~三回戦 後編~
シリウスとローガンが戦いを再開し、バルバロッサに嗅ぎ付けられるまでの間にローガンの娘を助けられるかが勝負の鍵になる。だがこの広い闘技場の隅々を探し回るには時間が余りにも足らなかった。斥候の三人、ゼネガー、ラベンダー、ガーネットに伝達ナイフで闘技場にいるであろう、ローガンの娘を保護するように伝えた。容姿は予め聞いてはいたが、名前すらわからない者を捜すことは難しく困難を極めることになる。
「どこだ?どこにいる!」
娘の安否すらわからず焦るジルを尻目に時間だけが刻一刻と過ぎていく。闘技場の別室や控え室、休憩所、ロビーなど徹底的に探したがその気配すらなかった。
「くそっ!見つからねぇー。」
打つ手がないジルは、戦いの最中のシリウスに急遽、念話指輪で手掛かりになるような物がないのか聞いてみることにした。
「父上、聞こえますか?」
『ああ。見つかったのか?』
「すいません。まだです。バルバロッサが何かヒントらしい事言っていなかったか、空の王に聞いてもらえませんか?」
『わかった。少し待て。』
シリウスは、ローガンに戦うフリをしながら聞いてみたのだが、敵もそう易々とは尻尾をつかませてはくれない。わかる事と言えば、戦う前にバルバロッサが言った言葉ぐらいだった。
『ジル。手掛かりになるかわからんが、バルバロッサが万が一不穏な動きをしたら目の前で娘を殺すと言っていたらしい。』
「目の前で、ですか?」
『そうらしい。怪しまれない内に通信を切るぞ。』
バルバロッサが言ったであろう言葉『目の前で娘を殺す。』それがジルの頭の中で、引っかかった。
「目の前ってことは見えるところだよな……。ローガンから見えるってことは……。」
ジルは、もしやと思い、ジルは賭けに出た。
~闘技場内 シリウス対ローガン~
バルバロッサに囚われているであろうローガンの娘を探し出しているジルからの連絡はいまだ来ず、バルバロッサを欺く闘いは続いていた。だが、闘いの進展の無さに少しずつ退屈な見世物になりつつあった。
「シリウス、そろそろ観客達がつまらなそうにしているのだが、このままではバルバロッサに勘づかれないか?」
観客達から、野次は無いものの欠伸や席を立つ者も少なからずいたのをローガンは闘いながらもそれを見ていたのだ。
「そうだな…。ならば、ローガンここはひとつ本気で剣を交えるか。」
「本気で…か?」
「ああ。お主との本気の決闘で観客の度肝を抜いてやろう。」
「ふふふ。貴公は相変わらずだな。だが、俺も溜まっているからな。加減などできんぞ?」
「わははは。笑止!怪我人なんぞに負ける陸の王ではないわ!!」
「脳筋が偉そうに!丁度いい!貴公の負ける姿を観客共に見せつけてくれる!」
「やってみろ!」
「吠え面かくなよ!」
陸の王と空の王。本気の闘いがいま始まった。それまでの闘いが遊びの様に、二人は闘志をむき出し剣に殺気を乗せた一撃をお互いが放つ。手数はローガンの方が多いが、一撃の重さはシリウスが上だった。
「やるな、シリウス!」
「貴様もな、ローガン!」
二人の笑みを浮かべながらの闘いは過熱していく。優勢なのは、やはり怪我を負っていないシリウスだった。徐々にローガンは肩で息をするように疲れが滲み出ていく。
「どうした?これで終いか?」
「シリウス、何か忘れてはいないか?」
「何の事だ?」
「何故、俺が『空の王』と呼ばれているかをだ。」
ローガンはそういうと、背中から白き大きな翼を広げ空に向かって羽ばたいた。
「これからが本番だシリウス!空の王『翼人族』が長、大公爵ローガン=クロムウェル、推して参る!!」
「わっははははは。『陸の王』大公爵シリウス=ヴァンクリフ!受けぇて立ぁつぅぅ!!」
二人の熱気に当てられた観客達や来賓で招かれた者、そしてバルバロッサ自身までもがその闘いから目を逸らす事などなかった。まるで、大きな姿の龍と虎が攻防を繰り広げているかのようなその闘いはそこに居る全ての者を魅了していった。
そんなとき一人の女の子の声が闘技場に響き渡ったのだ。
「お父様ぁぁぁぁ!!!なぁにやってるんですかぁぁぁぁぁ!!!!!」
その叫びを聞くや否やローガンは闘いの手を止め、声のする方へ顔を向けると、バルバロッサに捕まっていた娘の姿がそこにあったのだ。そして、その横には苦々しくひきつった笑顔のジルの姿もあった。
「何度呼び掛けても応答しないと思ったら、あんたら二人なにやってんですか……。」
ジルに呆れられた一言を浴びせられたシリウスとローガンは大きく見えた姿からは想像できないほど小さくなっていく。ローガンの娘にもこっぴどくしかられる二人はさらに小さくなっていき終いには涙目にすらなっている。
呆れているジルや怒っている娘に恐る恐るシリウスは聞いてみた。
「一体どうなったのか、ジル説明してくれないか?」
「いいですよ…。それは……。」
~遡ること数分前~
『目の前で殺す。』バルバロッサが言った言葉を考えたジルはもしやと思い、闘技場観客席に潜入しているブライ、ヒルデ、ミリアリア、ネロの四人に娘の容姿を伝え、観客席から周囲にそれらしい者が居ないか確かめさせた。
娘の容姿は、黄金色の長髪で白い肌で気品があり、人質の娘には見張りがついていると考えれる。それらしい者達がいれば間違いないだろう。目の前ならば視界に入る場所で囚われている可能性が高い。となれば、闘技場が見える場所は観客席や来賓が座る観覧席だろうと予想したのだ。
ビービービービービー
伝達ナイフが鳴り、即座に応答するとブライからだった。
「主!見つけました。北面上部、来賓席です!」
「ブライでかした。今、確認する。」
ジルは、ちょうど反対側におり北面来賓席の良く見える位置に居た。微かだか、真ん中に女性が座っていて両端には兵士が立ち見張っているように見えた。来賓席ならば護衛の兵士に守られている様にも見えなくはない。だが、隣で立つ兵士は剣を抜刀し切っ先を娘に向けている。確認を取る時間など無く、ジルはその者が娘だと断定し動いたのだ。幸い囚われている部屋の隣がインザス共和国の部屋であった為、リザベルとミーシャに事情を説明して協力を仰いだ。
「なるほど、そんな事があったのですか。」
「ああ。リザベルすまないが、助けたいから協力してくれないか?」
「わかりましたわ。では、少しおまちくださいな。」
「えっ??ちょっまっ……。通信が切れた……。」
ジルは急ぎ、その部屋に向かうのだが闘技場を挟んだ反対側にいた為、すぐに着けない。ジルが囚われているであろう部屋に着いた頃にはリザベルとミーシャで、兵士を片付けていた。ポカンとした表情のジルを尻目に二人は愉悦な表情で兵士を足蹴にしていた。
「ジル様。終わりましたよ。」
「お、おう……。ありがとう……。」
(怖ぇぇぇぇーーー。こいつら、それなりに強かったの忘れてたわ……。)
リザベルとミーシャにより助けられた娘は、凛として俺の方を向き頭を下げてきた。
「この度は、助けていただき有難う御座います。」
その娘は、小さいながらも気品に溢れていたが、手が少し震えていた。娘の名は、エリス=クロムウェル。年は、弟のライルと同じ12才で父親のローガンと一緒の『翼人族』だ。
「よく頑張ったな。もう大丈夫だ。」
そういうと、涙を浮かべ声を出してジルに抱きついてきた。余程、怖かったのだろう。
エリスが落ち着くまで時間はかからなかったが、頃合いを見てリザベルが話を振ってきた。
「ジル様、それよりもザザンの呪いは、いかがするのです?」
「そんなもん《状態異常回復》でなんとかなるだろ?」
《状態異常回復》全状態異常回復魔法だ。これならば毒や麻痺、混乱に強制睡眠などにも効く。もちろん呪いにも効果的だ。
「はぁー。ジル様知らないのですか…。《状態異常回復》を使える者などいませんよ。失われし古魔法なのですから…。」
「え?そうなの?」
「そうですよ。」
「俺、使えるけど……。」
「えっ??」
ジルは、そういうとエリスに向けて《状態異常回復》を唱えた。聖なる光がエリスを包み込み輝きを放ったのだ。
「はい、完了っと。」
「嘘っ…。」
「ほんとだって。能力鑑定見てみろよ。」
《見極の窓》を唱え、リザベルやミーシャ、エリスに見せた。エリスに掛かっていた呪いは解呪され、元の正常な体に戻っていたのだ。
~ 闘技場内 ~
「……と、まぁこんな事があったんですよ。」
「お前、古魔法まで復活させたのか?」
「復活って…そんな大層なものでは…。」
「大層なものだ。ったく相変わらず無茶苦茶だな。」
「まぁ、いいじゃないですか。助かったのですから。」
「それもそうだな。」
ジルとシリウスは、泣きながら抱き合うローガン親子を見ていた。泣いてはいるが、二人とも嬉そうな笑顔だった。かくして三回戦、陸の王シリウス=ヴァンクリフと空の王ローガン=クロムウェル、大公爵同士の闘いは幕を閉じたのであった。




