~海の王~
海の王バルバロッサ=ワインズマン。
元々は漁師の家で生まれ育ち、15才になる頃に類稀れなる船の扱い手であった為、海軍に勧誘された。好戦的な性格で周りの事など考えない極めて危険な者だが、慎重で戦略的な一面も併せもつ。戦う事でシガー王国大公爵の地位まで上り詰めた男である。
王国掌握。彼はその野望を抱き三年の年月を費やした。シガー王国とインザス共和国の間に火種を蒔き、戦争に乗じて弱りきった王国を手中に納めようと画策したのだった。その為には最も邪魔な存在、大公爵シリウス=ヴァンクリフをどうにかしなければならなかった。そのとき、インザス共和国リザベル王女が何やら面白い魔法を扱うとバルバロッサの耳に入ってきた。詳しくリザベル王女に聞くと、その魔法を人に向け使った事が無いと言うので試用にミーア国王グラント=ミーアに会い《人格操作》によりシリウスと争わせてはどうかと進言した。成功しようが失敗しようがその魔法を試すのにはミーア国王は都合が良かった。思いの外その魔法は利用価値が高いものだと知ることが出来た。シガー王国とミーア国の戦争後、ゴリアテの偽物は当初より潜り込ませていたが、他に協力者と偽り多数の兵をインザス共和国に送り込んだ。共和国内部から不平不満を煽る事によりインザス共和国のリザベル王女は面白いほど自らの計画に沿って動いていった。勿論、戦争によって弱ったインザス共和国も手にいれる事も計画の内に入っていた。
しかし、その野望は潰えてしまう。
さすがにインザス共和国20,000の軍勢に『陸の王』と言われるシリウスも歯が立たないだろうと踏んでいたのだが、あっさりそれを看破してしまったのだ。しかもシリウス本人ではなく息子ジル=ヴァンクリフによって。
海の王もシリウスの息子の存在は確認していたが、情報があまりにも少なかった為、力量を測るべくバルバロッサはジルがミーアの領主代行に抜擢された頃、時期を見て配下の海賊を使いミーアを襲撃させようとしたのだ。海の王が関与していないと見せるため海賊は使い魔である海ノ悪魔に襲わせる事にしたのだが、結果は散々であった。
海の王バルバロッサ=ワインズマンにとって最も要注意しなければなかったのはシガー王国国王アルディ=オズワルドでも陸の王シリウス=ヴァンクリフでもなく、紛れもなくジル=ヴァンクリフだったのだ。
しかし、海千山千の海の王は動じなかった。国王アルディ=オズワルドを捕らえれば勝機はあると睨んでおり、予め国王直近の近衛兵団を買収していたのだ。近衛兵団団長インシュミット=ハイマンは堅物だが副団長ドラルコート=レイスは、自惚れやすい傲慢な性格なのでバルバロッサにとって扱いやすくこちらの仲間に引き入れ王都に残存する兵力を我が物とする事が出来たのだった。
こうして目論見通り、海の王バルバロッサ=ワインズマンは、王都エルシャを手中に納めたのだった。
~王都エルシャ オズワルド城 謁見の間 ~
「おい!!国王は見つかったか!?」
兵に向け、怒声をあげてるのは、ドラルコート=レイス。
さっきまで居たはずの国王アルディ=オズワルドが見当たらず、兵に捜索させていた。
玉座には腕を組み、目を閉じ静かに鎮座している者が居た。海の王バルバロッサ=ワインズマンだ。
「ドラルコート。もうよい。概ねシリウスの手の者の仕業だろう。」
「しかし…。それではバルバロッサ様に王位を継ぐ事が出来ないのでは?」
「現国王の王位の放棄と新国王への譲渡と継承か…。」
「はい。いかがしますか?」
「それは考えがある。それよりも問題は……。」
「シリウスの息子ですね。」
そう言いながら、玉座の前方に二人の男が現れた。一人はローブを目深く被り、もう一人は腕を怪我していた。
インザス共和国ゴリアテ=ボルトバルトの偽物として暗躍していた者。名をザザン=ダンという妖術士だ。もう一人はリザベル王女お付きの騎士ルイス=ハーケンだ。
「お前達か……。傷はどうだ?」
「問題ないですよ。遠慮無く手首を斬られましたがね。まぁ、ザザンに新しい手を貰えましたからいいんですけどね。」
ルイス=ハーケンはグレイに切られた右手首をザザンの妖術にて新たな手を取り付けていた。
「そこまでの手傷を負わされると思わなかったぞ。貴様の事だ…わざと斬らせたな?」
「バレましたか。さすがバルバロッサ様。名演技には負傷は付き物ですからね。」
「それで、貴様から見たシリウスの息子の見立ては?」
「あれは、魔力だけみれば化け物ですよ。」
「それほどか?」
「ええ。兵の数が多いくらいでは勝てませんね。」
「うむ。分かった。ならば頭を使うとしようか…。」
直ぐ様、海の王バルバロッサ=ワインズマンは陸の王シリウス=ヴァンクリフに向け使者を送るよう兵に通達したがローブを纏った男が口を開いた。
「その使者の役目は儂に任せてもらおうか。」
「ザザンか…。」
「儂ならば、捕まる事も無いであろう?その化け物の顔を見ておきたい。」
「よかろう。ではザザンに一任する。話す内容は…………。」
「我が王は面白い事を考えたものだ…。」
「フッ。では、任せたぞ。」
妖術師ザザンはバルバロッサからの言葉をシリウスに伝えるべく、その場から煙に巻いたように姿を消した。




