~利用~
敵国インザス国、約400の軍勢が進軍を開始して2日目。敵は今日にでもミーアとの境界線を越えるところまで来ていた。ラベンダーの連絡で敵兵の詳細がわかった。歩兵150、槍歩兵100、重装歩兵50、弓兵30、騎馬兵30、近衛兵20、魔法兵20、指揮官や将校が20。420の軍勢であった。先頭には指揮官と副指揮官が馬に股がり兵を率い、その後ろに複数の将校が1つの馬車を囲むように隊列を組み、兵士たちが続いている。
「ラベンダー、馬車には誰が乗っている?」
「顔は、はっきり見れていませんが、若い者みたいですわ。」
「ゴリアテじゃ無いのか?」
「違いますわね。」
「まぁいいや。偵察をつづけてくれ。」
「わかりましたわ。」
しかし、一体誰が馬車に乗っているのか気にはなる。馬車に乗っているくらいだから間違いなく身分が高い者だろう。ゴリアテが来るものと思っていたが、若者が乗っているとなると予想もつかない。それよりも今は戦いの準備が先だ。
アース山、東の平地にある少し高い所に自陣営を張って敵が進軍する様子を見ているのだが動く気配は無かった。
このまま真っ直ぐミーアに向かうと思っていたが、手を出す様子はない。
ラベンダーが再度連絡してきてミーア国境越え寸前で陣を張ったという。奴等からすれば俺たちから手を出したほうが戦争を起こした口実に利用できるとでも思ったのだろう。だが、ここまで来たのだから此方からは警告くらいしなければ舐められる。ブライを使者として敵陣に向かわせる事にした。
ブライは、了解し颯爽と平地を走り抜け国境近くの敵陣前に着いた。
「我は、ミーア騎士ブライ=ハイ。貴殿等は何処に行かれるつもりか?返答されたし。」
敵の指揮官らしき人物がブライに目掛け返答した。
「我が名はルイス=ハーケン。インザス国の騎士だ。貴殿が仕える方に頼みたい事がある。お目通しを願いたい。」
「どういうことだ?貴殿等は戦いに来たわけではないと申されるのか?」
「そうだ。貴殿が武装解除を申されるなら受け入れる。」
「わかった。しばし待たれよ。」
ブライはジルに伝達ナイフにて今の話を伝えた。ジルはその申し出を受ける事にした。
「会談の申し入れを我が主が了承なされた。会談場所は両陣営の間で行う。武装解除し代表者は来られたし。」
「了解した。」
丸腰のジルとブライが両陣営のちょうど中間地点で立っていると、指揮官のライルと馬車に乗っていたと思われる者がやって来た。ローブを羽織、フードを深く被っている。
奇襲をしかけてくる可能性も考えられる。万が一の事を考え簡易結界ナイフを地面に突き刺し結界内へ入るように指示した。
「シガー王国ヴァンクリフ領プリスデン領主代行のジル=ヴァンクリフです。」
馬車に乗っていた者が被っていたフードを取った。綺麗な長い髪の女性が顔を出した。
「話を聞いていただき有難う御座います。インザス国 国王レイモンド=ハインリッヒの長女リザベル=ハインリッヒです。」
それは、インザス国の正統後継者でもある敵国の姫であった。
「失礼しました。姫君とは露知らず。申し訳ありません。」
「いえ。ジル殿、こちらこそ申し訳ありません。急に押し掛けてしまい…。」
「話し合いと申されましたが何故でしょう?」
「戦争回避の為です。」
「どういう事ですか?」
「先日、我が国の宰相ゴリアテ=ボルクバルトが王に成り代わり攻撃命令を発令しました。インザスの正統後継者であるわたくしに戦果を挙げるさせるために先陣をきらせたのです。ですがわたくしは他国と言えど民を死に追いやる事はしたくありません。なんとか、話し合いで解決できないかと思いお伺いさせていただきました。」
「くそっ!謀られた!」
「えっ??」
「あなたは何も分かってはいない。あなたはゴリアテ=ボルクバルトに戦争のきっかけにさせられているのですよ。あなたが話し合いで上手くまとめようが先陣をきって我々に攻撃しようが、どちらでもいいんです。貴方を我々が殺したように見せれば堂々と侵攻できますからね。」
「そんな、まさか!」
「最近、インザスの王は何かおかしくありませんでしたか?」
「人が変わったように、戦争の事ばかり言っています。以前ならこのようなことは無かったのですが…。」
「インザス王はゴリアテ=ボルクバルトの魔法《人格操作》で操られている可能性があります。シガー王国とミーア国が戦争が起きたときもミーア国グラント=ミーア国王に向けその魔法を唱え両国を争わせたのです。」
その時、簡易結界に何処からともなく矢が当たり矢じりが砕けた。インザス軍が陣営を張っている方向から矢が放たれた。即座にジルはラベンダーに連絡し弓矢を放った者を捕縛するように命じたが、すでにラベンダーは動いていた。
「リザベル姫。わかりましたか。あなたの命は狙われています。それほど貴国の宰相は狡猾なのですよ。」
「そんな…。」
「今からでも帰られたほうがよろしいのでは?」
指揮官のルイス=ハーケンが助言してきた。
「ジル殿、それは出来ません。敵前逃亡として姫が処刑されてしまいます。」
「しかし、我々が保護するわけにもいきません。それこそ姫を助けるためといって進軍しますよ。」
リザベル姫に殺害されるか処刑されるかを選べと言っているようなものだった。




