~供生~
翠蒼竜ニーズヘッグが言った内容に、猿人族族長ダグラス=リングアンドアや族長達は愕然とした。だが失意の中にあるその者達に向けジルがある提案をしてきた。
「じゃあさ、お前ら良かったら俺の街で一緒に暮らさないか?」
「「「「へっ???」」」」
ジルのいきなりの提案に一同が目を見開き驚いた。
「それなら、大好きなニーズヘッグと一緒にいれるだろ?もちろん、何かしらの仕事はしてもらう。ただ飯食わす余裕もないからな。住む家もあるから心配すんな。」
「しかし妾達、蜘蛛人族と一緒になど暮らしたがる者など………。」
小さくボソッと女王が言った言葉をジルは気になったので聞き返すと、昔より蜘蛛人族は、他種族と関わる事が無く、どちらかと言えば恐れの対象として見られる事が多かったらしい。上半身が人族で下半身は蜘蛛の見た目が原因らしい。しかも蜘蛛人族は女性ばかりの種族という事も拍車をかけているのだ。
「種族間の差別みたいなもんなら大丈夫だろ。知っての通りウチは多種族共生が売りだからな。」
「それは、承知しています。ですが……。」
女王アルラが、戸惑いを隠せずにいると小鬼族小鬼王のゾル=ホーンがその話に割って入ってきた。
「それなら、蜘蛛人族より俺達小鬼族のほうが昔から他種族とは仲悪いからな。俺のじい様が言っていたが、人族や獣人とは殺したり殺されたりを昔、繰り返していた。それなのに、うまくやっていける筈なんてない。」
「それは、お前じゃないだろう。」
「そりゃそうだけどよ……。」
「つーかウチには、元山賊のラゴールって大鬼族がいるんだけど、そいつの部下に小鬼族が何人もいてるぞ。」
「えっ?山賊の大鬼族に小鬼族?がいんのかよ?」
「ああ。普通に暮らしてるけど。」
それを聞いた蜘蛛人族のアルラも心配が少し取り除かれたらしく、小鬼王のゾル=ホーンと目配せをした後に、宜しく頼むと頭を下げた。
「お前らは、どうする?」
ジルは森の民族、小犬族、猿人族に問いかけた。
森の民族は、腹が最初から決まっていたらしく、あっさり共に生きることを承知してきた。
「娘が世話になっている方なのだから間違いないだろう。」だって…。余程信用されているか親バカかのどっちかだな。
小犬族は、今も奴隷として仲間が捕まれて売られている現状、すぐにウンとは言えないでいた。力も弱く戦いに不馴れな小犬族にとって、大きな街に住むことは、リスクが伴うことを知っているからだ。だがこのまま森にいても同じリスクが無いとは言えない。心配を取り除くためジルは小犬族にある仕事を任せよう考えていた。
「実は小犬族の仕事は、もう決めてんだ。」
「どういったものですかワン?」
「城の敷地内で、執事や家令、使用人なんかをしてほしいんだ。それなら怖い思いしなくていいだろ?街に買い物なんかは城の者と行けば問題ないしな。住むところも城の敷地にある旧兵舎をリフォームすれば問題ない。それなら安心だろ?」
「そこまでしていただいて、いいのですかワン?」
「もちろんだ。どうだ?」
「ちょっと、気が引けますワン。我々だけ優遇されすぎているような……。」
「実はな……。こいつからの要望でもあるんだ。」
小犬族を城の仕事に就かしてほしいと最初に言ったのは、幻獣狼のカムイだった。何故、小犬族達を城への招き入れをジルに嘆願したかというと城にいる女供からのモフモフを警戒しての事だ。毛並みの良いモフモフが増えれば自分には寄ってこないと考えたのだった。ジルはそんな事をカムイが考えているとは知らなかったが城で働く事で安心が得られるなら良いし、城の仕事も人手不足には違いないからの提案だった。
「やはり、フェンリル様でしたかワン。」
「知ってんの?」
「フェンリル様は、我らの始祖様ですワン。フェンリル様の要望ならば、お受けしないわけにはいかないワン。宜しくお願いしますワン。」
小犬族の始祖にあたるカムイはモフモフ要員が増えたことですこしは女供から逃げ回らなくていいだろうと安堵していた。後は猿人族だけなのだが、族長のダグラスは険しい顔をしたままだった。
「辺境伯殿、有り難い話だが我らは森を捨てることはできん。ニーズヘッグ様が神樹と供に生きるように、我らは森と生き森と死ぬ事に誇りを持っている…。だが、ニーズヘッグ様の側に仕える事も捨てきれん…。」
「ってことは、この森ごとミーアに行けば問題ないわけだ。」
「ん??何を言っているのだ?」
「だから、森ごと引っ越せばいいんだろ?」
「何をバカな…。」
「それに関しては任せてくれ。猿人族の気持ちはわかるから俺に任してくれないか?」
「あ ああ……。わかった……。」
ジルの言っている意味がわからないダグラスだったが、猿人族の総意は伝えた。その上で辺境伯の地位のある者が任せろと言ったのだから信じるしかなかった。
「じゃあ明日、早速引っ越しするから身支度は済ますように。自分の集落にかえって他の奴にちゃんと伝えておいてくれよ。ニーズヘッグも、身支度しといてくださいよ。」
「余命幾ばくもない我もかジル君??」
「当たり前ですよ。あなたからの頼みはもちろん引き受けますが、俺はあなたにも楽しんでもらいたい。あなたは今までひとりでここに居続け神樹を守ってきたのですから、少ない時間かも知れませんけど良い思いをして欲しいんです。」
「………君は優しい男だの。種族に関係なく手を差し伸べてくれるとは。」
「気にしないでくださいよ。好きでやってることですから。」
こうして急遽決まった大引っ越しをするべく、各々の集落へと族長と従者達は戻っていき、ジルはネロとカムイを引き連れ森の引っ越しの準備に取りかかったのだった。




