~使者~
王都エルシャから捕縛した将校二人をラベンダーとガーネットが尋問を開始した。もちろん、ルゥは固有スキル『以心伝心』にて二人の将校の心を読むためだ。椅子に座らせてからラベンダーは尋問を開始した。
「では、今から尋問を始めますわ。言いたくなければ言わなくていいですわ。」
「いや、そんなことはしない。全てを話す。」
二人共がこちらが何も言わずとも洗いざらい話したのだ。ラベンダーの笑みを見て恐ろしくなったのだ。吸血鬼族である彼女が笑った時に口元から覗いていた犬歯を見て、ヤバイと思ったらしい。吸血鬼族は赤い血を見ると興奮が止まらなくなり生き血を啜るのは有名な話だ。しかも、もうひとりは山羊族だ。バフォメットは大きな鎌を好んで扱う好戦的な種族で『死神』と言われる。これも有名な話だった。
吸血鬼族と山羊族。こんな二人に尋問で逆らえば無事で済むわけが無い。
「我々二人は海の王の部下ではなく、空の王ローガン=クロムウェル様に仕える者だ。」
「ふーん。それで?」
「海の王が、我らに接触し協力を求めてきたのだ。シガー王国を手に入れるために力を貸せと……。」
「それで一緒になって国王様とシリウス様に刃を向けたという事ですわね?」
「違う!!我々は裏切ってなどいない!」
「はぁ?何を今更。」
「仲間の振りをして海の王を監視していたのだ。生憎、これが奴等にバレて空の王は殺害された。そして空の王の兵を自分の兵にしてしまったのだ。」
「わかりましたわ。この件は、わたくしでは判断がつきませんので、この事はシリウス様にあなた方から、お伝えなさい。ただし今言った言葉が虚偽の場合、どうなるかわかりますわよね?」
「かまわん。好きにしろ。」
「結構。」
ラベンダーはルゥを見たが顔を横に振った。嘘はついていないという合図だ。三人は将校を連れ執務室に戻り、尋問した内容をシリウスに伝えた。
「ローガンの奴、勝手な事を…。あ奴が寝返ったのが不思議だったのだが、そういうことだったか…。簡単にくたばるとは思えないのだが…。」
その時だ。窓から突風が部屋の中に入ってきた。窓の無い建物が多い世界では日常茶飯事だがその風はいやに生暖かく気持ちの悪い感じがした。
「やはり、国王はここにいたか……。」
執務室大扉の前に小汚ないローブを纏った一人の男が現れた。その男はこちらを見てニヤリと笑っている。
「貴様、何者だ?!」
グレイがその者に向け刀を鞘から抜き、ラベンダーはナイフを持ち、ガーネットは大鎌を構え、ゼネガーは背負っている武器の柄を握りしめた。
「お前達は使者を斬るのか?」
シリウスがその者に向かって言葉を放った。
「使者とか言ったな?バルバロッサからか?」
「その通りだ、陸の王シリウス=ヴァンクリフ。申し遅れた。我が名はザザン=ダン。我が王バルバロッサ=ワインズマンから提案があり、その旨を伝えに来た。なに、簡単なものだ。」
「提案?申してみろ!」
「我が王が言うには『現王位を放棄し、この俺バルバロッサ=ワインズマンに王位を譲れ。憐れな貴様達にはミーアだけはくれてやる。だが領地からは出ていってもらおう。プリスデンの民を連れていきたければ連れていけ。反逆の芽は新しい国にはいらん。これを認めなければ、お前達の大好きな王都エルシャの民を殺す。明日の朝、目覚めの鐘が鳴るまでに国内に居た場合10分毎に一人づつ殺す。』という事だ。簡単だろう?」
「貴様ーー!!」
「いくら叫び凄んでも、怖くなどない。時間が無くなるが、早く決めなくて良いのか?」
国王アルディ=オズワルドがザザン=ダンの前に出た。
「ザザンと言ったか?貴様の申し出、全て呑む。そのようにバルバロッサに伝えろ。」
「さすが国王。いや元国王か…。決断が早いな。」
「いま、王位譲渡書を書く。待っていろ。」
アルディ=オズワルドは部屋を出て別室に向かった。シリウスも国王に付いていった。
ザザンは辺りを見渡した。その中から異様な殺気を放つ者が居たからだ。ジルだ。
「貴様が、ジル=ヴァンクリフか?」
「あぁ。そうだ。」
「中々の魔力だそうだな。だがそれだけだ。」
「何が言いたい。」
「魔力が強大でも扱う者が無能だと言っているのだ。」
それを聞いたグレイがいきなり攻撃を仕掛けた。
「待て、お前ら!!」
ジルの制止を振り切りグレイ、ラベンダー、ガーネット、ゼネガーが一斉にザザンに斬り込んだ。しかし四人の攻撃は空を切った。実際命中したのだが手に切った感触が無いと言った方が確かだ。ザザンは煙のように揺らめきながら同じ場所に立っていた。
「なにっ!?」
「上が無能なら、部下も無能だな。貴様らがいくら斬ろうが効かん。おい、そこの刀を持っている奴。」
「なんだ?」
「貴様だろ?ルイス=ハーケンの右手首を切り落としたのは?」
「何故それを?」
「貴様、わざとルイスが斬らせた事もわかってはないのだろう?」
「何だと……?」
「やはりな。だから、無能だと言ったのだ。相手の隠れた力量もわからぬとはな。」
「止めぬか!」
シリウスが制止させるために声を上げた。別室より国王とシリウスが書状を持ち執務室へ帰ってきた。
「これをバルバロッサに持って行け。」
「内容を改めさせてもらう。」
ザザンはアルディの書いた書状に目を通し頷き懐に書状をしまいこんだ。
「確かに。預かった。」
「ひとつ聞くが。お前は、私の首を持っては帰らないのか?」
「首?そんなものいらん。貴様はもう国王ではないのだからな。民を捨て逃亡した元国王の首なぞ誰も欲しくなど無いわ。」
ザザンは、背を向けローブを翻した途端ザザンの姿は煙になり、その場から消えた。
「明日の朝鐘の音が鳴るまでに国を出ろ。でなければ分かっているな……。」
姿が見えないが、何処からかザザンの声が聞こえた。
この事により国王アルディ=オズワルドが退位し何百年と続いてきたシガー王国が終焉したのであった。




