~国王~
執事のクリストファーが言っていたお忍びで来られたお客様とはシガー王国、国王アルディ=オズワルドその人だった。
前国王ガルフ=オズワルドは子供に恵まれなかったが、高齢になり初めて出来た子供がアルディであった。だがガルフは年を取り過ぎていた為、一昨年、病死してしまったのだ。こうしてアルディは若くして国王になったのだ。
アルディ王は話が長くなると思い、シリウスとジルに腰を落ち着けて話を聞くと言った。応接室の長椅子にアルディ王が座りその対面にシリウスとジルが座った。
ジルは国王と大公爵に今までの経緯を話した。二人の顔は
怒りや悲しみと言った感情はなく、ジルの話を淡々と聞いていたのだ。
「空と海が暗躍していたか。奴等め王国転覆を狙っておったか。」
「王が我が街に視察にお越しいただいた時に知れて良かったかもしれませぬな。」
「いや、そうと言えないかもしれない。何せプリスデンに行くように言ったのは大公爵達だからな。王都で、良からぬ事をしているかもしれない。」
「至急、対策を考えなければなりませんな。ジル、何か妙案はあるか?」
「幸い、いまは我々と私の一部の部下しか知りません。空の王、海の王、インザス宰相ゴリアテ=ボルクバルトも我々はまだ気付いていないと高を括っていると思います。ですので今は目立った動きは控えたほうが良いですね。」
「黙って見てるのか?」
「はい。国王様と父上は、ですけどね」
「ん?どういう事だ?」
「お二人は普段通り過ごしてください。相手を油断させておくために。私が秘密裏に動きます。ただ奴等よりも出遅れているのは事実です。犠牲は出るでしょう。」
「やむを得ない。」
「ですが、国王様は必ずお守りします。その為に私が来たのです。」
ジルは魔法小鞄から机の上にいくつかの道具を出した。
「これは?」
「父から国王様に渡していただくために持ってきた品です。王都に戻られても王を守れます。」
机には、伝達ナイフの他に大きな珠玉と小さな珠玉があった。
「おお、綺麗な宝石だな。だがジル、こんなものでどうやって国王様を守るんだ?」
「まず、このナイフですが……。」
使い方を説明し二人は伝達ナイフを試した。
「ナイフで通話とはな。これならば誰も気がつかないな。」
国王とシリウスに1本づつ渡しておいた。
「次にこの大きな珠玉ですが、硝子という素材でできております。これも通信手段のひとつです。ナイフと違うところは相手の顔を見て話せるというところです。」
硝子玉に《付加》で映像通話を付加してある。現代でいうところのビデオ通話だな。これも二人に試してもらいひとつづつ渡しておいた。この珠玉は通信玉と名付けた。
「最後にこれですが、この玉が王を守る物になります。」
「こんな小さな物で?」
「はい。命の危機が訪れた時、この玉をどんな方法でも良いので割って下さい。割れば瞬時に拠点に移動できますので。拠点はこの屋敷にしましょう。」
ジルは魔法《付加》でこの部屋を拠点登録した。
「何を言っているのか分からないのだが。」
「そうですね。では父上、クリストファーと共に庭に出てこの玉を割って下さい。体に触れていてくださいね。」
「わかった。」
「アルディ様、使い方を見てて下さい。」
アルディは、窓から庭に出たシリウスとクリストファーを見ているシリウスの肩にクリストファーは手を置いている。
「ジル。では割るぞ。」
「お願いします。」
シリウスは、珠玉を地面に叩きつけた。
珠玉が割れた瞬間、シリウスとクリストファーは庭から姿が消えた。
アルディは窓から乗り出し庭を見ながら驚いた。部屋の方に振り返るとそこにシリウスとクリストファーが立っていた。アルディ、シリウス、クリストファーは目が点になっている。《付加》で珠玉に転移を付与しただけなんだけどね。我ながら、良い魔法を開発したものだ。硝子の原料を見つけたグレイの働きも大きい。硝子玉ならすぐに加工も出来るし手間もない。こっそり作っておいて役にたったな。
「これで何かあったとしても、ここに移動できます。」
「我が息子ながら、さすがは二柱の加護持ちだな。」
「ほう。二柱も。」
「ええ。王には言いそびれていましたがそうなんです。」
「それは凄いな。」
小さな硝子玉を転移玉と名付け、アルディ王に5個渡しておいた。
王の守りの算段はある程度ついた。だが海の王と空の王は百戦錬磨の大公爵だ。なかなか尻尾は出さないだろう。隣国宰相ゴリアテ=ボルクバルトについても情報が少ない。
「ジル、この後はどう動く?」
「情報収集以外は軍備を整えるぐらいしか…。戦争が起きれば前門の虎後門の狼になり我々の敗けです。ミーアも残念ながら戦争をする余力がありません。正直申し上げて、今は勝てません。」
「やる前に敗けを認めるのか!」
「今はですよ。」
「どういう事だ?」
「もし、戦が半年後ならば勝たせてみせます。ですが、半年以内ならば間違い無く敗けます。」
「相手の出方によるか…。」
「はい。これが、王を守る事を第一に考えた私の結論です。」
「わかった。とりあえずジルは情報収集を頼む。俺は王の身辺警護をしながら奴等を見張る。あとは信用できる者達を見極め逃がす算段を立てる。」
「わかりました。では父上にも転移玉を渡しておきます。数が限られていますので良く考えてお使いください。」
「わかった。」
いま、現状出来る事を話し合い方針が決まった。
いまは天命に賭けるしかなかった。
「少しジルと二人きりで話がしたい。席を外してくれるか。」
王は俺をじっと見つめ、俺以外の者たちに退出するよう促した。




