~進言~
ミーアとインザス国の戦争は半日が過ぎようとしていた。魔傀儡を投入されたことにより、インザス共和国との戦いは徐々にだが終息に向かっていった。インザスの兵士の物理攻撃では歯が立たず、魔法士が放つ魔法も威力が低いため魔傀儡軍団には効きが悪く、倒すまでの事は出来なかった。
戦争の終わりを決定付けたのは、ゴーレムやアンデッドの活躍だけでは無かった。
リザベルはジルの仲間達の活躍に苛立ちを隠せず、王女という立場を忘れ兵士達に汚い言葉を発するようになっていた。指揮官ルイス=ハーケンも、兵士に奇声を上げ怒号を飛ばしていた。その時、インザスの若き将校が王女に撤退を進言した。
「撤退ですって?!わたくしの敗けと言いたいの?」
「そうでは、ありません。一度退いて立て直したほうが宜しいのではと?」
「あなた達が役立たずなだけよ!!」
「ですが兵も半数になり、このままでは全滅します。」
「五月蝿い!!わたくしの為に戦って倒れる事を喜びなさい!!」
「兵に死ねと仰るのですか?」
「ふん!そんなに不満なら、今すぐ殺してあげるけど。兵なんて替えの効く無能な駒なんだから問題ないわよ!」
「そんな事を言っていいのか?」
「はぁ??」
すると、その若い将校は懐より小さな玉を取り出した。
「これ何か分かりますか?」
「それ、ジル=ヴァンクリフが持っていた声を録音する玉じゃない!あなた、それをどうしたのよ?!」
「これは、録音の玉とは別物で拡声機能がある玉なんです。」
「拡声?」
「そうです。他の玉と連動すれば広範囲に多くの人たちに会話が聞こえる機能です。」
「それがなんなのよ!!」
「戦場に散りばめてあれば、どうなるでしょうね?」
「まさか!?」
「今、あなたが言った言葉は全てのインザス国の兵士も聞いているという事です。」
リザベル王女が言い放った言葉はインザスの兵士達の士気を下げ、武器や盾を投げ捨て両手を上げ降参の意思をミーアの兵達に示した。命を賭して守るべき王女が自分達を替えの効く駒としか見ていない事を知った兵達は絶望と困惑に陥り闘争心が失われた。
「貴っ様ーー!!」
指揮官のルイス=ハーケンは剣を抜き、その若い将校に斬りかかったが若い将校は、その一太刀が振り落ちる前に、自らの刀でルイス=ハーケンの剣を持つ右手首を切り落とした。
「うぎゃーーー!!」
「手首を切り落とされたぐらいで、ガタガタ騒ぐな!」
呻き声を散々上げた後、ルイスは切り落とされた右手首の傷口を布で止血していた。それを見たリザベル王女は、青ざめながら若い将校に詰め寄った。
「一体、何者ですっ!?」
「あなたが面白半分に滅ぼした旧ミーア国の元国王グラント=ミーアが嫡子グレイ=ミーアと申します。」
その若い兵はインザス国将校に偽装したグレイだった。
「リザベル王女に死んでいただきたく参上した次第ですよ。」
「待ちなさい!わたくしを殺すというの?!」
「ええ。」
「あなたの父を殺したのはわたくしではありませんわ!!」
「………。」
「ゴリアテよ!ゴリアテ=ボルクバルトがやったのよ!!」
「何を今更……。」
「本当よ!わたくしがゴリアテを捕らえているの!本人に聞いてみるといいわ!」
リザベルは、なんとか逃れようと必死にグレイに訴えかけた。だが、グレイにはリザベル王女の言葉など響く筈もない。明確な父の敵が目の前にいるというのに見逃すわけはない。グレイは刀を握りリザベルの傍に歩みを寄せた。その瞬間、王女はグレイに向けて魔法を唱えた。
「《人格操作》!!」
グレイの動きが止まった。
「フフフフ。あはははは!!わたくしが何も考えずにあなたみたいな下賤な者なんかに命乞いするわけ無いでしょうが!本当に親子揃って馬鹿なんだから!父親と同じように私に操られるなんて息子も幸せでしょうね。こいつはあたしの操り人形になった事だし、あの忌々しいジル=ヴァンクリフをこの馬鹿を使って八つ裂きにしてやるわ!」
高笑いを上げリザベル王女は優越感に浸っていると、頭の中で妙案が浮かんだ。
「そうだわ。この馬鹿に捕まったフリをしてジル=ヴァンクリフの傍に行き、今度はアイツを操ればいいじゃない。あの岩人形もドラゴンゾンビも、わたくしの物にもなるし。そうよ、それがいいわ。ウフフフフ、我ながら天才ね。」
早速、リザベル王女は麻縄をすぐに外せる程の緩さで捕縛するようグレイに命じ、ジルの居る天幕へ案内させた。




