~退去~
国王アルディ=オズワルドが海の王バルバロッサ=ワインズマンに王位を譲渡し実質シガー王国は滅亡したのだった。
だが本来国が滅亡する時は、その国の王族は全て拘束され処刑となるのが世の常だが、アルディ=オズワルドの拘束も処刑も無かったのだ。
たがいまはそんな事を考える暇などなかった。現在、プリスデンの居住者は兵士やその家族、商人、職人、農民、漁師など老若男女合わせて約1万人いる。軒数にして約2000軒。いまから移動しても国境を越えるにはギリギリだった。
「くそっ!明朝になど間に合う訳がない。」
シリウスに焦りの色が誰が見ても分かるくらいだった。
元国王アルディも焦っていた。プリスデンの民だけではなく王都エルシャの民も助けたいがどうしようもない事に苛立ちを隠せないでいた。
しかし、ジルだけは違った。
「父上、今すぐプリスデンの民全てに声をかけ、街の広場に身支度をさせ集まるように通達してください。」
「ああ。わかってはいるが、どう転んでも間に合わん。」
「大丈夫。俺に任せて下さい。」
「どうする気だ??」
「説明は後です!」
「わかった。広場に集めれば良いのだな!」
「一度準備にミーアに帰ります。すぐに戻ります。」
プリスデンに住む民に一刻も早く知らせる為、全ての兵が民家一軒一軒訪ねて回り、事の説明をした。
ジルとグレイとルゥとカムイは前もって呼んでおいたコクウに乗りミーアへ全速力で戻った。ラベンダーとガーネットにはプリスデンに残り手伝うように伝えておいた。
コクウの上で伝達ナイフを使用し、すぐに城へ着くから幹部達に執務室に集まるよう指示をした。コクウの全速力に振り落とされそうになりながらジル一行は無事に城の屋上に着いた。すぐに執務室に入るとそこには幹部たちが勢揃いしていた。事の成り行きはすでに伝達ナイフで伝えていた。
「急な呼び出しすまん。緊急なんだ勘弁してくれ。」
ジルの言葉にマウワー公が返答した。
「そんなことより大変な事態になりましたな。ジル様いかがいたします?」
「いま、ミーアには空き家がいくつか教えてくれ?」
「まさか、全ての者をミーアに住まわせるのですか?」
「緊急なんだ頼む。」
「そうだと思い用意してます。ウィンストン公が調べてますからお待ちください。」
ウィンストン公は記帳している書類を別の部屋から探して持ってきた。
「遅くなりました。今現在使用可能な空き家は500軒ございます。」
「500か。それでは全ての者に行き渡らない。作るにしても時間が無さすぎる。」
時間さえあればジルの魔法で容易に作れるのだが、明日朝となれば間に合わない。取り敢えず避難を優先させようとした時、一人の者が提案してきた。インザス国からグランベルに出向している王女リザベルだ。
「ミーアに無くてもインザスになら、ありますわよ。」
「あっ!」
「妻なんですから、もっと頼ってくださいな。」
(結婚してないって!だがその提案はありがたいな。)
「リザベルいいのか?」
「大丈夫ですわ。先程、通信玉でお父様に連絡しまして確認を取り、準備に入りましたから。」
「でかした!」
「ではジル様、御褒美は婚約でよろしくて?」
「………。お前ねぇー。こんな緊急事態でそれを言うのかよ?」
「そんなの関係ありませんわ。緊急事態だからです!お慕いする方が逆境の時こそ妻としての真価が問われるのですわ!」
そんな事をリザベルが言っていたらヒルデがまた後ろで怒っていたがブライに止められていた。
「わかったわかった!民を助けてくれるのだから、結婚や婚約は無理だがデートくらいならしてやるよ!」
「フフフ。それで手を打ちましょう。」
ジルは、小さくガッツポーズをしているリザベルを見ないようにしていた。
(ダメだ、こいつ。)
「とりあえず、城前広場に転移玉の拠点登録をして2500名をミーアで保護する。残りの7500名をインザス国で保護。リザベルとミーシャはインザス国に戻り、転移玉の拠点登録と準備をよろしく頼む。転移玉も10個ほど渡しておく。ルゥにコクウでインザスへ送らすから後は頼んだ。インザス国王とゴリアテ宰相に礼を伝えておいてくれ。」
「了解いたしましたわ。」
「ルゥはそのままインザスで二人を手伝ってくれ。」
「任せてー。」
「後の者はグレイの、指示に従い動いてくれ。俺は、今からプリスデンに戻る。」
「「「はっ!!」」」
ジルは、自室に戻りありったけの魔法道具を魔法小鞄に詰め込み、カムイと共に、転移玉を使いプリスデンのシリウス邸宅に戻っていった。




