~四回戦 前編~
開戦の合図が上がり、闘技場中央にはジルとザザンが互いに向き合い戦闘体制に入っていた。元来より、魔法を使う者同士の闘いは、魔力の桁により早く決着が着くと言われており、その点においてはジルに揺るぎない勝ちが見込まれていた。バルバロッサがザザンに『勝てるのか?』と聞いた経緯はこのためだ。だがサザンは、魔力はジルに劣るものの、魔法使いではなく妖術を得意とする妖術士にあたるため、魔法使い同士の闘いには含まれないのだ。
「妖術『魔獣懐柔』。顕現せよ。『火狐』。『風鼬』。『林梟』。」
一般的な妖術士は、相手を惑わす術や幻を敵に見せる術などがあり仲間の補助が主流だ。だが、術者によってはその限りではない。
サザンが唱えた妖術は魔獣の意識を奪い強制的に懐柔し闘わせる術であった。自らの手のひらに刻まれた印から現れた三匹の魔獣は、両目はまっ赤に染まり鼻息は荒く涎は垂れていて意識があるようには見えない。
ザザンが喚び出した操られている魔獣達は並大抵の妖術士が従える事が出来る魔獣ではなかった。風を呼ぶ鼬、林に生きる梟、火を纏いし狐、山に住まう狼。魔獣の中でも従える事が出来ないとされている四獣種『風林火山』ですら、ザザンは操っていたのだ。
「フフ。いかがかな?四獣を見た感想は?」
「四獣のくせに三匹しかいないじゃねぇか。」
「貴様になど三匹で十分だろう。」
「なんだそれ、捕まえてないだけかよ。それよりも、召喚は、ありなのか?」
ジルが、進行役に聞いてみると、その場にいる人や魔物、魔獣などが闘いに加わるのは承認できないが、魔法や道具での召喚で喚び出す事は問題ないということであった。ようするにカムイやコクウを召喚と称して闘いに加わるのは駄目なのだ。
「フハハハ。貴様、真似をして頭数を増やすつもりだったか。猿真似ごときでは、儂には勝てんぞ。」
「じゃあ、いいや。道具を使っていいのなら、これ使うわ。」
ジルは魔法小鞄より、小さな珠を2つ取り出した。そして闘技場地面に投げた途端、魔砂傀儡と魔岩傀儡が現れた。ゴーレム達は、先の戦場て活躍したゴーレムと同じ大きさのものだった。
「これなら、問題無いのだろ?」
「ちょ ちょっと、待ってください。確認をとります。」
ゴーレムを見た進行役は驚いた表情でバルバロッサの元へ行き、どのようにすればいいか聞いていた。
その間、ゴーレムは観客にとって格好の展示品になっていた。まるで現世でいうところの、お○場のガ○ダムだな。
バルバロッサは魔道具の使用を禁止し魔法による召喚術等もすべて禁止にした。
「なんだ。やっぱり禁止にすんのね。」
ジルはそう言うと、ゴーレムを片付けようとしたが観客には好評なので、後ろに下がるように命令した。ザザンも四獣を下げようとしたが下げる必要は無いと進行役に言われそのまま闘うことを許された。魔法での召喚は禁止で妖術による召喚は容認される事らしい。主催者側のあからさまな圧力だ。
「なんだ、ハンデが欲しかったのか?やらないけど。」
「強がりだな。ならばこの四獣を倒してみろ?」
「どうせ、お前の事だ。操る妖術とかで無理矢理、言うこと聞かせてるんだろ?」
「そういう魔法だからな。どうする?魔獣だが無益で操られている。優しい貴様に殺せるか?」
「あっそ。ならば……。」
ジルは、『火狐』『風鼬』『林梟』に向け《状態異常回復》を唱えた。すると、操られていた三匹は殺気が消え目の色や状態が落ち着きその場に倒れこんだ。微かだが息がありルゥに三匹の介抱を頼み、ジルはザザンに向き直した。
「バカな。操った三匹が元に戻っただと。しかも古の魔法でなどとはありえん。そうか、エリス嬢の呪いを解呪できたのもキュアの力か……。」
「そういうことだ。だが、そんなことはいい……。」
ジルの手には宝杖ヴァルクが握りしめられ、杖の先端をザザンに向け無詠唱で魔法が放たれた。その魔法は《風切》。放たれた風の刃はザザンが被っているローブのフード部分を切り裂きザザンの顔が白昼のもと晒されたのだ。
静かに、だが怒りに満ちた低い声でジルはザザンに言葉を続けた。
「ザザン、いつになれば自分の力で闘う?操ったり、部下にやらせたり、いい加減にしろよお前。やる気がないならさっさと終わらせてやるよ。」
ジルは、宝杖ヴァルクを地面に刺し、両掌に水氷系魔法の魔力を集め徐々に練り上げ成形していく。それは、まるで小さな子供が粘土細工をするような手つきで。魔力の塊は一匹の生物の姿になっていった。
「加減なんか出来ないから必死で耐えろよ。」
ジルは闘技場中央のザザンに向かい両手を突き出し、自らの固有スキル『創作魔法』で創った魔法の名を叫んだ。
「水氷系 溟海魔法 《白鯨》!!」




