能力はやや一般人以上、アスリート以下、格闘家以下です
なお、某人気マンガの主人公、少年魔法騎士の足元にも及びません