~道具屋~
午後の昼下がり街並みを目に焼きつつ繁華街を歩いている。
御者ができる奴隷を探すためだ。
街を歩いていても俺の事はあまり知られていない。
病床に伏せていた時間が長かったからな。
色々な店がある。
だが、奴隷を売っている場所がわからない。
(折角だからどこか店に入ってみるか?)
そう思い、目についた道具屋に入ってみた。
カランコロン
ドアを開けると上部に呼び鈴が鳴る。
銅製の風鈴みたいなものだ。
「いらっしゃい。」
店の奥の番台に店主が座っていた。
見た目が中々厳つい坊主頭の30歳ぐらいの店主だ。
店内には、薬草やポーションなどの常備薬や魔法道具が陳列されている。
冒険者のための道具屋みたいだな。
「なにか、探しているのか?」
店主が俺に話しかけてきた。
道具屋に奴隷が欲しいって行きなり言えないな。
冷やかしと間違えられそうだ。
何か道具を買ってから奴隷のことを、聞こうかな。
「探し物はないのだけど、今度、はじめて引っ越すから必要なものがないか見て回ってるんですよ。」
「どこに引っ越すんだ?」
「ミーア国に。」
「ミーア??それなら、色々、買いそろえといた方がいいな。」
「何故です?」
「お前さん、何も知らんのか。あそこは今は国として機能してないからな。買おうとしても物がないんだよ。」
「なるほど。どんなものが必要ですか。」
「そーだな。回復薬は余分にでも持っていくといいな。」
回服薬や状態異常に効く万能薬はクリストファーが用意してくれていたし大丈夫だろ。
「薬は、買い揃えましたよ。」
「じゃあ魔法小鞄はあるのか?」
「魔法小鞄??」
「冒険者が持つ多くのものを収納可能な小さな鞄だ。引っ越しするのだから大型のマジックバッグ用意しているだろうが、お前さんを見るに自分の腰に巻いておく小さなヤツは持ってないだろう?」
「どうして、分かったんですか?」
「金貨袋を革帯にぶら下げる奴なんざいないからな。取ってくれと言っているもんだ。」
(あら、お恥ずかしい…)
「じゃあ、それ買います。」
「容量はどれくらいなものがいいんだ?安いヤツは容量が少なく壊れやすい。高いヤツは丈夫で容量は大きいが値段が張るんだ。」
そういって3つの魔法鞄を見せてくれた。
「いまウチの店にあるやつはこれだけなんだ。」
布製魔法小鞄 銀貨1枚
布製で耐久性に難有りの為、安価。10個程度の道具しか入らない。
(耐久性が悪いのを持つのは止めておくか…。大事の時に破れたら使えないしな。)
魔蟲革製魔法小鞄 金貨5枚
魔蠍蟲の表皮を使用。丈夫な作りだが少し重い。60程度の道具が入る。
(センティピードは、サソリの魔物だな…。黒光りが、なかなかかっこいいぞ。)
魔革製魔法小鞄 金貨1枚
魔野狐の革を使用した鞄。軽くて丈夫。25個程度道具が入る。表面に毛皮をあしらっている。
(ワイルドコックス。野生の狐の革だな。モフモフが気持ちいいな。)
「どれにする?」
「そうですね。魔蠍蟲製にします。少し重いが黒光りが、かっこいい。」
「良い物だが、それ高いぞ。」
「いいですよ。良い品は高くて当たり前でしょ。」
そういって金板を店主に支払った。
「まいどあり。おまけでこれを付けてやるよ。」
「指輪??」
「これは結界の指輪だ。一回だけ危険な時に魔力結界が発動できる。お守りみたいなものだ。引っ越しの道中何があるかわからんからな。」
「いいのですか?」
「おれは、お前さんが気に入ったからいいんだ。また店にきてくれよ。」
「ありがとう。また来ます。あと、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいですか?」
「なんだ??」
「奴隷ってどこで売っているのでしょう??」
「奴隷??お前さんその年で奴隷なんか買ってどうするんだ?」
怪しい目で俺を見た。
(18才が奴隷買うとなればそりゃ怪しいよな。)
「実は引っ越しが明日なんですが御者がいなくて……。馬術スキルがある奴隷を探しているんです。」
「そういうことか。なら俺が案内してやろうか?お前さんだけだと騙されそうだからな。」
「ほんとに??それはありがたい。」
「いいってことよ。ちょっと表で待っててくれ店の戸締まりをするから。」
「わかりました。」
そう言って店の前で店主を待った。
腰には先程買った魔法小鞄がある。
黒いエナメル生地のヒップバッグみたいな物だ。
買い物に満足しなが待っていると店主が来た。
「待たせたか?」
「いや、全然ですよ。」
「そういや、自己紹介がまだだったな。おれはダリル=マグワイン。ダリルって呼んでくれ。」
(名前言ったらビックリするんだろうな……。まぁいいか。)
「俺は、ジル=ヴァンクリフ。ヴァンクリフ家の長男です。」
「えっ!!」
(やっぱり驚いた。こういうの、ちょっとおもしろいな。)
「ほんとにジル坊ですかい??」
ジル坊??
知り合いか??
「えぇ。まぁ、そうですけど……。」
(誰だこのおっさん??同じ名前の人が記憶にはあるが、髪の毛がふさふさの騎士のはずだ。)
わからない顔をしていたら。
「俺ですよ。シリウス様にお仕えしていたダリルですよ。」
「えっ?本当にダリルさん?騎士は?髪の毛は??」
「ジル坊に会うのは何年ぶりですかね。一度大ケガしちゃいましてその時に騎士は退役したんでさぁ。その頃から頭が薄くなっちまったんで、剃っちまいましたよ。」
「そうなんだ。ほんとびっくりしたよ」
「ジル坊こそ、病気だったのに治っているじゃないですか。俺の方がビックリですよ。」
ダリル=マグワイン
28歳
道具屋
元ヴァンクリフ家騎士団 副団長
退役後道具屋を営む傍ら後進の指導をしている。
「これでも道具屋筋では有名になったんですよ。」
「そうなんだ。楽しくやっていて良かったよ。」
「今でもシリウス様は店に良く来てくれてます。騎士団に卸す回復薬もうちが一手に引き受けていますしね。」
元気そうでよかった。久しぶりに会えて嬉しくもあった。
「ジル坊そろそろいきましょうか。」
「その前にジル坊はやめてよダリルさん。」
「ジル坊こそダリルさんはやめてください。ダリルでいいですよ。」
「わかったよダリル。」
「それでいいですよ、若。」
「若もちょっと…」
「ではジル様で。」
「ダリルにジル様って変な感じだな。やっぱり若でいいよ。」
「了解です。では参りましょう 若。」
道すがら、そんな話をしながらダリルに案内をしてもらう事となった。