~不服~
深翠の森は今日よりオズワルド王国ジル=ヴァンクリフ辺境伯が統べる……。
その言葉を聞き、円卓にある椅子に腰かけていた小鬼族族長と猿人族の戦士長が声を荒げ、蜘蛛人族女王は、こめかみにシワを寄せ睨みを効かし、森の民族、猿人族族長は静観、小犬族は目を見開き驚いた。
その言葉は森と共に生きる者にとって到底受け入れる事などできはしない。この場にいる誰もが十大竜王の側に仕える事を夢見た者達ばかりで、いきなり現れ初めて見る人族に居場所を奪われたのだから怒りが収まる筈もない。
一番最初に声をあげたのは、猿人族戦士長ヂヂ=ライトアームだった。
「貴様、今すぐ殺されたいのか?」
巨体を揺らし、座っているジルに詰め寄る猿人族戦士長の怒気を含めた問いかけに対して冷静に反論していく。
ネロは、すかさずジルと戦士長の間に入ろうとしたが、ジルは左手を出しネロを止めた。
「俺じゃ不服か?」
「人間の辺境伯ごときが調子に乗るな!!」
今にも戦闘が始まるほど一触即発の雰囲気だったが、猿人族族長ダグラス=リングアンドアが戦士長を静止した。
「少し黙れヂヂ。話も出来ん。」
「いや、しかし族長!この人間が…。」
「…黙れと言っている。」
「すんません………。」
族長の威圧に戦士長は、返す言葉も無くなりジルの傍から離れていった。
「すまんな。礼儀を欠いた。」
「かまわないさ。気にするな。」
「だが、こいつが怒るのも当然だ。貴殿が深翠の森を統べようとする意思は分かったが、それを易々と認めるほど我らは寛容ではない。」
「分かっているよ。なら、無理矢理にでも認めてもらおっかな。」
「力づくという訳か……。それは一向にかまわんが、その前に先程から我らの感情をわざと逆撫でするような言動の意味を教えてもらおうか…?」
「あれ、バレてた…?」
「フフフ、王国の辺境伯ともあろう者が自ら争いの火種を撒く筈もないだろう。少し考えれば分かる事だ。」
「さすが一族の長だな。」
「世辞はいい。真意を教えてくれ。」
「んー。わかった。なら、俺が話すより本人から聞いた方がいいかな。んじゃ、悪いけど俺についてきてくれる?」
そう言うと、ジルは席を立ち、小犬族の村から森の中へと歩みを進めていく。ジルの後をネロが歩き、その後ろを五種族の代表者と従者が続く。半時間ほど森の中を歩いたのだが、何かがおかしいと五種族の者達はそう感じた。普段から森に住む者達ならば、森の中で知らない場所はないのだが、今歩いている場所は誰も記憶に無い場所だったからだ。
「おい、辺境伯!ここは一体どこなんだ?」
いつも、狩りや採集し、共に生きている森なのに、何故か自分が知らない場所。そんな矛盾に耐えきれなくなったのか小鬼族族長のゾル=ホーンがジルに話しかけた。
「ここ?森の中央付近だけど。」
「そんな訳ないだろうが!俺たちの誰も知らない場所だぞ!」
「まぁ、いいからいいから。もうすぐ着くから待ってろって。」
薄暗い森の中をどんどん進むジルとネロの背中を、五種族の族長達は体力的に憔悴しかけていたが、フラフラになりながらも必死でついていった。また矛盾が生じている事に気づいた五族長達だが、言い返す気力等なかった。
「大丈夫か??着いたぞー!」
地面を見ながら歩いていた族長達がジルの声がする方へ顔を見上げた先には、黄金色に輝く大きな一本の大木が悠々と立っていた。
森の民族の族長が声を出しながら感動に声が震えていた。森の民族だけではなく小犬族、小鬼族、蜘蛛人族、猿人族までもが感動していた。
「ま、まさか、こ この樹は!!」
「おっ、さすがヒルデの親父さん。わかった?」
「えっ??娘を知っているので?」
「ああ。家名が一緒だったし、さっきヒルデに連絡して聞いてみたんだ。いまは俺の領地で農林の管理をしてもらってるよ。」
さっきまで厳しい顔つきをしていた森の民族の族長だが、無事を聞いて安心したのだろう、いまは娘を心配していた一人の優しい父親の顔をしていた。
「家を飛び出したと思ったら……あなたに世話になっていましたか…。あのじゃじゃ馬娘は迷惑をかけていませんか??」
「全然、迷惑なんて。むしろ、俺に対等に意見できる一人として助かっていますよ。」
「そうですか……。よかった……。」
「後で、こっちに来るように言ってあるから。待ってて下さい。」
「心遣い、申し訳ない。……………それよりも、この大樹はやはり『神樹ユグドラシル』ですか?」
「その通りです。」
『神樹ユグドラシル』何千年何万年と生きる伝説の樹。その葉にかかった朝露を傷につければたちどころに大怪我を治し、葉を煎じて飲めば大病を治すと言われている。だがその在処は誰にも知られなかった。唯一、知りえるのが神樹の守護竜でもある、翠蒼竜ニーズヘッグだけなのだ。ニーズヘッグは神樹から生まれて落ち、神樹と共に生き共に死ぬと伝えられている。
大樹に目を奪われている五族長を連れ、そびえ立つ大樹の根木にまで行くと、カムイと白髪で長い髭を蓄えた一人の翁が立っていた。




