~来着~
ミーアの町に茜が差し夕焼けに染まる頃、供に暮らす事を了承した五種族の樹人に乗っての大移動が終わろうとしていた。『深翠の森』の木々を引っ越しする先は、城下町と農村の間に位置することにした。場所が決まり樹人霊長印が刻印された紙を木から外すと樹人から元の樹木へと戻っていった。残りの樹木はオーガストと若い兵に任せておけばいいだろう。
長旅の影響もあり五種族の者達には今日は兵舎の空き部屋や街の宿屋に宿泊させることにした。それとは別に各族長と従者、それにニーズヘッグを城へ招いた。
~謁見の間~
ミーアの幹部や主要な者達を集め新たな仲間を紹介することにした。ニーズヘッグには玉座から少し離れた右側にニーズヘッグ用の御座を用意し座ってもらった。はじめは隣に座ってもらうつもりだったのだが断られ、その場所で落ち着いたのだ。
「これから、ミーアで供に暮らす事になった新たな種族の者達だ、皆、仲良くしてくれよ。」
「すみません主、お聞きしたいことがあるのですが?」
ブライが俺に方を見て手をあげて質問してきた。
「なんだ?」
「先程、そこに座られている御仁の名を『ニーズヘッグ』と言われたと思いますがもしかして………。」
「ああ。その通り。十大竜王が一角『翠蒼竜ニーズヘッグ』だぞ。」
それを聞いたブライは俺に向かって声を荒げた。
「主っ!!またですか!!」
「えっ?!」
「神樹の守護竜王連れてきたら駄目でしょうが!神樹は神聖な木ですよ!悪用する者もいるかもしれません!なに考えてんですか!!」
「それなら大丈夫だ。」
「は????」
「神樹も持ってきたから。」
「嘘でしょ???」
「ほんと。」
「ほんとに?」
「ほんとのほんと。」
「何やってくれてんですか馬鹿!!」
「馬鹿とは失礼な。」
「神樹を持ってくるなんて前代未聞ですよ!世界中の冒険者達が捜しまわる代物ですよ!そのような輩が一気に城に押し寄せて来るかもしれないじゃないですか!!」
「お前ねぇー。俺がなんにも考えてないと思ってんの?」
「と、いいますと??」
「城の中庭に植えて結界張るから問題ないだろ。そうしとけば、冒険者は入れないし、誰かが見たところで傷ひとつ付けれないしな。それに……。」
「それに?」
「そうしといたら、ニーズヘッグの心労が溜まらなくていいだろうが。」
「竜王の御身を思っての事でしたか……。そうとは知らず申し訳ありません。」
「いいよ。俺が言葉足らずだったんだから。」
いつもの、やり取りなのだがそれを聞いていた五人の族長は目を丸くしていた驚いた。爵位を持つ自分の主を馬鹿呼ばわりしたブライの行動にも、それを普通に許す辺境伯にも。猿人族族長のダグラスは、近くにいたグレイにそっと今の行動を聞いてみたら「いつもの事ですよ。ジル様はそういうとこ気にしないので。」と言って笑っていた。それだけで辺境伯が仲間を、民を大切にしていることを受け取れた。それはダグラスだけではなく、他の族長達も同じ気持ちだった。ダグラス以下5名の族長達はその場から一歩前に出て、片膝をついて忠誠を誓ったのだ。
「この度は、ニーズヘッグ様の願いを聞き届ると供に我ら五種族に温情をかけていただき誠に感謝致します。 ジル=ヴァンクリフ辺境伯への忠誠を息絶えるその日まで、ここに誓います。」
「いいよ、そんな固い挨拶なんて。」
「いやしかし、最初が肝心ですので……。」
「そうなの?まあいっか。みんな、今後ともよろしくな。」
「「「「「はっ!!」」」」」
神樹は城の中庭に植え、神樹の魔力を外に漏れないようにと外敵から守るために、周囲に魔法『結界』を展開しておく。ニーズヘッグには神樹近くに離れを建てそこでゆっくり暮らしてもらうことにしよう。
(池や茶室なんかも、作ったら喜ぶかな。)
小犬族は予定通り城の敷地内にある使われていない旧兵舎に住み城の中での仕事を任す。執事やメイド、料理に清掃業務、庭園管理などだ。ようするに警備以外の全般を任せるのだ。いままでは兵士達がその仕事をしていたが、これからは警備や巡回、訓練なんかに時間が使えるようになるため兵士達からは好評だ。小犬族の教育係にはラベンダーとガーネットを就けて指導にあたらせる。可愛い部下が出来たと喜んでいたが、優しく指導すると言ったラベンダーの不気味な笑顔を見た小犬族は少しビビっていたが、俺は知らんぷりしておいた。
蜘蛛人族には、職人街と商店街に住居を用意した。何故、職人街と商人街かというと蜘蛛人族が定期的に出す蜘蛛の糸が衣類に活用できるのを知り、今までも自分達の衣服はそれを利用して作っていると聞いたからだ。自分達が作ったものを自分達で販売することにより仕事の楽しさも味わえるだろうしな。蜘蛛人族にそう提案してみたら、嬉しそうにしているし、問題ないだろう。
小鬼族はラゴールとゼネガーに任せることにする。ラゴールの受け持つ鉄鉱山、銀鉱山の隣にある石切場で石工として働く者とゼネガーと供に国境警備と斥候として働く者に分ける。住むところはどこがいいかと聞いたら歓楽街と職人街の間にある空き家が多いスラム街が良いと言ってきたのには、驚いた。働いた後に一杯引っ掻けるには近いほうがいいらしい。
森の民族は住宅街に住む事になった。エルフは元々、目が良いので、城壁での警護任務についてもらう。城壁は城郭都市では都市全体を囲み、外敵の攻撃から内側を守る為のものなのでうってつけだ。あと、一番の収穫があった。なんとエルフには酒造の知識があることを族長から聞き、戦える者は兵士として働き、他の者は酒作りをしたいと嘆願してきたのだ。いままでは他の町から買っていたが、作れるのならばそれにこしたことはない。どうせなら、地酒として他の街で売りたいしな。その事を視野に入れるよう指示し、酒造を許可したのだ。
最後に猿人族なのだが………。彼らは新たな深翠の森で暮らしたいと言ってきた。街の居住区にある住居を用意していたのだが、やはり森の中が良いらしい。それならばと農村にある空き家を薦めたのだが棟数が不十分だった。猿人族族長のダグラスは猿人族の数名が家を建てる事が出来るらしく問題ないと言っていたのだが、家の中の設備までは出来ないので鍛冶士協会から派遣させる事にした。残りの者は森の管理や間伐をしたり木材加工をする木樵を生業にしたいと言ってきた。
新たな種族の仲間が加わり、その夜、街をあげての歓迎を込めた大宴会を大広場で開催した。久しぶりの大騒ぎに街の者も、新しい仲間も供に笑い宴会は深夜まで続いたのだった。




