美女アタック
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それから毎日、フランチェスカはガイムにアタックした。
鍛錬の見学や差入れ、迷惑にならないように気を付けながら彼に会いに行き話し掛けた。
彼が城外に行く時は空腹時にとキッシュやクッキーを渡し、帰りが遅くても出迎えるなど覚えてもらいたい、気に掛けてもらいたいと必死で行動した。
恋する乙女、爆走中である。
そんな私の行動にも、彼、ガイム様は嫌な顔一つせず、ありがとうと返してくれる。
私が他国の者で、それもシュタルク帝国大元帥の娘であると知ってもである。
彼は、私への態度を全く変えずに接してくれた。
私が自分の父親の名前を出すと、気を使い出したり、逃げたり、態度を変える男性がほとんどですのに、彼は何も変わらなかった。
そのことも私には嬉しくて嬉しくて、さらに彼への想いを強く募らせたのです。
その頃の私は、ソフィア様達の部屋へと作戦の協力者として通っていたのだが、恋愛相談一色となるくらい、私はガイム様へ熱を注いでいた。
「はあ~。」
ソフィア様の自室に集まっている際に、私は溜息を無意識についていたようだ。
「フラン、どうしたのですか?珍獣ガイムの事で、また何かありましたか?」
リナ様が心配して声を掛けてくれた。
彼女の兄がガイム様と学友だったそうで、彼の事は色欲珍獣と表現している。
少し大胆なあだ名である。
ガイム様をよく知っているらしく彼の事を色々と教えてくれる。
私の相手がガイム様だと伝えた当初は、かなり彼を否定がちであったが、今は私の熱意に負けて、彼への服装や接し方などのアドバイスもしてくれるようになった。
キッチリ首元まであるような洋服よりも少し胸元が見えるようなラフなものが好みだとか、斜め少し前か正面から話をされるのが見えそうで良いのだと聞いたとか、立ち位置まで指南してくれた。
こう言うのが好みなのかと際どいポーズも、恋する乙女はやってみせる。
そして、私は今日も悩みを相談している。
「実は、毎日差入れや声掛け、騎士団訓練の見学などをして、アピールをしているのですが、ガイム様の反応が薄いのです。私もレディの端くれですから、自分の容姿の事は十分に把握しております。その、絶世の美女とも言われたこともありますし、ソコソコの自信もあるのですが……こうも何の反応もないと…自信を無くします。彼にアピールできる、何かもっとよい方法は無いものかと考えておりました。」
「ガイムの反応か~それねぇ、う~ん。」
リナ様が唸り考えます。
「そうですわ、ガイム様に反応がないならば、ご家族に協力を頼むのはどうでしょうか?周りから攻めるのですよ。確か、ガイム様の御父上はハディトン男爵、騎士団総長です。長男のクウガ様は近衛騎士団白の隊長、次男のシオウ様は第二騎士団長をしていたはずです。」
そう、ソフィア様が助言をくれます。
「ご家族ですか?全く面識のない他国の私が話し掛けてもよいものでしょうか?」
不安げにフランチェスカは問う。
「それでは、モーリス隊長に協力をお願いしましょう。フランは彼と面識在りますでしょ?モーリス隊長は近衛騎士団黒の隊長、ハディトン男爵の子息クウガー様とは、白虎と黒龍といつもセットで扱われる仲ですので――」
ソフィアが別の案を出すのだが、その途中で、
「ソフィー、それは駄目じゃない?むしろ、爵位や第一王子との親密度の事もあって白虎が黒龍を無駄にライバル視しすぎているから、カイルとはかなり拗れているのよ…そうだ、フィリップに頼んで第二騎士団長へ話を通してもらった方が良いのではないかしら?」
と、リナ様が違う意見を述べる。
フィリップとはリナ様の知り合いで、第二騎士団副団長をしている人だそうです。
「そうなの?私の前では彼ら、不仲な様子は微塵も見せないから気が付かなかったわ。」
「そりゃあ、王族の前では仲がよくないのは見せられないから。」
と言った感じで和気あいあいと話しながらアドバイスしてくれて、2人は協力をしてくれていたのですが……その助言も無駄になりました。
私の方にタイムリミットがやってきてしまったのです。
***
この国に来て40日ほどたった頃、そろそろ国に戻れと父から手紙が来たのだった。
楽しい日々が終わってしまう……ガイム様と会えなくなってしまうなんて。
しかも、その手紙の中に私のパートナーに相応しいものがようやく見付かったと書かれていたのだ。
相手は、ティルフィングというそうだ。
私はその手紙を読み泣き崩れた。
食事をとらず、一日中借りている客室に閉じこもる。
翌日、心配したリナ様が話を聞きに来てくれた。
そして、
「フラン、ガイムに想いを伝えましょう!!」
そう、リナ様は後押ししてくれたのだ。
その強い眼差しに勇気づけられて、私は断られてもいいと決心し、ガイム様に告白することに決めた。
それを聞いたリナ様は、任せておいて胸を叩き、意気揚々と部屋を出て行った。
帰国の数日前のこと、ガイムを呼び出しておいたから指定した場所に来るようにと、リナ様に言われて私は向かった。
とうとう告白である……。
心臓が飛び出してしまうのではないかと言うくらい、大きな音を立て始めた。
指定された場所は王城本棟から離れた場所にある女神ルト像の前であった。
近づいて行くと、もうすでにその像の前に体格の良い腕筋胸筋ムッチリの男性が立って居るのが確認できた。
ガイム様、来てくれている!!
心を躍らせて、少し歩くスピードを上げた。
私が近づくと、ガイム様も気が付いてくれて、片手を上げて温かな笑みを向けてくれている。
す、素敵すぎる~!!
「お待たせして申し訳ありません、ガイム様。」
「そんなに待っていない。です。今来たところ。俺に伝えたい事とは何だ?ですか?」
単刀直入に聞いてくる。
ヒィー!!!!まだ、心の最終準備が……もう、その時間は一切ないみたい。
よし、覚悟を決めて言うぞー。
「私、ガイム様のことを、お、お慕いしております。好きです。」
私は両手を胸元で力強く握り、少し俯き加減で顔を耳まで真っ赤にして想いを伝えた。
「ありがとう…………ありがとう、フランチェスカ。とても嬉しい。」
ガイム様が答えてくれる。
俯いていた真っ赤な顔を上げて満面の笑みで問いかけようと、
「ではっ」
と、声を発した時、それを遮りガイム様が言った。
「俺は、一番強い騎士、この国の騎士団長にならなければならない。だから、ごめん。」
悲し気に……申し訳なさそうに……そう答えた。
うち菱かれた。
泣き出しそうであったが、強く唇を結び我慢した。
「分かり……ました。」
小さく返事をして、彼から逃げ出すように急いで踵を返した時に、それは起こった。
自分の体が、フワッと浮き上がったのだ。
一瞬の出来事で、自分の今の状況が理解できない。
何が自分の身に起きているのか状況把握をしなければといったん心を落ち着かせる。
えっ?何が起きた??
目を動かす。
首を動かす。
体を動かす。
目を動かして分かったのは黒いローブを被った黒装束の謎の男が、私を攫っているらしいという事。
首を動かして分かったのは、この男の肩に担がれていて、後ろにはもう一人いるという事。
体が動くか試したが、私を担いでいる男の腕で、ガッチリ腕がホールドされてしまっていて、両腕は動かせないという事が分かった。
足は後ろにいる者が強く掴み、私を持ち上げて運ぶのを手伝っている。
この状況に足をバタつかせてバランスを崩させて逃げ出そうと思いつき、足を動かした時である。
「おい、リム嬢、足を動かすな!」
そう強く、後ろの男に言われた。
あれ?どこかで聞き覚えのある声!?
足を動かすのをやめて、首を動かし後ろを見る。
後ろの男が誰であるか分かるように顔の覆っている布をずらし、顔を見せてきた。
「モ、モーリス隊長!?何しているんですか?」
「シッ!ああ、うん。俺は何をしているんだろうな…もう少し先の木の影まで行ったら下ろすから、ジタバタしないでくれ。」
「あ、はい、分かりました。」
モーリス隊長の言う通り、ガイム様から見えない離れた場所まで来ると私は下ろされた。
そして、こっちだと言って誘導される。
そこは、私がさっきまでいた女神の像のある場所の後ろの塀の裏側であった。
「ここならば話が聞こえるだろう。」
モーリス隊長が小さい声で伝える。
私を肩に持ち上げて運んだもう一人が手招きしているので行ってみると、
「ここから様子が見えるぞ。」
そう教えてくれた。
あとでリナ様に聞いたのだが、このもう一人の男は第二騎士団副団長フィリップという人であった。
そういえばこの人この時に、団長命令で仕方なく来たと語っていたな。
塀と垣根の隙間から覗くと、そこにはガイム様とアル……!?アルム様??
んんん、あれは、アルム様じゃないよね?
「あの、あれって、男物の服を着たリナ様ですよね??」
小さな声でモーリス隊長に確認すると、
「ああそうだ……だよな、分かるよな。あれは男装したリナだ。ガイムはアレを、アルムだと思いこんでいる。」
「ええ??」
様子を伺っていると、2人が話し出した。
「待て、待てガイム。ここは王城だ、兵士はそこら辺に沢山居るからそいつらに任せておけ。」
「いや、フランチェスカが攫われたんだ。俺が助けに行かなきゃいけない。手を放せアルム。」
ガイム様の腕にしがみ付きリナ様が引きずられながら、ガイム様を説得しているところであった。
「彼女を振ったお前が助けに行っても彼女が悲しむだけだ。近くの兵士を呼ぶから。」
「アルム、何で知ってる?」
「ハハッ、聞いていたからな。お前らが2人っきりで居るのが見えて、お前がいつも言っているような卑猥な事を彼女にしないか見張っていたのだ!リム嬢は他国の客だからな。何かあったらマズイだろう?」
憎たらしそうに、自分の立ち聞きを肯定し、悪い顔をして話す男装リナ。
「しない、そんなことをフランチェスカには絶対にしない。」
必死に弁明するガイム。
「お前にしては、随分と大事に扱っているんだな?」
「ああ、大事だ。大事な女性なんだ。」
ガイムがしょんぼりとして、話す。
「では何故お前は告白を断った?あんな美人だ、お前が嫌うはずないと思っていた。むしろあの性格にあの体、あの顔!!お前の好み、ドンピシャだろう?」
リナの言葉にガイムが悔しい顔をして下を向き、黙る。
リナはやっぱりッている顔で話を続ける。
「騎士団長の願いを叶える為か?一番強い男になるっていう御父上との幼き日にした約束だったか?」
「そうだ。この国の騎士団総長になって一番強い男だと証明するんだ。それが俺の夢、夢なんだ。」
顔を上げて、少し苦しそうにガイムが答えた。
「ふーん、でもそれ、本当にお前の夢か?幼い子供を勇気づける際の父親の願いなんじゃないのか?それにお前、間違ってるぞ。一番強い男はこの国以外に居るんだ。騎士団長を倒してもお前は一番強い男ではない。今、一番強いと言われているのは……東の大陸では軍事国家シュタルク帝国リム大元帥だぞ。お前がさっき振ったフランチェスカの父親だ。」
!!!!!
ガイムが驚きの表情で変装したリナを見る。
リナの言葉が相当、ショックだったのだろう、固まっている。
お構いなしに、リナは続けた。
「ガイム、お前、フランチェスカの事、結構好きになっているだろう?好き同士なら離れなくてもいいじゃないか?今からでも遅くない、謝って求婚してこい。そして、大元帥を倒し、結婚の承諾を貰え。勝てばお前は一番強い男にもなれて、一石二鳥だ!」
リナの後押しの言葉を聞いたガイムは、強い眼差しでこう言った。
「俺、元帥倒す。フランチェスカ、嫁にする。世界で一番強い男になる!」
「よし、その意気だ!ガイム、奴らを追いかけろ。リム嬢はあっちの迷路の方に連れて行かれたぞ。」
「分かった。」
そうガイムは返事をして、一目散に走り去っていった。
「ふー、やり切ったー。」
「やり切ったじゃないからね、リム嬢はここにいるから。」
そう言いながら第二騎士団副団長が垣根の隙間を発見し、リナ様のいる方へ這い出る。
私とモーリス隊長も同様に移動する。
「え、そうなの?ガイム呼び戻す?それとも皆で追いかけようか?」
そう、リナ様が言った時である。
キャアァァァーーー!!
と言う大きな悲鳴が響き渡った。
その悲鳴の方へ急いで駆け寄って行くと、侍女が座り込んでいて、私達を見てみて、ある方向を指さした。
そちらの方向から、バキバキバキバキーーーーという木が押しつぶされるような大きな音が聞こえてきていた。
一同、息を飲む。
これは、悪い予感しかない……。
急いで音のする方へ向かう。
その音の正体が何なのか、生垣の迷路に到着して分かった。
迷路には新たに直線の通り道が出来ていた……。
生け垣がなぎ倒され押しつぶされ、大剣でぶった切った後があったのだ。
「これは……ガイムか、派手にやったな。」
そう、少し愉快そうに第二騎士団副団長が呟いた時、
「フランチェスカーーー!!何処だ!?返事をしてくれー。」
フランチェスカを呼ぶ、ガイムの大きな声が迷路内に木霊した。
誰もが押し黙った。
「どうしよう……凄く予想外なんだけど。これ、陛下許してくれるのかな?」
リナ様が、迷路を見て落ち込みながら話す。
「リナ、エドワード殿下に頼みこめ、それしか方法はない。」
と、青い顔をしたモーリス隊長が、落ち込むリナ様の肩にポンと手を乗せてアドバイスしていた。
「お前ら、とりあえずあいつを止めないと被害拡大するぞ。」
第二騎士団副団長が冷静に話すので、皆は現実を受け止め、ガイム様の声のする方へと一気に駆けて行く。
その後、迷路が貫通したところで先に回り込んだ私達にガイムは捕獲された。
フランチェスカが思わずガイムに抱き着いたところ、正気を取り戻しガイムは止まったのだ。
それと同時にさっきフランチェスカの告白を断ったことを無かったことにしてくれと、ガイムが必死に頼み込んできた。
そして、その際に私は
「すまない、本当はフランチェスカが好きだーーー!!!」
と強烈な告白をガイムから受けたのである。
嬉しいと言ってフランチェスカが涙を流すと、抱きしめて持ち上げられ、唇を奪われたのです。
周りで見ていたリナ様があらあらウフフと零し、モーリス隊長は目線をそっと逸らし、第二騎士団副団長は、ガイムやるーと囃し立てていた。
皆の前で恥ずかしかったけれど、とても嬉しかった。
そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけたアレクシス殿下が近衛騎士団白部隊を引き連れてやってきた。
白の隊長がガイム様に話しを聞き、耳にした話しに言葉を失っているようで固まっていた。
アレクシス殿下はこの惨事を一通り見回し状況を把握しようとしているようだ。
そしてこちらを見る。
「して、これはどういった状況かな?リナ?」
ギクッと体をビクつかせ、小さくモーリス隊長の後ろに隠れていた男装バージョンのリナ様が顔を出す。
「さ、流石ですね、アレクシス義兄様。もう状況を把握されたのですね。」
「ああ、ここに来る前に、さわりは少し聞いたよ。困ったことになっている様ならば手を貸してやって欲しいとソフィーに頼まれたのだが、フフッ困っている様だな。」
破壊された迷路を横目に話す、アレクシス殿下。
「す、すみません。私がリナ様に協力を仰いだせいで巻き込んでしまい、思いのほか大事になってしまいこんなことに。私が責任を取りますので、皆さまをお許しください。」
私は必死で詫びた。
「お、俺がやりました。フランチェスカが居なくなると思ったら必死で。すみません。」
ガイムも横で大きい体を曲げて頭を下げる。
「アレクシス義兄様、ごめんなさい。私の読み違いです。こんなことになるとは……私が総ての責任を負います。」
リナ様がそう発言した。
「ん~、リナが悲しい目に遭うと、弟が手に負えなくなるし~ソフィーにも嫌われてしまう~それは避けたいなぁ。そうだ!こうしよう、暴走牛が出たことにしよう。これは貸しって事でいいかな?」
何だかアレクシス殿下が人差し指を立ててとても嬉しそうに話しています。
「あ、はい……ありがとうございます。」
リナ様はアレクシス殿下ににこやかにお礼を言ったのですが、彼が立ち去った後から、まるで本物のアルム様のような無表情になっています。
「どうなさいましたか?リナ様。」
「今、絶対、貸しを作ってはいけない人に、大きな借りが出来てしまったの……絶対にソフィー関連でお願い事をされる。ソフィーに先に謝っておかなきゃ。ああ、更なる対策も必要だわ。ごめんね、フラン、私はもう行くけれど―――」
そうリナ様は言いながら、この場を後にしようとした時である。
「ここに居られましたか?フラン。」
振り返るとそこにはアイツが居た。
次回、謎の人物登場。




