~海ノ悪魔②~
海岸には俺とグレイ、ルゥ、ミリアリアそして水の民族たちが集まっている。
「ミリアリア、クラーケンはどの辺りによく現れるんだ?」
「湾の中央に必ずと言っていいほど出てくるわ。」
「中央ね。じゃぁそこに向けて道を作るか。」
「はぁー?海に道??何言ってるの???」
「まぁ見とけって。」
ジルは地面に向けて魔法を唱えた。
「《氷ノセカイ(コオリノセカイ)》。」
湾の中央に向かって海水が徐々に凍っていく。
それは馬車が行き来できるほどの幅で瞬く間に氷の道が出来た。
「はい。完成っと。上手くいったな。」
「ちょっとまって!なんでいきなり道が出来るのよ。」
厳密に言ったら道じゃないんだけどな。
「水氷魔法の初期魔法《氷ノセカイ(コオリノセカイ)》で海水凍らせただけなんだけどね。加減が難しいから大変だったな。」
「あきれた……。《氷ノセカイ》は水氷系魔法の威力上げるだけの魔法なのに……。領主さんの魔法はなんでもありなわけ?」
「魔法を工夫して使ってるだけだって。」
「簡単に言ってくれるわね。」
「要は使い方次第なわけ。んじゃそろそろクラーケン誘き出すとしますか。」
「あたし達は、何したらいいの?」
「まだ、何もしなくていいぞ。必要なとき呼ぶから。」
そうミリアリアに告げ、俺とグレイとルゥが氷の道を使い中心に向かって歩いていく。
ちょうど氷の道の半分くらいに来たところで、俺とグレイはその場に残りルゥに指示を出した。
「この先は、ルゥ一人で行ってくれ。作戦通りしろよ。」
「わかりましたよー。ここまで誘き寄せて来ますよー。」
「頼んだぞ。」
ルゥは一人、道の先端に歩いていく。ルーが着くまでに俺とグレイは準備に取りかかる。
「グレイ、始めようか。」
「わかりました。」
グレイは水面に手を触れ、自らのスキルを発動させた。
技能というものは、誰かに教えてもらうか、自ら鍛練し経験を積み獲得するか、生まれた時に才能として持っているかの3つの方法しかない。
グレイのスキル《読心術》は読んで字のごとく、相手の心を読むスキルなのだが、人だけではなく魔物や魔獣にも使える。だがそのスキルもまた使い方次第で心を読む以外にも使えるのではないかとグレイは考え《読心術》を昇華させていたのだ。
その技術の名は《先見之明》。
先を読み物事の本質がどうなるか予測でき、万物の理を見抜く事が出来る能力。戦闘においては約10秒先の未来を先読み出来る。
水面に触れ発動させたのは、水中にいる生物の位置を把握する為だ。先を見抜けるならば行動を読むことも容易いからである。しかも水中ならば反響しやすい状況なのでより遠くのものまでわかるっていうことだ。
簡単に言うと、ルゥに囮をさせ烏賊が近づいてきたらグレイが俺に知らせて、俺が魔法をブッ放すって事だ。
ルゥは氷の道の先端に着き、両足を水につけバシャバシャと水面を叩く。
釣りでいうところのエギングだな。やったことないけど…。
それを数分しているとルゥがいる目前の水面がなにやら騒ぎだしてきた。
水中に黒い影が見てとれる。ルゥはその黒い影を見てビビり始めた。
「ジル様!来ます!」
「ルゥ、こっちに帰ってこい!!」
俺が言うとルゥは俺とグレイの方に走ってきたが同時に、《海ノ悪魔》が水上に現れた。
「ぎゃーー!!出たぁーー!!」
ルゥが叫びながらこちらに必死の形相で半分泣きながら走って来るが氷の道を壊しながらクラーケンもルゥを追ってくる。
俺とグレイは、ルゥの必死な顔が面白く笑ってしまった。
「笑ってないで、助けてくださいよぉぉぉー!!」
「わかったわかった。もう少しこっちに来たら助けるから早く来いよー。」
「ええーーー!?」
「もうちょっとだから頑張れー。」
「人でなしーーー!!」
人じゃないもん半神半人だって俺。
ルゥはやっとの思いで俺の側までやってきた。
着いた瞬間倒れ込み息を切らしながら大の字を描いて仰向けになっていた。
「んじゃ、そろそろだな。水氷魔法《水牢》。」
俺は海ノ悪魔向かって水氷魔法を唱えた。
水氷系第二位階魔法
《水牢》
・単体抑制魔法。攻撃対象を水の檻に閉じ込め行動を抑止する。
クラーケンが海ノ悪魔と言われる由縁は大船すら沈没させるほどの大きさにあるのだがそんな事は俺には関係なかった。
「よし!捕らえた。」
クラーケンは水で出来た玉型の牢にすっぽり入り、もがいていた。
「んじゃ、今から倒してしまうからグレイは運びやすいように切断してくれよ。」
「了解です。」
俺は水牢で、もがいている海ノ悪魔にむかってとどめを刺した。
「《落雷》。」
クラーケンに向かって一筋の雷が降り落ちた瞬間海ノ悪魔は息絶えた。
迅雷系第三位階魔法
《落雷》
・単体攻撃魔法。天からの雷を相手に放つ。
やっぱ水に効くのは電気だよな。烏賊が焼けて、ほんのりいい匂いがするじゃん。
「グレイ、烏賊焼けたし刀で捌いてくれ。」
「………全部食べれますかね?」
「村の全員に行き渡したら無くなるだろ。」
「そうではなくて……。」
「なんだ?」
「ジル様の迅雷魔法が強すぎて海に流れて、魚も大量に浮かんでるんですよ……。」
俺は回りの海を見てみた。
「あっ………。また加減間違えたかな……。」
「間違いないですね。」
海上には、数多の魚が浮いている。雷の電気で失神したみたいだな。
烏賊を、後回しにして失神している魚を水の民族に集めるように指示をだした。
「私たちが手伝う事ってこういう事だったのね。」
半ば呆れた様子でミリアリアは俺に言ってきた。
「あははは。そ そういうことだ。3人では大量の魚運べないだろ?」
グレイとルゥはジト目で俺を見た。
そんな目で見るなって。
「一緒に戦うのではなく荷運びとはね。村の皆も喜んでるし、まぁいいわ。」
まだミリアリアは呆れているが、村の皆の笑顔を久しぶりに見たらそんな些細なことは気にもならなくなっていた。
「じゃあ、街の方にも運びましょ。これだけあれば皆お腹いっぱい食べれるんじゃない。」
「そうだな、今夜は街あげての宴会にしようか。」
「それはいいですね。街の皆も喜びますよ。」
「僕も魚いっぱい食べれるんだねー」
「皆が頑張ってくれたからな。さぁ帰るか。」
そして海ノ悪魔との戦いは幕を閉じた。
ジルがクラーケンを、雷撃で倒す瞬間を沖合い遠くの船から見ている者たちがいた。
「あの野郎、一撃で俺のクラーケンを倒しやがった。おい、あの方に報告だ。」
この闘いは終わってはいなかったのだが、ジルはまだ知る由もなかった。




