~準備~
自室に戻った俺は、さっそくミーア国の資料を確認した。
国土のことは、首都グランベルの北側にはアース火山という山を中心に山岳地帯が広がっており街の東側広大な森林と湖がある。西側には海の一部が陸に入り込んだ湾があり一部砂浜になっている。自然豊かな場所とだけ記されており、資料の中では国の地図は挿絵で表現されているだけで詳しくわからない。
小さい頃に見た宝の地図みたいなものだ。
この国の財源は主に商業と農業が中心で主な商業は火山熱を利用した鍛冶と銀鉱山から採掘できる銀を用いた銀製品だ。
(なるほどね。俺のステータスを見て父さんは閃いたんだな。
俺に天性で鍛冶細工がある。そりゃこんな能力があったら利用するよな。
能力教本は安易に見せないよう神父も言っていたし、また利用されるのも癪だから今後は誰にも見せないでいよう。)
そう心の中で誓いをたてた。
ミーア国の財政は、あまり潤沢ではないらしい。
国ができた背景は、火山周囲は未開拓地域であった為、付近にすむ多種族の村が国として機能するよう族長間で話し合いで国が成り立った経緯があったらしい。
初代国王は開国の立案者で人族のグラント=ミーアという人物だ。ミーア国の名前の由来でもある。
これ以上、詳しいことはあまり書いておらず資料はあまり役に立つものではなかった。
「現地で確認しなきゃ分からない事だらけだな。」
明日早朝に出立の為、自分でも荷造りでもしようかとそう思っていたら扉をノックする音が聞こえた。
コンコン。
「どうぞ。開いていますよ。」
「失礼します。」
執事長クリストファーが部屋に入ってきた。
「お忙しいところ、申し訳ありません。」
「いいよ。資料は読み終わったから、今から荷造りでもしようかと思っていたところだから。」
「そうでしたか。わたくしもジル様の荷造りをと思いまして。」
「ありがとう。助かるよ。」
「執事の務めですからお気になさらないでください。明日にはジル様がいらっしゃらないと思うと寂しくなります。」
「近いから、クリストファーも遊びにおいでよ。」
「ありがとうございます。本当ならば爺もご一緒したかったのですが18歳の統治規則では、近しいものや親類縁者、従者や自国の者たちを連れては行けない決まりになっております。申し訳ありません。」
一人で行かなきゃならないのかよ。
受け継いだ記憶になかったぞ。
あいつまた大事な事、忘れていやがったな。
「気にしないでよ。一人で行くと決めたし父にはクリストファーが必要だから。父を支えてあげて。あと母とライルをお願いします。」
こんな風に言っといたら俺の株も上がるだろう。
「ご立派になられましたな。爺は嬉しゅうございます。」
「そんなことないよ。まだまだ分からない事だらけだよ。病気だったから剣や魔法も使えないし馬にも乗れないから頑張るよ。」
そう言うとクリストファーが何かを気付いた。
「そういえば、ジル様は御者ができないのでは?」
「あっ!!」
「困りましたな。我々がお送りするわけにも行きませんし、ミーア国の者に今更迎えをよこすように頼めませんし…」
「しまったな……。」
(くそっ……。スキルに馬術があれば何も苦労しないのにな。)
二人で悩んでいたらクリストファーが何かを閃いた。
「ジル様、奴隷をお買いになればいかがでしょう?
今ならば敗北した国の元兵士や民が多くの奴隷となっておりますので。」
「奴隷か…」
おれは奴隷が好きではない。戦争に勝ったものが負けたものを鎖につなぐやり方は嫌いだ。
「ん~嫌がっている場合ではないな。」
「時間もありませんし、仕方ありません。」
「わかった。どうしたら奴隷を買えるんだ。」
「本来ならば奴隷商に話を通してお買いになるほうがよろしいのですが、なにぶん急な話ですので街でも売っているはずなのでそちらで購入してみてはいかがでしょう。」
「そうか、ならば街に出てみよう。」
「私は、その間にジル様の部屋の荷造りをしておきます。奴隷のほうはお任せしてもよろしいですか?」
「自分の目で選びたいから行ってきます。」
「そうですな。ご自分で選ばれた者のほうが良いと思います。お買いになるときにはこれでお支払いください。」
「わかった。」
そう言うと10枚ほど金板が入った袋を受け取った。
この世界の通貨は金銀銅を用いたものが取引に利用される。
現代日本との為替だとこのくらいだ。
銅貨 100円
銀貨 1000円
金貨 10000円
銅板 500円
銀板 5000円
金板 50000円
貨幣は金属で出来たコインと板だ。
「それじゃあ、ついでに当分帰ってこれないと思うから、今のうちにこの街並みを目に焼き付けておくことにするよ。」
「それがよろしいですな。あと奴隷は能力開示が義務ですので馬術技能を持つ者をお選びください。」
「分かった。じゃあ悪いけど、荷造りお願いね。」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
俺は奴隷を買いに街に出掛けることにした。