~落日~
時は夕刻から夜に移り変わろうとする頃。グランベルからプリスデンに戻ってきたジルとカムイは、早々にアルディ=オズワルド国王と父シリウス=ヴァンクリフ大公爵と共にプリスデン住民への説明を行う為、大広場に来ていた。広場に集められた民衆には、シガー王国が崩壊した事、新王には海の王バルバロッサ=ワインズマンが就く事、王都エルシャの民が人質となっている事、グランベルとインザス共和国への移住の事などを細部に渡り全てを伝えるのであった。
「皆すまない。俺の不甲斐ない所為でシガー王国は終わりを告げた。バルバロッサの事だ、プリスデンに残れば皆に何をするかわからない。新しい土地では、皆に苦労を掛けるだろうが死なせたくはない。宜しく頼む。」
民衆はその言葉に驚きを隠せずにいた。通達してきた兵士には大雑把には聞いていたのだが心のどこかに、その通達を信じきれないでいた。しかし陸の王本人の口から出た敗北宣言を聞き、事実なんだと思い知らされた。しかも生まれ育った場所を捨てるなどつい先日まで思ってもいなかったのだ。
驚いている大人達を尻目に、民衆の中から這い出るように5歳くらいの小さな子供数人がシリウスの目前にトコトコと歩いて大きな声で聞いてきた。
「シリウスさまー。」
「ん?どうした?」
「エルシャの人たち助けないの?ともだちがエルシャにいるんだ……。」
その子供の問い掛けた言葉を聞いていた民達は言葉を飲み込んだ。大人が慌てている状況で、その子達だけが自分の事よりもエルシャにいる人々を心配していたのだ。
「必ず助けるから心配するな。」
「よかったぁ。じゃあ、ぼくたちはシリウスさまについていくー。やくそくだよ。」
「あぁ、約束だ。」
その話のやり取りを聞いた民衆は、自分達の事しか考えていなかったことを恥じ、そこにいる全て者が移住を受け入れる事を了解するように声をあげたのだ。
「国王様、シリウス様と供に行きます。」
そのような言葉が、大広場のあちらこちらから聞こえてくる。やがてその声は大広場全体を飲み込み、プリスデンが声を発してるかの如く轟いたのだ。
プリスデンの民は強かった。逆境に飲み込まれず小さな声に耳を傾けそれを掻き消すこともない。
ジルは力の強さではなく意思と信頼の強さを目の当たりにした。
グランベルには2500人500世帯をインザス国には7500人1500世帯を保護できる。可及的速やかに移住準備をしている事を皆に告げた。移動手段も転移玉を駆使すれば明日朝までには間に合うだろう。移住先の振り分けを済ませ、まずはインザス国への移住者から転移を開始した。一気に7500人も転移をするとインザス共和国に戻っているリザベル達がビックリしてしまうと思い、300人づつの転移を行う事となった。インザスにいるリザベルと伝達ナイフで連絡を取り状況を聞いたのだが、準備は完了した模様で受け入れを本格的に開始した。
「んじゃ、いまから順に転移に入るぞ?」
『いつでもどうぞ、旦那様。』
「リザベル……その旦那様はやめてくれよ。」
『あら、ご不満ですか?』
「当たり前だ!名前で呼んでくれ!」
『婚姻前から呼び捨てなんて出来ませんわ。』
(なんで、呼び捨てになるんだよ!!)
「とりあえず今から始めるからな!」
『わかりました。ジ、ジル。』
(呼び捨てしやがった……。もう、ほっとこ。)
第一陣は兵士達が転移することになった。転移後、リザベルに確認すると無事に着いたと知らされ順に7500名を転移することができた。
「リザベル、後の事は頼む。」
『もちろんですわ。お約束は忘れないで下さいませ。』
「約束??」
『デートですわ!デ、エ、ト!!』
「あれ、本気だったの?」
『当たり前ですわ。ですから、頑張って早急に準備しましたのに!!』
「わかったわかった。だが時間が空いたときだぞ!」
『もちろんです。じゃないとゆっくりできませんもの…。』
「なんか言ったか?声が小さくて聞こえん。」
『独り言ですわ!気にしないで下さい!』
「あっそう。んじゃ後よろしくな。」
インザス国への転移は滞りなく終え、続いてグランベルへの転移を開始した。もちろん先にグレイに連絡を入れ受け入れ準備も用意万端だ。国王とシリウスは最後の転移で良いと言い、人々を見送り続けた。そして最後の集団転移は辺りを深い常闇に包み込まれた深夜になった。
「これで最後になります。国王様もお疲れになられたでしょう。」
「いや、私よりジルの方が疲れただろう。申し訳ない、奔走してくれて。」
「気になさらないで下さい。」
小さな声で国王はジルに言葉を掛けた。
(すみません、崇さん。私のせいで……。)
(気にすんなって。そんな事より大丈夫かよ?)
(少し参りました。国王とは難しいですね。)
(お前は、よくやったよ。城に着いたら少しは休めよ。)
(ありがとうございます。)
グルルルルッ
カムイが静まり返った誰も居るはずのない街の方をみながら喉をならしていた。
「カムイどうした?」
『ご主人、薄気味悪い気配が近付いてきます。この臭いは!』
「ヤツか?」
『おそらく!』
その時、突風が吹き抜けジルの目前に、ザザンの姿が現れた。
「様子を見に来てみれば、街の者達はどうした?」
「言う必要はない。約束通り朝までには出て行く。問題ないだろ?」
「あぁ問題はない…。」
「ひとつ聞きたい事がある。何故ミーアを俺たちに渡した?」
「簡単な話だ。追い詰められた者は死を恐れない死兵になり、こちらも被害を被る。窮鼠猫を噛むというやつを防いだまでだ。」
「なるほどな。あえて俺たちに甘い汁を吸わしたってことか。」
「そう言うことだ。貴様らは我が王に生かされたに過ぎぬ。今後は大人しくしていることだ。」
「黙って大人しくするとでも?」
「ほう。滑稽な事を言う。ならば貴様に面白い話をやろう。」
「なんだ?」
「我が王が、新王国の開国の儀が3日後、執り行うのだが、その式典に貴様達を招待しようと思う。」
「断る。」
「そう言うと思ったが、最後まで聞け。その式典の余興に五人対五人の決闘を申し込む。勝てばシガー王国を返してやってもよい。そのかわり……。」
「なんだ?!」
「負ければインザス国を貰う。いかがかな?」
「そんなもの、俺の一存で決めれるか!!」
「知っているのだよ。貴様とインザス国王女は恋仲なのであろうが。」
「…。それ間違ってるぞ。」
「そんなこと、どちらでも良い。明日の昼まで待つ。返事を期待しているぞ。」
ザザンは言葉を残し闇夜に消えた。ジルはザザンの提案を胸に、転移玉を使いグランベルに帰っていったのだった。




