~王子~
第一会議室でアルディ王から爵位と称号を与えられたジルは、グランベルの者達がいる宿舎まで帰ってきた。皆はすでに帰り支度を済ませ、各々、好きな過ごし方をしている。街中を散策する者、買い物する者、酒場で飲み食いする者。あれだけの戦いが終わったのだから、たまには羽を伸ばすのも良いだろうとジルは前以て皆に、そう言っていたのだ。昼には王都エルシャを立つから昼鐘が鳴るまでに闘技場に集まるようにと言っておいた。
ジルも、エルシャでの戦いで世話になったインザス国王やゴリアテ宰相にグランベルへ帰る前に一言、礼をするため彼らが宿泊している場所へと足を向けた。
街は活気を取り戻し賑やかな装いで新しい国の誕生を祝う祝賀一色だった。露店が並び大人達は酒を、子供達は大はしゃぎで走り回り、笛や管楽器の演奏があちらこちらで聞こえてくる。ジルが眺めながら歩いていると、街の人達が気付いて酒を勧め、大きな人だかりが自然にできていた。何度か街人の手荒い歓迎を受けたジルは、ようやくインザス国の国王達の宿泊している王宮外苑にある宿泊施設に着いた。
「おっ、あんたは、ジル=ヴァンクリフじゃないか??」
見知らぬ若い優男がジルに声をかけてきた。その者は細いが筋肉粒々で緑色の髪を靡かせ額には密編みされた飾りをつけ王族みたいな服装で左肩には鳥を乗せている。いかにも女に不自由が無さそうな容姿の男が壁に右肩だけを凭れてジルに話しかけた。
「えーっと。どちら様でしょう??」
「いいからいいから。それより、あんたの闘い見たぜ。中々、面白かった。」
「いえいえ。」
「あんたは、及第点だが。後はダメだな。大公爵同士の闘いは別として、弱すぎる敵に対して時間がかかりすぎだ。俺なら一瞬だな。」
「ご忠告どうも。これでも忙しい身なもんで、もう宜しいですか?」
「へぇー。挑発に乗らないあたり、あんた以外と冷静なんだな。」
「冷静??そんな事はない。忙しいから相手にしないだけですよ。今度、時間があれば一対一で相手しましょうか?」
「そいつは、楽しみだ。その時はよろしくな。」
そういうと、その優男はジルにくるっと反転し背中を向けて手を振りながら歩いていった。
「なぁ、あんた名前は??」
ジルが優男目掛け名を尋ねると、振り返りもせずに反対方向に歩きなから答えた。
「グリム公国 第二王子 ヨハン=ハイゼンルドルフだ。覚えといてくれよ。じゃあな。」
「あいつが、グリムの王子…。変わった奴もいたもんだ…。」
グリム公国。インザス国北側に位置し国の南側は緑深く北側は雪や氷に覆われている。その国は、魔法よりも精霊術や召喚術を重きに置く自然豊かな大国である。
インザス国王が来賓中が滞在する部屋に着き、改めて今回の事の謝意を言い、そのついでにジルが領主に着いたことや爵位を与えられたことなどをレイモンド=ハインリッヒ国王とゴリアテ=ボルクバルト宰相に伝えた。
「とまぁ、こんなことになりまして、今後とも宜しくお願いします。」
「ジル殿の活躍ならば当然に思えるが、いきなり辺境伯とは、アルディ王もジル殿に期待しておられるのでしょうな。」
「出来る事をしただけですけどねー。」
「いや、お主の場合、出来る事が大き過ぎるし多すぎるわい……。」
呆れたようにレイモンド王は溜め息混じりにジルに向かって言った。挨拶も終わり部屋から出ようとする時、ジルは思い出したかの様に先程会った皇子の話をレイモンド王とゴリアテ宰相に聞いてみた。
「そういえば先程、グリム公国第二王子に会ったんですが、どのような人物か知ってます?」
「グリムの?ああ『カエルの王子』か。」
「『カエルの王子』??」
「あの国は、一風変わっておって、一定以上の力を持つ者に名を与えていましてな。称号や二つ名みたいなものだが、違うのは、与えられた名にはそれぞれ力が宿っており強くなれるらしい。名持ち一人の力は一軍団に匹敵すると言われており、なるべくなら敵対しないのが賢明ですな。」
「そうなんですか………。気を付けます。」
「間違っても、相手に喧嘩売ってはなりませんぞ。」
「肝に命じておきます。では失礼します。」
ジルは、部屋から出た途端、顔中から冷や汗が大量に吹き出した。
(やべぇ。喧嘩売ったと思われたかも……。まぁけど、一国の皇子があれくらいの挑発で乗るわけないよなー。もし、そうなればそんとき考えよー。)
王国内乱一連の戦いが終わり、新たなる戦いの幕を自らが開いた事を楽観視するジルを余所に、これからも戦いは続いていく事になる。その中心には、いつも自らが居る事など今はまだ知る由もなかった。




