~謀略~
「さてここからが問題なんだが、謁見の間では他の者に聞かれるとまずい。執務室に移ってから話そうと思う。」
ジルが貴族を罰したのは、あくまでついでだった。本題は今ここにいる信用出来る者にだけ話す必要があった。外部に漏れれば混乱することは明白なので執務室に移動した。
執務室には謁見の間にいたグレイ、ブライ、ネロ、ゼレナー、ヒルデ、ルゥ、ミリアリア、カムイ、マウワー公、シンドルフ侯、ウィンストン伯と山賊大頭ラゴールが縄で拘束されたまま部屋にいる。ほどなくして、別任務をこなしていたオーガストとシェリーも合流した。
「皆集まったことだし始めるぞ。ラゴール、黒幕は誰だ?」
「そいつらの名を俺があんたに言えば確実に殺られる。だが言わなければあんたに殺られる。ならば取引しないか?」
「取引だと?」
「俺を雇ってくれ。ならば全てを話す。」
「お前、ブライに話しただろうが?」
「ああ。だが全てじゃない。」
「なるほどな。死ぬのが恐くなったか?」
「恐くねぇ。だが死ぬのならば戦場だ。俺をコケにした奴にもお返しをしなくちゃいけねぇしな。」
「ブライ、どう思う?」
「ラゴールは、ある程度、俺に話しましたが全てでは無いと思います。」
「なぜ、そう思う?」
「俺には9名の貴族を裏で操る者がいる事までは話しました。ですがあの者ではラゴールが言う事を聞くとは思えません。こいつは自分より強い者ではないと聞きませんよ。」
「なるほどな。ならば話の内容次第で雇ってやる。これが最大の譲歩だ。だが嘘ならば分かるよな?」
「ああ。それでかまわねぇよ。」
ジルはルゥを呼び固有スキル『以心伝心』でラゴールが嘘を着いた時点で声を掛けるように命じた。
「じゃあラゴール話してくれ。まず9名を操ってたのは誰だ?」
「そいつはインザス国宰相ゴリアテ=ボルクバルトだ。さっきの9人はゴリアテのエサに釣られて裏切ったんだ。俺を雇ったのもこいつだ。ここまでがブライに話した内容だ。」
「エサとはなんだ?」
「シガー王国の爵位だ。」
シンドルフ候とウィンストン伯がラゴールの話に割り込んできた。
「ちょっとまて。シガー王国だと?何故インザスの爵位じゃない?」
「落ち着けってまだ話は終わっちゃねーよ。」
ラゴールがシンドルフ候とウィンストン伯を静めた。
「何故、シガーの爵位かと言うとだな。簡単な話、シガーにも裏切り者がいるからだ。」
「それは誰だ?」
「あんたの父親は『陸の王』シリウス=ヴァンクリフなんだよな?」
「あぁ、そうだが。」
「『陸の王』がいれば、他にもいるだろう?」
「おい!まさか?」
「そのまさかだよ。『海の王』それに『空の王』。」
ジルはルゥの方を見た。だがルゥは首を横に振った。
ラゴールは嘘をついてはいない。
「シガー王国の3人の大公爵のうち2人が裏切ってるというのか。」
「そういうことだ。しかもインザス宰相ゴリアテと手を組んでいるぜ。間違いねぇ。」
グレイが今までの経緯をまとめながら話した。
「ミーアの鉱山を襲ったのもインザスの魔物を乱獲しているのも戦争準備と言うことか。なら、ミーアとシガーの戦争も仕組まれていたというのか?」
「あれは違うぞ。仕組まれていたのではなく実験だ。」
「実験?」
「インザスは魔法国家だろ?新しく開発した魔法を試したのさ。魔法の名は『マニプレート』。人を操る魔法だ。」
その魔法を聞いた途端、いつも優しいグレイの顔が一気に強ばり、声色には怒気が含まれた。
「その魔法で我が父グラント=ミーアを操ったというのか?」
「多分な。」
「その魔法を父に使った輩は……。」
「間違いなくゴリアテだな。今のところ奴しかその魔法は使えねぇしな。」
「インザス国宰相ゴリアテ=ボルクバルト。必ず報いは受けさせてくれる。」
父親の仇打ちができる明確な相手だが個人的な感情は胸の奥にしまいこんだ。
この件は、さすがに自分達だけで何とかするには大きすぎるとジルは考え、すぐにでも父シリウスへと報告に行こうと思う。だが馬を使った移動でも2日はかかる。その間、皆には街の者や出入り業者にわからないように戦争の準備を頼んだ。兵士の人数総数、武器や装備の数量確認、備蓄食料数などだ。あと、鉄鉱山と銀鉱山を解放できたのだから利用し無い手はない。ラゴールには自分の部下と鉱夫を連れて鉱石を取ってくる様に伝えた。見張りにはブライとネロがおこなう。ラゴールには雇った以上どんな仕事でもしてもらうが、まずは迷惑を掛けた鉱山に関係する者たちに向けての贖罪の意味を込めての採掘作業の手伝いだ。渋々、引き受けたラゴールに発破をかける為、鉄鉱石採掘量を伝えた。この量が取れれば終わりで良いと言った途端やる気が出たみたいだ。
(6ヶ月分の鉄鉱石量なんだがな。)
それと3名の貴族には新たな役職と爵位を与える事にした。
外交交易大臣 ラインバルト=マウワー公爵
財政運用大臣 ルドルフ=シンドルフ公爵
総務政策大臣 ロイ=ウィンストン公爵
「貴方達には新たな役職をお願いしたい。それにともないシンドルフ、ウィンストンのお二人にはマウワー公と同じ爵位を与える。マウワー公これで良いか?」
「はい。ご配慮、有難う御座います。」
シンドルフとウィンストンは驚いている。それもそのはず。爵位がいきなり上がり公爵になったのだから。これは、マウワー公から申し出によるものだ。貴族が一気に9名も居なくなれば対外的に弱くなったと思われる事態を考慮したからだ。
「では今から俺はグレイと共に、プリスデンに早馬で行ってくる。すぐに帰るがその間に何かあれば知らせてくれ。」
そのとき、ルゥがジルに提案をしてきた。
「ジル様、早馬なんかより良いものありますよー。」




