~ヒルデの任務①~
ヒルデははグランベルから一里ほど離れた農村に現状の確認をするために来ていた。田園が辺り一面あるのだか荒らされた跡ばかりで作物は育ってはいない。
土は痩せておりヒルデが手に取って確認してみたが決して上質のものではなかった。
戦争の影響よりも魔獣が荒らしている影響の方が強いのだろう。育てた農作物が出荷できる前には食べられてしまっていると考察できた。
村長や村人に聞いてみたが魔獣が荒らしても少し位は収穫できたのだが、今度は山賊や盗賊が残ったものを盗るためどうしようもないと嘆いていた。
森の果実などを取りに行こうとしても森には、魔獣や魔物、山賊に野盗。そしてなかでも厄介な精霊がいて収穫ができないらしい。
ヒルデは村長にその精霊の事を尋ねた。
「厄介な精霊って?」
「わしらが森に入るとどこからか声が聞こえてきて森から出ていけと言うんです。姿も見えないので恐ろしくて森の中に入れないんです。声の聞こえる場所からは山賊や魔獣も出ないもんですからわしらからすれば安全な森なんですが………」
「一度森へ入って調べた方が良さそうですね。」
「おぉ。調査していただけるのですか?」
「ええ。新しく配属なされた領主様は農村の事を心配されていますので。」
「それは、本当ですか?」
「新しい農法や畜産方法も考えられています。近々その農業指導にこられる予定です。その為に私が先行して現在の状況調査をおこなってるわけです。」
「なるほど。わしらは見捨てられたかと思っていましたがありがたい。」
「魔獣や山賊の対策はすぐにでも取りかかれる手筈なので大丈夫ですよ。それより、他に困ったことなどありますか?」
「水不足も深刻です。日照りが続いてましてろくに作物に水がやれないのです。あとは、家畜不足と飼料不足ですね。田や畑を耕すにも馬や牛がいないものですから人の手だけでは限界があります。」
「わかりました。では一度領主様に会っていただき村の現状を伝えてたいと思いますので村長と数名は私と城まで来ていただけますか?」
「わかりました。では早速準備します。」
「それまでに私はその精霊がいる森へ行ってみるとしましょう。」
「お一人で行かれるのですか?森の民のエルフの方でも危険なのでは?」
「危険だから一人で行くのですよ。本当に危なくなれば一人の方が逃げやすいですから。」
「わかりました。ですが無茶だけはなさらないでください。」
「大丈夫ですよ。では行くとします。準備ができたら城まで行ってください。後から追い付きますから。」
ヒルデは精霊がいるという場所を村長から聞きとりあえず向かうことにした。
そこは木が鬱蒼としていたがところどころ木漏れ日が射していて気味が悪い感じはしなかった。だがその場所は辺りを見回しても小さな魔物の気配もなく鳥すら鳴いていないただ風で葉が摩れる音だけが聞こえている。
『この森に入るな』
どこからか、声が聞こえてきた。
「誰?!」
『この森から出ていけ』
「姿を現しなさい。」
ヒルデが何を言おうが出ていけと言うばかりで出てはこない。
「何故、出ていかなければいけないの?」
『この森は我らの森だ。出ていかなければ強制的に出ていかせるだけの事……。』
木々のざわめきが無くなり静まり返った瞬間ーーー
ヒルデを何かが襲った。
それは、木に巻き付いていた蔓だった。
ヒルデは間一髪で攻撃してきた蔓を避けたと思ったら、ヒルデの周囲を蔓が囲んでいた。まるで意思のある触手のような動きをしている。彼女を敵と見なし攻撃を仕掛けてきた。
蔓はヒルデを捕まえようと四方八方から襲ってきたが不意打ちですら避けたヒルデを面と向かった状態では捕まえることはおろか触ることなどできなかった。邪魔になる蔓は腰に帯びた細剣で粉々に切断したが、すぐに別の蔓が出てくる。
「キリがないわね。ほんとにめんどくさい精霊ね。」
『誰がめんどくさいだー!』
「うわっ。精霊が怒った。」
いきなり、精霊が大きな声で叫んだ。よほど面倒くさいと言われ腹が立ったのだろう。
「一体なんなのよ。怒る精霊なんて聞いたことないわよ。」
『うっさい、乳おばけ!!』
その瞬間、いつもの綺麗で慎ましいヒルデか消えた。
「だぁれぇがぁーー!!乳おばけでぇすってぇぇー!!!」
精霊は、ヒルデに言ってはいけない一言を言ってしまった。
ヒルデは昔から胸が大きいのがコンプレックスで、胸をからかわれることが何よりも嫌いだった。
ヒルデは鬼の形相で声がした方を見ている。誰もいないハズノ茂みの方へ歩くのを止めない。
「早く、出てきなさい!!出てこないと魔法でこの辺り一面吹っ飛ばすわよ!!」
『出ていったら、ブッ飛ばすだろうがー』
「嫌ならいいわよ。3秒数えるからそれまでに出てこなきゃ吹っ飛ばす。」
形勢逆転になっていた。精霊が怖がらせるのではなく精霊を怖がらせる状態になっていた。
「3………2………1………」
『わ、わかった。わかったから吹っ飛ばさないでくれ。』
「吹っ飛ばさないでくれ??」
『吹っ飛ばさないでください。』
「なら早く出てきなさい!!」
『は、 はいっ!』
怯えるような返事をすると、茂みからゴソゴソ音が聞こえてきてテクテクと歩きながら小さな人が出てきた。
ヒルデはその小さな者をじっくりと見ていた。小さくてかわいい生き物がそこにいる。
ヒルデの怒りはどこかにいった。それよりもその小さい者に興味津々だった。
「あなたは一体なにものなの??」
「おいらは、森の妖精族コロポックルのポルタだ。」
全長20cmほどの小さな男の子はそう言った。
「妖精?精霊じゃなかったのね。」
「んだ。精霊と言った方がおっかないと思ったんだ。」
「なんで、村の人を怖がらせたりしたのよ?」
「この森には、おいらの一族が隠れて暮らしているからだよ。」
「昔からここにいたの??」
「んにゃ。少し前に北の方からやって来ただ。前に住んでいた場所の森が伐採されて家がなくなったんだ。」
「北って。インザス王国?」
「んだ。あいつらおいら達の事なんかお構い無しで森をメチャクチャにしやがった。だからこっちに逃げてきたんだ。」
「だからといって脅かさなくても。」
「おいら達の仲間、人族に連れていかれたりしたから…」
「そう…」
「だから、そっとしといてはもらえないだか?」
「けど、それだとずっと怯えて暮らすことになるじゃない。」
「そうだども…。」
「わかったわ。一度、領主様に相談しましょう。あの方なら何とかしてくれるわよ。」
「本当だか?」
「大丈夫よ。私と一緒に来てくれる?」
「わかっただ。人族ならついていかないけど、森の民のエルフなら信用できるだ。ちょっと待っててくれろ、村長に言ってくるだ。」
妖精の村に帰ったポルタはすぐさま準備をしてヒルデの待つところへ帰ってきた。
ポルタは誰かに見つからないようにヒルデの服の中に隠れて城に向かうことにした。




