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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

窓ぎわの東戸さん~猫寺の東戸さん~

作者: 車男

 「今日はよろしくお願いします!」

総合学習のオリエンテーションがあった日から数日後の土曜日。私と東戸さん、そして他のクラスの女子、北原さん、南さん、中田さんの5人は、猫寺へと向かった。先生から、訪問するときは制服で、と言われていたので、みんなおやすみの日だけど、きちんと制服を着て来ていた。東戸さんも、少し心配だったがちゃんと靴下まで履いている。

 「ようこそ、東陶寺へ。こんなに若くてかわいい子がいっぱいでうれしいわあ。さ、あがってあがって」

迎えてくれたのは、やさしげな表情のおばあさんだった。どうやらこのお寺の住職さんの奥さんらしい。

「あら、大変!スリッパが一足足りない・・・」

私たち5人、靴を脱いでスリッパに履き替えていると、なんとスリッパがひとつ足りないことに気が付いた。

「あ、大丈夫ですよ、私、無くても大丈夫なのでー」

最後に靴を脱いでいた東戸さんが、そう申し出る。

「悪いわねえ・・・」

私も少し悪い気はしたけれど、いいから、いいから、と言う東戸さんに押されて、スリッパを履いて中へ入った。東戸さんはというと、少し短めの白い靴下だけで、木の廊下を歩いている。学校みたいに脱ぎ出したらどうしようと思ったが、さすがに奥さんのいる前でそんなことはしなかった。

 お寺はとても時代を感じる建物だった。昔っぽい伝統に照らされた暗い廊下を歩いていくと、やがて畳のお部屋に通された。

「さ、ここで少し待っていてくださいね」

「はーい!」

「あ、すいません、写真って撮っても大丈夫ですか?」

後々の発表のため、写真は撮っておかねばならない。中田さんがマイカメラを持ってきてくれていた。

「ええ、いいですよー。このお部屋も、なかなか珍しい風景なので、撮っていってくださいね」

「ありがとうございます!」

その部屋には猫の置物がたくさん飾ってあった。木製・陶器製・ぬいぐるみなどなど・・・。

「かわいいけど、なんだか不気味だね・・・」

「うん、夜はこわそう・・・」

たくさんの猫の目に見守られながら待っていると、隣に座っていた東戸さんが正座を崩したことで、足先が私の手に触れた。本人は気づいていないらしく、テーブルに置かれたお寺の案内書を熱心に読んでいる。ふと足の方に目を向けると、スカートに隠されていない靴下の足裏が見えた。お寺の床は意外と砂埃が多いのか(それとももともとなのか・・・)、東戸さんの白い靴下は足の形に灰色に汚れがついていた。素足の汚れた足裏もどきどきしたけれど、間近で見るこの足裏もなかなか・・・。

 「おまたせしました、住職の猫田でございます」

やがて住職が入ってきた。住職も、やさしげな顔立ちをしていた。猫田さん、っていうんだ。それから、お寺についてのお話を10分くらい聞いた後、本堂の方へと向かう。

 再び廊下に出て、さらに進む。それとなく東戸さんの後ろについていくことになった。みんながスリッパ履き(住職さんは草履)のなか、一人だけ靴下の東戸さん。この前と同じく、それは全く気にしていないらしく、ペタペタと歩いている。

「ここからいったん外に出て、本堂へと向かいます。スリッパのままでいいですよ」

廊下の突き当りには、階段と重そうな鉄製の扉があった。階段を下りると、そこはひんやりとした土間だった。スリッパを履いている私たちはいいけど、東戸さんは・・・ここでも気にしていない様子で、わくわくした表情で土の地面に立っている。扉が開くと、渡り石が本堂の方へと続いていた。

「あ、ネコだ!」

「ほんとだ!かわいい~」

本堂へと上る階段のわきには、黒、白、赤といった様々な猫がコロコロしていた。北原さんたちがそこへ駆け寄る。東戸さんも、渡り石を靴下のままピョンピョンと跳んでいくと、足元にすり寄ってくる猫と戯れはじめた。中田さんがカメラを構える。

「そういえば、なんでこのお寺にはこんなに猫がたくさんいるんですか?」

私が質問すると、

「昔からこの辺りはどういうわけか野良猫が多かったんですけどね、その猫の世話をしているうちに、一匹、また一匹とこの辺りに住む猫が増えてきたんですよ」

「子猫を産んだりもするんですか?」

「毎年、一定の数は増えるんですけどね。なるべく去勢はするようにしているんです。野良猫はその点が心配ですから」

そっか、増えすぎて、育てるのに困って・・・ってなったら嫌だもんね。私も、近くに来た猫と戯れていると、東戸さんの姿がないことに気が付いた。

「あれ?東戸さんは?」

「ん~?あ、あれじゃない?」

南さんの指さす方を見ると、東戸さんは渡り石を外れた本堂の先の林の中にいた。たくさんの猫がわらわらといる。

「あらあら、楽しそうですね」

「東戸さんー!そろそろいくよー!」

私が呼びかけると、はっとしたように立ち上がって、こちらへぱたぱたと走ってきた。見ると、靴下のままで林の中へ入っていたらしい。白い靴下に土がついている。

「それでは、本堂へと入りましょうか。そのままで、いいですよ」

本堂へと上がるとき、東戸さんはさすがにまずいと思ったのか、靴下の裏を手でぱんぱん、とはたいて上がっていった。はたくときに見えた足の裏は、砂や土で茶色くなっていた。

 本堂の見学が終わると、猫寺訪問は終了。写真もたくさん撮れたし、お寺の歴史も聞くことができた。緊張していたけれど、やさしい住職さんたちでよかった。

「今日はありがとうございました!」

「こちらこそ。また遊びに来てくださいね」

「はい、ぜひ来ます!」

それぞれスリッパを返し、靴に履き替える。そんな中、わいわいする北原さんたちに隠れて、東戸さんは靴下をスパスパと脱ぐと、持っていたバッグに丸めて入れてしまった。こっそりと耳元で聞いてみる。

「東戸さん、靴下、脱いじゃうの?」

「え?うん、砂まみれになっちゃって、えへへ」

そう言って、恥ずかしそうに笑う東戸さん。本堂の見学後も、本堂の外で猫と戯れていた私たち。みんなは砂の地面に出ることはなかったけれど、東戸さんは気にせず靴下のまま本堂の周りを、猫を追っていったりしていた。そのせいで、だいぶん靴下は砂まみれ。東戸さん自身もそれを気にしていたのだろう。

靴下を脱いだ東戸さんは、素足のままスニーカーに足を入れる。来たときに履いていた靴下がなくなっていることにみんなは気づくだろうか。少し気になったけれど、みんなは解散場所の学校に着くまで、それに気が付かなかった。東戸さんと話すこともあったのに、だ。そんな気になるの、私だけ・・・?

 次の総合学習では、今日聞いたこと・見たことをまとめに取り掛かるらしい。いい感じにまとめられればいいな。


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