兄の心、弟知らず
感想&ブックマークありがとうございます!!
王様視点です。
あと気づいたらまたキャラが増えました・・なんでや?
区切りがなかなかつけなかったので今回長いです。
どうぞお楽しみください
私はノアトリス・ロエ・サタニファス。サタニファス国の王である。
10年前に父王陛下が病死してから、我が国は混沌を極めていた。まぁ、色々あったがそれもようやく3年ほど前から終息しつつある。残念ながら当時の黒幕はあと少しで逃げられてしまったが、今も秘密裏に捜索しているところである。
とりあえず、今現在の問題だ。
先日、未開の遺跡を見つけてから過半数の魔術師が遺跡調査に行ったり、またそこで発見した未知の魔術陣を持ち帰ってきた。
ここまでは特に問題なかった。いや、本当は遺跡調査にそんな大人数を割くのも問題ではあったが、問題はこの後だ。
私の誇りである弟のオルキスは魔術師団長だが、オルキスはそのとき外務大臣として隣国パルフェに外交に行っていた。
なので、遺跡の魔術陣の研究はオルキスが帰国してからと聞いていたのだが、どうやら奴が我々の目を盗んで魔術陣を描いて発動させたらしい。と言うのも、その日研究する予定の魔術陣はまだどういう意図で使用されたか分かる転移陣だった。
それも精々、距離1メートルくらい先に物を転移できるというもの。研究する内容はその転移陣が我々が使用しているもの転移魔法とどんな違いがあるかまた再現可能かどうかなどと書類にはそう書いてあった。
しかし、奴がそれを直前に召喚陣に書き換えた上に異世界から人を対象に設定したらしい。
というのも、結果論だがどうやらその時、遺跡調査より持ち帰った未知の魔術陣の解析をしていた魔術師たちがいて、その魔術陣を奴が見ていたらしい。あいつは能力は高いのだが、非常に問題児だ。そして、転移陣の最終チェック時に事態を引き起こしたという。ちなみにその行動に誰か一人でも危機感を持っていてくれたら回避できたかもしれないが、あいにくその時いた魔術師たちは不眠不休の研究に頭があまり働かなったと・・・
私が言うのもなんだが、休息は必要だ。まともな判断ができない魔術師たちと問題児。
そして、唯一その場で奴を止められたかもしれない魔術師副団長であるノックス・フィンガードは私の目の前で遺跡の調査結果を報告していた。
お陰で報告途中に何やら悪寒がすると思えばこれまで感じたことのない魔力反応と、光の柱が魔術師専用の塔に立ったのをフィンガードと一緒に見た。見てしまったとも言えよう。
一体、何をしたのかと本当はその場に転移しようと思ったが別の書類を提出に来ていた宰相のダウン老が部屋にいたため仕方なく魔術師塔に設置されている水晶体にコンタクトしてモニターを執務室に大画面で開いた。
すると、建物に損傷は見られず光の柱も消えている状態だった。
怪我人はいないようで爆発が起こったわけではない様だなと思いつつ、水晶体を移動させ塔の内部を確認する。
もしかしたらと思ったがやはり、問題は起こっていた。
何十人かの魔術師たちがとある人物を中心に円になって、その中心になっている人物はどうやら倒れているようだった。
フィンガードがすぐに転移しているからモニターに彼が映って、その場を治めようとしていることは見て取れた。
倒れている人間にも膝を付きながら、介抱しようと抱き起こそうと触る前に倒れている人間が目を覚ました。
その黒の瞳は一瞬、モニター越しに私を見たようだった。
が、それは錯覚だと思い直した。水晶体は最小限の人間しか知らないうえに目に見えない様に透明化の魔法も設定されている。
それに黒髪黒目の女性はどこか焦点の合わない目でぼんやりとしており、そのままぐらりと体を倒れそうになってフィンガードが彼女を支えるのを見て、風魔法でフィンガードには誰か監視を付けて部屋に寝かせておけと伝えた。
頭痛がするのを気のせいと思いながら、隣国パルフェにいるオルキスに連絡をとるようダウン老に命じた。
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「陛下!!あのゴミはどこですか!?」
そう怒り心頭で執務室で仕事をする私にせまってきたのは隣国より帰省をするよう伝えたオルキス。
予想通り問題を起こしたあいつを今回ばかりは仕留めてやると言わんばかりの勢いで扉を大きな音をたてて開けたかと思えばずかずかとこちらに真っすぐ向かっているので、内心ため息をつきながらすでに処分は下したと言った。
「どのような処分を下したので!?」
お前も以前に師匠に連れられて置いて行かれたことのある孤島に飛ばしたと伝えると
「そんなものでは手緩いですよ!!はっ!魔力封じの腕輪でも付けているので!?」
付けてはいないと伝えると、いつもの外面用のふわふわしたイメージのいい笑顔から一転、部屋の温度が下がったかのように錯覚するくらいの真顔になるオルキス。
何も応えずにそのまま様子を探りながらも手元の書類を確認して仕事を進めると、深いため息をついて渋々了承したオルキス。
「戻ってきたら絶対にシバきます」
それぐらいで怒りが治まるならと思い、好きにしろとは言った。
また、オルキスは手緩いと言ったがあそこの孤島は確かにただの人間なら大した罰にはならないとは思うが、確かあの問題児は方向音痴だったと聞いている。なので、当分は帰ってこれないだろうとは思ったのだが?まぁ、魔力の紐はつけてあるのでどこにいるかは把握している。別段、問題はなかろう。
とりあえずは、召喚された異世界の人間だ。
彼女は丸一日眠って、その翌日に目を覚ました。体調やまた言葉が通じるのかも確認して謁見の間に連れてくるように伝えた。
そこでハッキリ確信した。
彼女の情報が何一つ読み取れない。もともと、召喚された時から魔力を感じないなとは考えていたが、高位魔法である鑑定魔法でも確認できない人間はこれが初めてだった。なのに、威圧を込めて話しかけてみるもあっけらかんとした感じで対応されてしまって、つい動揺してしまった。
結局、大臣たちと話し合い私とオルキスの師匠を呼ぶことにした。
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「おや、これまた随分珍しい・・・はて、お主は誰じゃったかの?」
王だけが入れる秘密の部屋に行き、そこに置いてある水鏡に師匠につながる銀の灰を軽く落とす。
波紋が何回か器に行きあたってから師匠の顔が見えたと思えば、第一声がこれだった。
思わず、水鏡を切断しかけてしまうのをこらえて名を伝える。
この方――「夜明けの賢者」ルーファス様―は長いこと生きているのにたまに年相応の振りをされる。と言っても、この方は出会った時から変わらないので何年生きておられるかは不明である。オルキスが幼いころ、賢者の七不思議と言っていた気がする。あとの六不思議はなんなのかは知らないし、知るのが恐ろしい。
「ふむ、相変わらずも仕事中毒者じゃな、あぁ、風の便りに話は聞いておる。異世界人がよばれたとな・・・。して、その異世界人の件で何用じゃ?」
相変わらず、耳を拾うのが早い方だと思いつつ状況を簡単に説明する。
「ほほう!お主らの鑑定魔法が通じないとな!面白そうじゃな、会ってみようではないか」
了承してもらってホッとするも異世界人ならではのことなのか尋ねておくと
「異世界人がすべてそのようではないぞ?確か以前滅びた国では一度、異世界より聖女が召喚されたがそやつにも鑑定魔法は効いたと聞く。異世界人の称号があったとな」
そう聞いてあとはいつ頃に国に来られるかなど話合い、水鏡の接続を切った。
出来るだけ早めでお願いしたいところだが、師匠は自由な人なのでまぁまぁ見積もりつつ一か月ほどで来てもらえるよう取り付けた。気が向けばもう少し早めに来てくれるだろう
それまで、あの異世界人の見張りは増やしておこうと考え、部屋を出た後にオルキスの部屋へ向かったが
「あ、さっきあの異世界人付きの侍女がきて厨房の利用許可出しちゃった」
と先に言われて、眩暈がした私は師匠の言う通り働きすぎなのだろうか・・・
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翌日、あの異世界人は意気揚々としながら厨房に向かったらしい。
執務室でいつものように仕事をしていると、監視役としてつけた影が異世界人の様子を告げてきた。
「ヘイカ~!あの人ヤバいよ!?急にカタカタ笑いだすんだもん!思わず、逃げちゃうとこだった!!」
「厨房に到着したと思えば、今ある食材についてあれこれ料理長に尋ねておりました。傍に付いている侍女とも上手くやっているようでしたよ」
双子の影にそのまま見張るよう伝え二人の頭を軽くなでて、瞬きした次には二人の姿が消えたことを確認しながら、ひたすら目の前にある書類の山を減らそうと仕事をする。そのうちに文官たちが書類を運んだり執務室で処理を行う時間になって気づいたときには昼食を食べずにそのまま仕事をしていた。
なので、何か黒茶色いものが乗ったお皿を目の前に出されたときはぎょっとした。
顔をあげると、またいつものように時を止めた双子が目の前に給仕姿で立っていて、執事服を着ているオズがお茶を入れてくれ、侍女服を着ているシアがフォークを使って、黒茶色いものを刺し
「はい、ヘイカ!!あ~「陛下、どうぞこちらを」ったぁ~!」
こちらに差し出すも横からオズがシアの頭をつかんだかと思えば、目の前に紅茶を置いた。
案の定、シアは掴まれた頭が痛むのか頭を押さえながらうずくまる。大丈夫かと、声をかける前にオズに
「あの異世界人が作ったものをお持ちしました。ガトーショコラと言うものです。あと、厨房から拝借してきた軽食もありますので、どうぞお召し上がり下さい」
と言うと
「オウサマ!!この茶色!甘くて美味しいんだよ!!」
と金の瞳をキラキラと輝かせながら、じっとそのガトーショコラと言うものを見つめている。ふむ?一度食べたがもう一度食べたいと言うことか?
特に食事にこだわりがない私が、食べても構わないと言う前にオズがシアの頭を再度掴んで圧迫し始めた。
「これは、陛下のだからね?シア?さっき僕の分も少しあげたでしょ?これ以上陛下のお食事の邪魔をするとお仕置きするよ?」
「うぅぅぅ~痛い痛い!!分かった!オズ!食べないから!!」
じっ、とオズとシアがこちらを見つめてくる。
そんなにみられると少々食べづらい・・・・。と思いつつ、口に含む。
ふむ、初めて食べる味だが美味い。口の中に含んだ瞬間に甘い味が広がっていくのを不思議に思いながら食べていると、シアから白いのも一緒に!と言われ、白い「クリーム」というものをガトーショコラに乗せて口に入れる。
ほぅ・・・。ただ甘いだけでなく冷たい甘さのあるクリームと非常に合うものだなと考え、初めて食事を美味しいと思えたかもしれないが、少々クリームが甘すぎたようで3分の1ほどそのままシアに渡すと、なんだかんだ仲が良い双子はガトーショコラを半分にしてもう一つフォークをどこから取り出したかは分からないが、互いの口にフォークを差し出して一緒に食べていた。白いクリームはシアがオズに譲ったのかと思えば、オズが結局差し出したフォークに白いクリームがついていて、シアが顔を輝かせながら食べたのだった。
仲が良いことだと思いながら、いつもの軽食をいただく。む、普段と変わらないものを食しているはずだが、なんだか味気ない様に感じるのは気のせいだろうか?
「紅茶を淹れなおしましょうか?」
と、オズに気を使われたが少し冷めた紅茶でも特に問題がないのでいいと手振りで応え、他の軽食を口に含む。
そうして、食事を終え双子に感謝を述べるとまた瞬きをした瞬間には双子は消えていて、部屋の文官たちも動き始めた。
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あれから集中していたせいか、自分の手元に影が落ちたことに気づくと真正面にオルキスがとてもいい笑顔で立っていた。どうしたのかと思えば、鐘が鳴ったと言う。気づかなかったようだった。周りの文官たちは、集中していた者もいれば何か予定があるのかそわそわしている者もいて、今手にしている書類だけ処理したら帰ってもいいと伝えた。そわそわしていた者が真っ先に帰り、皆もそれに続いて執務室から出る様子を確認しながら、自分はまだ処理作業をしようとする。
まだ手元に影が落ちている。オルキスのせいだ。
一体何がしたいのかと顔を上げるも、とてもいい笑顔である。あの問題児の件で怒り狂っていたのが嘘のようだ。
別に放置しても構わなかったが、それで拗ねられるの面倒だったので渋々椅子から立ち上がった。ため息がでてしまうのは仕方がないので許してほしい。とりあえず、どうやらご機嫌な様子の弟の後ろをついて歩くと食事の間だった。
何がそんなにオルキスの機嫌を良くしていたのかその理由は、テーブルに乗せられた食事を見て分かった。
ただ一体これはなんなのか?
私とオルキスが席に座って、給仕や侍女たちがテーブルに今日の夕食を並べてくれるがその時から何やら香ばしい匂いがした。
どうやら並べられる食事からだが、普段の食事と同じではないのか?
テーブルに並べられた食事を見ると、普段と変わらないような・・・いや、メイン料理が見たことがないものだった。一体なんだこれは?どうも肉料理のようだが・・・・
鑑定魔法
「コカトリスの照り焼き」
使用材料:コカトリスの肉、ロイ糖、キドニー、調味料etc・・・
これだけの材料で一体どんな味だ?
口に含むとまず香ばしい香りがすると思った。咀嚼すると肉の汁がじゅわっとしてとても美味しいと感じた。
これはいったい誰が作った料理なのか?今までの料理とは明らかに違いすぎる。
そう考えつつも手に持っているフォークとナイフの手は止まらない。よくよく見ると、同じ料理が2つあると思ったが微妙に味が違うようだ。
最初に食べたのは普通に美味しいが、もう一つの皿の料理を食べてみるとこちらの肉は少々味が甘辛く感じた。
うむ、実に美味い。食べていたら酒が飲みたくなったので給仕に頼んだ。
そういえば、食事と一緒に酒を飲むのはどれくらい前だったか?
静かにしかし、食べる手は早かった私とオルキスは給仕の者たちが驚いた顔をしていたのに気づかなかった。
とりあえず、あの料理人が今日の料理を作ったというオルキスの報告漏れを食べ終わった後に聞いてまたもや脱力したが美味しいものが食べられたのでよしとする。
「あ、さっきのコカトリスはサイラス団長たちが遠征から帰ってきたお土産だと言いましたっけ?兄上?」
・・・聞いていないな?・・・オルキス、今なら非常に機嫌がいい私だ。
他に報告漏れがないか今なら許す。全部話せ
次は主人公視点です。
主人公以外の視点で次はだれを書こうか迷っています。