~懐疑~
インザス国宰相ゴリアテ=ボルクバルトによりリザベル=ハインリッヒ王女の命が狙われている状況で彼女が出した結論は、自国に帰還するというものだった。しかし帰還をすれば敵前逃亡の罪で処刑されるのは明白だった。ならばゴリアテ=ボルクバルトに一矢報うと王女は言い出したのだ。約400の兵で2000の兵と闘うなど自害する事と同じだ。指揮官ルイス=ハーケンも必死で止めているが、王女の意思は固く帰還を選択した。ジルは王女を止めることも、守ることもしなかった。王女の帰還を止めれば本隊と戦うことになるし、保護すれば奪還と称して侵攻が始まるだろう。リザベル王女には同情はするが、だからといってインザス国との戦争を避ける為、停戦話を持ちかけられようが、そんな気など最初からありはしなかった。戦いの予兆を感じる前ならば受けるだろうが、火蓋が落ちた今いくら停戦を呼び掛けられても受けることは無い。非情なれど、それほどまでに緊迫した状況でもあったのだ。
「ジル殿、ご迷惑をお掛けしました。また、お会いしましょう。」
「お力になれず申し訳ない。」
「いえ、我が国の宰相が致したことですので。わたくしが必ず何とかしてみせます。」
「わかりました。リザベル王女お気を付けて。」
「有難う御座います。では」
ジルに挨拶をし、リザベル王女一行は反転し自国を向いて帰還していった。
一方、ラベンダーは森の中で、ある者を追っていた。
会談中にリザベル王女に向けて矢を放った者だ。
素早く森を走り抜く敵をラベンダーは見逃さない。
かつて、暗部であったヴァンクリフ家筆頭執事クリストファーに師事を受け己を鍛え続けてきた。そんなラベンダーが敵を見失うはずなど無かった。敵は弓矢を放ち懸命にラベンダーを撒こうとしているが、嘲笑うかのようにラベンダーは追っていく。むしろ、薄笑いを浮かべながら楽しそうに追っている。
「いつまで、鬼ごっこをするつもりかしら?いい加減飽きましたわ。」
ラベンダーはそう言うと、一気に敵との差を詰め相手の首根っこを掴み地面に押し倒した。
「もう、観念なさい。あなたの人生、詰みましてよ。」
敵は地面でジタバタと、もがいている。
「ちょっと待って!話を聞いて!」
ラベンダーに押し倒された輩は、桃色の髪の女性であった。
「男とばかり思ってましたが女でしたか。そんなの関係ありませんけどね。わたくしの仕えるあの方に矢を放った時点であなたを生かす理由がありませんわ。」
「あんた、リザベル王女に仕えてるの?」
「わたくしが仕えているのはジル=ヴァンクリフ様ですわ。リザベルなんて知りませんわ。」
「ならば、勘違いよ。私が狙ったのはインザス国のリザベル王女よ。」
「そんな事どうでもいいですわ。ジル様がいらっしゃる場所に矢を放った。それだけで万死に値します。覚悟はよろしくて?」
「よろしくないー!!あんたの主に伝えてよ。あんたの主、騙されてるんだってば!」
「どういう事ですの?」
「あたしの名前はミーシャ=ボルクバルト。インザス国、宰相ゴリアテ=ボルクバルトの娘よ。インザス国王女リザベルの企みをあなた達に教えるために来たの!」
「また、訳のわからぬことを。ゴリアテならばわたくし達の敵ですわ。その娘ならば死んで当然。」
「話を聞けー!! 一度でいいからあんたの主に会わせてよ!それで信用できないなら殺していいからー!」
「しょうがない娘ですね。ちょっとお待ちなさい。」
ラベンダーはジルに連絡をとった。ジルはラベンダーが捕縛した、ミーシャ=ボルクバルトを今すぐ陣営に、連れて来るように伝えた。ジルは騒ぎになるかもしれないので誰にも見つからず連れてくるようラベンダーに言い伝えた。
一時を過ぎラベンダーに連れられて一人の女性がジルの居る陣営の天幕にやって来た。天幕の中は人払いがされておりジルだけが座っていた。
「ジル様、連れて参りましたわ。」
「ご苦労さん。で、こちらが?」
「お初にお目にかかります。インザス国宰相ゴリアテ=ボルクバルトの娘、ミーシャ=ボルクバルトです。」
「領主代行、ジル=ヴァンクリフです。それで話とは?」
「王女リザベルについてよ。」
「リザベル王女が何かあるのか?」
「あの女が全ての元凶よ。」
「元凶?」
「ええ。あんた達はあたしの父が仕組んだと思っているでしょうけどそれはあり得ないの。」
「何故だ?」
「父ゴリアテは1年前から城に幽閉されているもの。だから企てる事なんて出来ないの。隙を見て父の幽閉された牢へ行き父からすべてを聞いたのだから間違いないわ。それでミーアに危険を知らせに行けと命じられたの。ミーアのグラント=ミーア王と懇意にさせてもらっている仲だったから。」
この女は、信じられない事を口にした。グラント王とゴリアテが懇意だと。ジルは、ラベンダーにグレイを呼んでくるように伝えた。
「グラント王とゴリアテが懇意の中ならば、息子のグレイ=ミーアも知っているよな?」
「もちろん。私の婚約者になる予定だったんだから。」
「なに?そんな事はグレイから聞いたことなんてないぞ。」
「本人に聞けばわかるわよ。」




