~四回戦 後編~
ジルから生まれた新たなる力、水氷系溟海魔法《白鯨》。水の体を持つ白き鯨。水氷系魔法を母体に創造した新魔法で、七原種魔法の以外の攻撃魔法がこの世界に初めて誕生した瞬間だった。更に驚くべき事に《白鯨》は自らの意思を持つ他に類を見ない魔法だった。ジルが白き鯨に手を添えながら可愛がると、空中をまるで海の中みたいに優雅に泳いでいた。
ザザンはその全長20mほどの鯨を見ながら笑いが止まらなかった。元々ザザンは魔法使いだったのだが、魔法は衰退し、これ以上成長する事など無いと見切りをつけ、魔法を捨て妖術に新たな可能性を見出だすために妖術士に転向していた。しかし、いまジルの放つ《白鯨》を目にしたザザンは、まだまだ魔法が進化する可能性を五感で感じ身震いが止まらないでいた。
「す 素晴らしい。新種だけでなく自我を持つ魔法とは………。」
《白鯨》に見とれていたザザンを差し置きジルは自我を持つ新たなる魔法に攻撃の合図を出した。
「『白鯨』。行け!」
ヴォォォォォォォォオーーーーーーン!!
力を入れた唸り声を上げ、詠唱した主の敵に向かい突進していく。攻撃してきた鯨に気づいたザザンも、防御魔法を展開しそれを防ぐのだが、そんなものは付け焼き刃にもならなかった。《白鯨》による、ただの突進をザザンは防御魔法で身を守るのが精一杯だった。押し返すことすら出来ず、ただただ突進を防ぐ。それしか出来なかったのだ。
「終わらせるぞ。『天降氷』!!」
ジルの合図により《白鯨》は、突進を止めて宙に高く舞い上がりザザンの頭上に円を描くように泳ぎ出した。次の瞬間、《白鯨》は水の体を氷の体に変化させ、空からザザンを襲撃した。その破壊力は、七原種魔法よりも強力なものだが、闘技場にいる観客や来賓には影響は出ず、敵に対してのみ効果がある。火炎系魔法《爆炎》などを使うと闘技場が地獄絵図になりかねない為だ。ジルは以前から何度も魔法でブライやヒルデに叱られていたので、廻りに影響の出ない魔法を創造していたのだ。その結果、生まれた魔法が水氷系溟海魔法『白鯨』だ。そして自我をもつ魔法、すなわち魔力生命体は、生きとし生けるものに含まれる為、技を身に付ける事が出来る。
それが『天降氷』。天高く舞い上がり、自身を氷と化し敵を襲撃する『白鯨』専用の大技なのだ。
「これが、お前が無能と言った俺の力だ!止めれるものなら止めて見せろ!」
「いいだろう。防御魔法《三重魔盾》。更に《反射》。」
ザザンは防御魔法《魔盾》の上位互換の《三重魔盾》を発動させ、更に防ぎきった後相手に返すカウンター魔法《反射》を展開させた。
「防ぐことが出来ればこの勝負、儂の勝ちだ。」
「ああ、そうなるな。防ぎきればの話だけど。」
天から降る魔力で出来た自我のある氷塊はザザンの防御魔法を一枚づつ破っていく。
「なっ なんだこの力は!!ぐ ぐ ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………。」
天から迫り来る《白鯨》から、自身の最大防御魔法を三重にも重ね防ごうとしたザザンであったが、《白鯨》は、躊躇無くザザンの体を貫き地面に激突した。地面に激突した『白鯨』は、水の体に戻り悠々とジルの回りを空中遊泳をしていた。魔法を極めたと自負していたザザンだが、この敗北は、ただの慢心が招いた結果だったのかもしれない。
「ガハッ……。」
ザザンがいた場所は衝撃で陥没し、その中央には上半身と下半身に別れたザザンの姿があった。口から血を吐き、助かる術の無い姿のザザンにジルは歩み寄った。ジルはザザンの元へ向かいその姿を見たが、憐れむ事はなかった。これまでの事を考えれば、ザザンに対して怒りはあれど悲しみなど微塵もない。
「ジル=ヴァンクリフ……か……?」
「ザザンお前、目が…。自業自得だな。」
「ふん……。わかって……おるわ……。」
「こっちも色々されたからな。同情はしねーぞ。」
「いらぬ……。だが、死ぬ前に良い物が見れた……。感謝する……。」
「良い物??」
「貴様の魔法だ……。」
「そっか。」
「そうだ……。」
「今まで迷惑かけた人達にあの世で詫びろ。」
「あぁ……。」
「最後に聞かせろ。何故、妖術士のお前が妖術使わずに魔法で対抗したんだ?」
「何故だろ…う……な。なんと……な…くだ。」
「なんだそりゃ。それじゃあ俺は、もう行くぞ。」
「貴様の……魔法の行く末………もう少し見ていた………かった……。」
「無理だろ。お前、もうすぐ死ぬんだし。」
「容赦……無いな………貴様………は……………。」
真っ二つに引き裂かれた肉体から意識が無くなり、言葉を発しない亡骸になったザザンに向けジルは火炎系初期魔法《火》を放った。
「最後の手向けだ。俺が火葬してやるよ。」
こうして、ジル=ヴァンクリフはザザン=ダンとの因縁めいた四回戦は、終結を迎えたのだった。
闘技場観客席上段部。そこに顔や形は影で隠れて分からないが、謎めいた6人の姿があった。その者達は品定めをするような眼差しで、ある者の姿を興味津々に見ていた。
『あの子、中々いいわね。』
『なっ、ワイが言った通り見に来て良かったやろ?』
『ふん……及第点だ…………。』
『顔もイケてるしー。いいじゃんー。』
『…………ん………そう思う…………。』
『今度、手土産でも持参して挨拶しに行ってみるか。』
新しい波乱の予兆がそこにあったが、誰も気付く筈もない。その6人はゆっくりと立ち上がり闘技場を後にする。
『その内、顔出すで楽しみに待っときや、ジル=ヴァンクリフ。』
その中の一人が振り向き様に闘技場にいるジルの方を見ながらそう言うと6人は、その場から音もなく消えていった。




