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闘技場

 翌日の朝、俺はセーレの部屋に呼び出されていた。隣にはソフィアも控えている。


「おはよう。体調は万全かな?」


「おそらくは」


 昨夜は遅くまで例の本を読んでいたため、若干寝不足気味ではあったが。


「早速だけどね、キミの力を試したいんだよ。何せ私の死徒第一号だからね」


「はあ」


 また例の光の玉を使った検査だろうか。あれは若干トラウマになっているので避けたいのだが。しかしセーレの考えは、そんな甘いものではなかった。


「やはり死徒たるもの、死の淵に立ってこそ輝くというものだろう。というわけで、実戦の場を用意した」


 セーレが嬉しそうに見せてきた紙には、『闘技場参加登録証』と書かれていた。


「キミは今日からこの家を守る戦士だ!……ということにする。見事勝利を勝ち取って来たまえ」


「闘技場、ですか……」


 煮え切らない態度の俺に苛立ったのか、横にいたソフィアが口を開いた。


「お嬢様、私は反対です。死徒を作成したことは伏せておくべきでしょう。お嬢様の身の安全のためにも」


「それじゃあ死徒にした意味がないじゃないか!」


「そもそも、闘技場側がケイを普通の人間と思っている以上、まともな対戦は組まれませんよ。いつものように魔物に嬲り殺される駒として扱われるだけでは?」


「それがいいんじゃないか」


 セーレは心底楽しそうだ。


「ただの人間だと思っていた奴にご自慢の魔物を倒されたら、あの厭らしい闘技場の出資者達もさぞ驚くだろうさ」


「……そうなれば、その出資者達はお嬢様を目の敵にされると思いますが」


「いいじゃないか別に。あんな下らないショーで儲けているような連中に、魔力切れとはいえ私がどうにかされるとでも?」


「そういうわけでは……」


「別にケイに賭けて大儲けしようってわけでもないんだし。むしろケイの相手に賭けられた分は胴元に入るんだから、文句は言わせないわよ」


「……はあ、分かりました。ともかく観戦には私も同行しますので」


 どうやらこのお嬢様のわがままにはソフィアも困り果てているらしい。俺が口を挟む余地もないまま、話は決まったようだ。


「それで、闘技場とやらはいつ始まるんです」


「今日の12時から」


 ……ちょっと待て。俺が時計に目をやると、針は10時過ぎを示していた。この前といい、どうしてそう時間ぎりぎりに呼びつけるのか。


「闘技場までは転移魔法で連れて行ってあげるから安心するといい。あ、でも闘技者には事前確認が入るんだっけ? こうしちゃいられない!」


 セーレは慌てて身支度を始めた。ソフィアも渋々といった感じでそれの補佐に入る。


「いや俺、殺し合いなんて全くしたことないんですが」


「どうにかなるだろう! なにせ死なないんだから」


「そりゃそうみたいですけど、せめて武器とか――」


「なんとキッチンには包丁があるぞ」


 どうもこのお嬢様、思いつきで行動しているとしか思えないのだが。


「1時間後に屋敷の前で集合! ソフィア、昼食は向こうで食べるからサンドイッチでも作ってくれ」


「食べ物の持ち込みは禁止ですよ。向こうで買うしかありません」


「商売上手な連中だな!」


 スポーツ観戦に行く子供かのように騒ぐセーレを尻目に、俺は呆れながら部屋を出た。こっちは一応命を賭けて試合に臨むというのに。俺は仕方なく、その辺を歩いていたメイドに尋ねた。


「あの、キッチンはどこですか」




 転移魔法で到着するなり、セーレとソフィアは観客席に行ってしまった。


「私の死徒らしく優雅に、とは言わない。人間らしい泥臭い勝ち方を期待しているよ」


 それだけ言うと、セーレは観客席の入口――ではなく、出店に向かった。あれでも心配してくれているのだろうか。

 俺は『出場者用』と書かれたゲートに向かい、受付の男に登録証を見せた。見た目の印象はオークといったところか。


「はい。アルトマリア家より、家事奴隷のケイ様ですね。武装を見せてください」


 俺が懐から数本の包丁を取り出して見せると、男は気の毒そうな顔を向けた。


「……では、ケイ様は第5試合目となりますので控え室でお待ち下さい」


 事前確認とやらはあっさりと終わった。どうやら俺が死徒であることは気付かれなかったらしい。俺は先程のソフィアとの会話を思い出す。


『身体能力が変わっているとは思えないんですが、本当に死徒になってるんですかね』


『ええ。死徒としての力の行使には慣れが必要らしいから、初めはそんなものでしょう』


『あっさり死んで生き返らなかったりとか、しませんかね?』


『仮にそうなったら余程の出来損ないね。あの世でお嬢様に詫びなさい』


どうやらそういうものらしい。例の本でも確認したのだが、


『死徒に与えられた魔力は主としてその肉体を維持するために使われる。従って、死徒の魔力や身体能力は生前のものに準ずる』

『しかし、死徒本人が魔力の扱いに長けていれば、その魔力の一部を転化して自身の肉体の強化することも可能である』


 ということだった。与えれた魔力に限りがある以上は、いきなり実戦で試すのはどうかと思うのだが。

 そんなことを考えていると、会場からアナウンスが聞こえてきた。俺は控え室から闘技場の様子を見る。古代のコロッセウムのような会場で、観客席に所狭しと並んだ人外の者達がざわめいていた。


「さあ、本日もこの時間がやって参りました! 実況は(わたくし)、ボーパルバニーのリセが勤めさせていただきます!」


 一段高いスペースにある実況席で、露出の多いバニーガールがマイクのようなものを持って喋っている。


「それでは早速参りましょう! 第1試合、リザードマンのグランディア選手対、古狼(エンシェントウルフ)のシバ選手です! オッズはほぼ互角! どちらが勝ってもおかしくありません!」


 アナウンスと共に現れたのは、長剣を持ち鎧を身に纏った蜥蜴のような顔の男と、屋敷にいた奴隷の獣人達よりも一回り大きな人狼の男だ。互いに言葉も交わさないまま戦闘態勢に入る。


「それでは第1試合――開始!」


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