得意魔法は治癒魔法ですが何か?
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今回は王弟殿下目線です。
私はオルキス・ロエ・サタニファス。陛下の弟で、サタニファス国の外務大臣を務めています。もう一つの役職は魔術師団長ですが、1年の3分の2は副団長が代理でいるので、そろそろ引き継ぎをしようかと考えています。決して激務を減らそうと思っているわけではございませんよ。
さて、昨日の夕食以降あの異世界人付きにした侍女メイが厨房使用の許可を取りに来てから、これからどうなるかと思いました。
未開の遺跡を発見し、そこに調査が入って魔術陣を記録して持ち帰り、挙句それを私が現場にいない状態で研究し、その結果あの魔術師が発動させやがったですからね。
隣国と外交していた私にとっては寝耳に水でしたよ。確かに最終責任者の兄上が遺跡調査の許可を出したでしょう。けれど、その研究は副団長または団長の私がいないといけないでしょうが!!
兄上から連絡があったときはあの魔術師をどう処分してやろうかと思いましたよ。
ただでさえ、身動きがあまりとれない多忙な兄上の仕事を増やしたのですから。
えぇ、帰国した時には真っ先に奴を仕留めようと思いましたが、非常に残念ながら兄上がすでに処分は下していると言われてしまっては、私としては何もできませんが・・・。
そして、その召喚された異世界人はどうも眠っているようです。異世界人の世話に侍女のメイを付けていますが、1日目は一度も目を覚まさなかったようで・・・。
昨日になって目を覚まして、謁見の間に連れられた異世界人「リー」。
彼女は、兄上に近い黒の髪にこちらを見まわすのは黒の瞳。色が濃いほど魔力が多いと言われる我が国には黒は非常に珍しく、現在では一人もいません。
召喚された理由を宰相のダウン殿が代表して伝えても、苦笑いで話を聞くだけで特に怒りの感情などは見えず、また兄上同様、私も鑑定魔法を使用してみるもリーにはどうも我々の魔法が効かないようで、まさか鑑定魔法も効かないとは驚きました。この国一番の魔力量をもつ兄上でさえ視ることができない人間。
初めて見たときは一瞬、人間に擬態した悪魔かと思ったものです。
どうも普通の人間のようですが、誰も素性を確認できないため侍女メイに監視をしてもらいつつ、時間を稼ぎます。
というのも、辺境に住む私と兄上の師匠であれば何かご存じかもしれないからです。
もし、師匠でも分からない存在であれば私があの異世界人を消すつもりです。
誰よりも優しい兄上は国民ではない彼女に非常に同情をしていますので、正体がわからなくても安全な人間に彼女を引き渡すように手配するでしょうね。
また、元凶の魔術師を魔力封じの牢獄に放り込めばいいものをわざわざ5日間ほどで帰れそうな僻地に飛ばすだけでお済になるようですので、本当にお優しい兄上です。
私でしたら魔力封じの牢獄に入れたのちに、2週間の悪夢を見せますかね?私もどうも甘いところがあると思いますので、どなたか良い案があれば言ってくださいね。内容次第では採用しますので。
と、まぁ侍女のメイには異世界の料理には興味深いという風を装っていますが私はたいして期待していませんでした。
外務大臣である私にとって、食事は交渉の場にある添え物かまたは話題の切っ掛けにすぎませんのであまり食に興味がないともいえます。また、どこの国も似たり寄ったりの食事ですからね。強いて言えば、砂糖を輸出しているアマリスト王国では甘味に関しては他国より抜きんでているかと思います。我が国でも砂糖を栽培できればいいのですけれど。
そんな事を思いつつ、今日のお茶の時間に出されたものに一体これはなんだ?と思わず、専属給仕のマイクに尋ねました。
「異世界の甘味だそうで、ガトーショコラというものですよ」
ガトーショコラ?初めて聞く名称、初めて見る食べ物。白い皿の真ん中に黒茶の三角形とそれに添うように乗せられた白い何か。
白い何かには見覚えのあるぺリーズの実だったり、ファンデルの実だったりが乗っていて見た目が綺麗だった。
どうやって食べるのだ?そう思いつつ、鑑定魔法を使って毒が入っていないか見る。
ガトーショコラ
使用されている材料:チェコット、ザリメスの卵、リコウのミルク、ぺリーズの実、ファンデルの実
たったこれだけの材料で目の前の食べ物を作れるのですか?!
ふむ、どうやら毒は入っていないようですね。とりあえず、味をみてみましょう。
・・・・。認識を改めないといけませんね。あの異世界人を殺してはいけません。これからきっと兄上のお役に立つでしょうから。
また、アマリスト王国で食した甘味・・・あれは砂糖の塊です。えぇ、口の中にじゃりじゃりとする砂糖のお菓子です。いえ、お菓子ではないですね。ただの砂糖の塊です。今、私はそのように認識しました。
では、もう一口と・・・
「そう言えば、先ほどメイが風魔法で伝言を。どうもその白いクリームと呼ぶものを一緒に食すとなお美味と・・」
それを早く言いなさい!!すでに茶色の部分を半分も食べてしまったではありませんか!
全く・・・どれどれ・・・?・・・・・・。
気づいたときには白いお皿を目の前にぼぉーっとしていた私にマイクがナプキンを差し出したことによって、口周りにクリームがついていたこと。そして、あの甘味をもう一切れあるかどうかさり気なく聞いてみるも、マイクは悲しそうな顔で首を振り、私にも一口頂きたかったですと言われてしまい、謝るしかありませんでした。
今からでもまた作ってもらいに行きましょうか・・・
☆☆☆
あれから職務の時間になってしまい、残念ながら2個目を食すことはできませんでした。
というのも、本当は城の厨房にまだ異世界人がいると聞いて足を運んだのですが、遠征から帰ってきた我が国の騎士団長〝サイラス・パウエル″が副団長の〝ジェード・マクスウェル″に耳を引っ張られながら連れていかれるところを出くわしまして
なんでも、今回の討伐対象のコカトリスの肉を持ってきていてそれを使った料理を本日の夕食にと異世界人に依頼したとのこと。今から作っていると聞いて、渋々・・・えぇ渋々、2個目のガトーショコラはあきらめました。
何ですかマイク?流石の私も無茶は言いません。それに今日の魔術訓練の時間がもうすぐ始まりますので、移動しますよ。
別に、八つ当たりなどしませんてば。えぇ、私の不在時に事態を起こしてくれた責任は彼らにもありますのでね。
☆☆☆
屍の山になっている部下たちを放っておいて、私は6の鐘が鳴った瞬間には転移魔法を使用しました。
向かう先は城の私の部屋です。ちなみに屍の部下たちとまだギリギリ持ちこたえていた副団長には「本日の訓練はこれで終わりです」と紙を残していますので問題ないです。
私の部屋に戻って軽く身支度を整えて、今度は執務室に転移しました。
転移すると、兄上と文官たちがまだ書類を処理していてすぐには終わりそうにありませんでした。
内容を確認すると、すぐに対応しなければいけない案件はあまりないご様子。なので、6の鐘が鳴っていることを伝えると
「もうそんな時間か、お前たち、今処理しているものが終われば今日はもう終わりでよい」
と文官たちに伝えて自分はまだ処理を続けるようです。
それはいけません。もうすぐあの異世界人が作った食事の時間なのです。
楽しみにしている私をこれ以上待たせないでください。
兄上は珍しく真正面に立っている私に目を向けると、軽くため息をついてから椅子から立ち上がりそのまま移動されました。
流石、お優しい兄上です。さぁさぁ、一体どんな料理なんでしょうか?
副団長はたまたまその時、陛下に遺跡の調査結果の報告の最中でした。
でも訓練は厳重注意していなかった責任として参加させられました。
次は陛下目線の予定です。
そのあとに主人公かな・・・どの人目線を見たいかはまたご意見くださいまし。