~恋戦争~
ジルとの話し合いによりインザス国との戦争は終結した。インザス国王と宰相ゴリアテ=ボルクバルトは兵達に帰り支度が早く済ませせるよう通達し撤退させた。
「では、我らは自国へ戻ります。失礼いたします。」
「お気をつけて。」
帰り際にゴリアテ=ボルクバルトに連絡用の通信玉を1つ渡しインザス国の兵達は足早に帰路に着いた。
国王レイモンド=ハインリッヒと宰相ゴリアテ=ボルクバルトの帰る姿が小さくなるまでジル達が見送っていた。
ジルの後ろには幹部達が揃って見送っていたのだが、その中に見慣れない二人の姿がある事にジルは気付いた。
王女リザベル=ハインリッヒと宰相の娘リーシャ=ボルクバルトだ。
「ちょっと待て!なぜ二人がここに?」
「父ゴリアテ=ボルクバルトの偽物の判別の為に残るよう命を受けたのよ。当分こちらでお世話になるからよろしくね。」
「なるほどな。リーシャなら間違いないのは分かった。リザベル王女は、なんでいるんだ?」
「それは…これを読んで。」
「ん?」
リザベルは国王レイモンド=ハインリッヒから預かっていた、ジル宛の手紙を渡した。
~ジル=ヴァンクリフ殿
今回の件で貴殿には多大なる迷惑をかけ大変申し訳なく思う所存です。我が娘リザベルが贖罪の為、貴殿の傍で罪を償いたいと私に申しました。ジル殿に御迷惑を掛けると言いましたが娘の意思は変わらず、何卒了承していただきたく御願い申し上げます。王女などとは思わず、馬車馬の様に御使いください。宜しくお願い致します。
追伸 娘は貴殿に好意があるみたいです。~
(あの野郎…厄介な事を押し付けやがったな!つーか、好意ってなんだ?)
「国王様からの手紙には、何て書いてあったの?」
「王女を当分頼むってさ。」
「それはそうかもね。いまインザスに連れて帰ったら混乱するだけだしね。」
「ったく。インザスの国王と宰相の方が王女よりよっぽど曲者だな。」
その後、荒れた戦場の戦後処理を数体の魔傀儡にさせるよう一部の兵を置き《不死者行進》を解除し、ジル達一行はグランベルに帰着したのだった。
城門前には、マウワー公、シンドルフ公、ウィンストン公、ネロ、ヒルデ、ミリアリアがジル達を出迎えていてくれた。
マウワー公に、先だって連絡を入れ状況を報告しておいた。
「お帰りなさいませジル様。」
「マウワー公、出迎えなんていいのに。」
「そうはいきませんよ。勝利の凱旋なのですから。街の者達も歓喜していますよ。」
「皆が頑張ってくれたからな。防衛は問題無かった?」
「防衛は問題ありませんよ。ですが………。」
「何かあったの?」
「ここでは何ですので。取り敢えず城まで戻りましょう。」
「ああ……。」
城門から街に入ると街中には人々が喜びの声を上げていた。中には涙ぐむ者までいた。歓喜の渦に飲み込まれながらの凱旋なので普段なら城まではすぐなのだが、結構な時間がかかった。朝に戦争出立し夕刻には勝利して凱旋なのだから、喜ぶのも無理はなかった。
城へ着き少し体を休めた後、執務室へ皆を呼び出し先程のマウワー公の話を聞く事にした。
「マウワー公さっきの話なんだけど、その前に今日から新しく仲間になった者を紹介しておくぞ。まずはミーシャから。」
「ミーシャ=ボルクバルトです。よろしく。」
「詳しくはマウワー公から聞いていると思うが、宰相ゴリアテ=ボルクバルトの娘で、こいつのお蔭で早く戦争終わったんだ。ちなみに、グレイの婚約者らしい。」
ジルの説明にグレイが口を挟んできた。
「ジル様、元婚約者ですよ。今は解消しています。戦争を避ける為の計略な婚約ですので。」
「えっ?そうなの?」
「そうですよ。私は、まだ結婚するつもりなんてありませんよ。」
今度は、ミーシャがグレイの言葉に異を唱えた。
「わたしは、結婚してあげてもいいわよ!」
「リーシャ何言ってるんです。結婚とは好きな者同士がするものですよ。」
「グレイは、あたしが嫌い?」
「そうではなくてですね……。」
その会話を黙って聞いていた、ひとりが口を開いた。
「ふーん。グレイさん、婚約者いたんだー。」
目を細め睨みを利かせているのはミリアリアだった。
ジルを含め、グレイとミーシャとミリアリア以外の者達はこの光景を見てニヤニヤしながら見ていた。マウワー公が言いたかった話は戦争の事では無く色恋沙汰の話みたいだ。ミリアリアは戦争に出向いたグレイを心底心配していたがグレイに婚約者がいる事をマウワー公が告げた時、豹変したらしく自分も戦場に行くと聞かず抑えるのが大変だったというのだ。良く見れば防衛に当たっていたマウワー公とネロは引っ掻かれた生傷があちらこちらにあった。
「ミリアリア、そうではなくてですね……。」
「皆には内緒でわたしに戦争出立前に祈っててくれと言ったくせにねー。」
「いま、それを言わなくてもですね…。」
「婚約者がいるなんてねー。グレイさんは、おモテになるんですねー。」
「ミリアリアそうではなくて……。」
「グレイ、婚約者のわたしがいるのに浮気してたの?」
「ミーシャ、浮気と言われても…。」
グレイは、今まで見たこともないような姿を見た外野は楽しくてしょうがない。
居たたまれないグレイを横においておきジルはリザベル王女を皆に紹介し始めた。
「こちらもマウワー公に聞いたとは思うが、インザス国のリザベル王女だ。当分この街に居てもらうことになった。」
「今回皆様に御迷惑をお掛けしました。わたくしが冒した罪を、ジル様の妻として精一杯償いたいと思います。よろしくお願い致します。」
「ん??つま??」
「はい。妻ですわ。」
「はぁ~!?どういう事だ????」
「言葉のままですが。問題ありまして?」
「あるに決まってるだろうがーーー。」
「ジル様は、妻帯者ですか?」
「そうではないが。」
「なら問題ありませんわ。」
「勘弁してくれ……。」
そのやり取りを聞いていたヒルデが声を荒げジルにすごい剣幕で怒ってきた。
「あなたは、戦いの最中に何やってるんですか!」
「ちょっと待て、俺は何もしてないって。グレイと一緒にするな!」
「本当かしら。怪しいものです。」
「勝手にリザベルが妻って言ってるだけだ!」
リザベルはそれを聞いて。
「ヒルデさんでしたね。あなたもジル様が好きなのね。」
「ちょっと待って。ジル様の事を好きだなんてわたしは言ってないわよ!」
「なら、貴女が気になさらなくても、宜しいじゃありませんか?」
「うぅ…。」
「ひとつ教えてあげましょう。女ならば、いかなる時も隙を見せては行けませんわ。お慕いしたい方がいるならば離れる前に繋いでない貴女が悪いのよ。これは言うなれば『恋戦争』よ!」
「恋戦争………!!」
「ジル様はわたくしで決まりみたいですけどね。」
「ふん。その喧嘩、買ってやろうじゃないの!」
こうして、大好きな殿方を振り向かす為の恐ろしい女同士の戦いが、ここに火蓋が切って落とされたのだった。
ミーシャ対ミリアリア。リザベル対ヒルデ。
この戦いは一体どうなるのやら。
他の男共は、その女同士の火花を散らす戦いに関わらなくて良かったと安堵していた。




