~救助~
カムイが先行し、ジルとネロが数分後に小犬族の集落に到着した。静かなはずの夜の森は、立ち上がる炎を囲み、小犬族の遠吠えに似た叫び声で騒がしくなっていた。住居であろう藁や葭で出来た家は何棟か焼け、消火活動に小犬達は慌ただしくしていた。
「おい!!大丈夫か?!」
ジルは近くに倒れていた、小犬族を、抱き抱えた。良く見るとその小犬族は、前世の犬種でいうところのビーグルに似ていた。
「ひっ 人族!!!!」
「驚くのは後だ!何があった?!」
「わっ わからないワン。いきなり家が燃え出して……。」
(語尾がワンって……。)
その小犬族は怖いながらも声を振り絞りジルに話をしたが、どうして家が燃え女子供が泣き叫んでいるのか、理解が追い付いてはいなかった。
「くそっ、原因究明は後だ。ネロ、こいつを頼む!」
抱えていた小犬族をネロに任し、ジルは森に炎が広がる前に燃えてる家屋に向かって水氷魔法を唱えようとした。だが、ネロが大声を出して汁の魔法詠唱を止めたのだった。
「ジル様!!ダメです!まだ中に人影が!」
「大丈夫、わかってる!『白鯨』!」
宝杖ヴァルクの宝玉から白鯨が炎を出して燃え盛る家屋の上に飛び出した。
「火の手が上がる場所に降らせろ!水氷系溟海魔法白鯨、『白雨』!」
ヴォォーーーーン!
白鯨は背中にある噴気孔より細かな粒子の水粒を、炎が立つ場所の上空で勢い良く吹きあげた。ジルは着ていたローブのフードを目深に被り、小犬族達が消火に使っていた桶の水を頭から浴びて火の手が上がる建物の中に入っていった。小さな家屋が幸いし中にいた小犬族の子供を助け出した。子供には怪我はなかったがひどく怯えている。母親らしい者に子供を預け消火を続けていく。
水氷系溟海魔法白鯨の『天降氷』に続く新たなる技能『白雨』。
白鯨の噴気孔より細かな水粒を吹き出し霧状にし相手の視界を遮り自らの姿を消し敵を翻弄する。それが本来の使い方だが、その技を消火に応用したのだった。
白鯨の技能『白雨』のおかげで、さっきまで勢いよく燃えていた炎は徐々にだが確実に小さくなり、やがて消えていき、村の火事騒動は落ち着きを見せた。焼け跡からは焼死体などはなかったので少しホッとしたのだが、代わりに火事の原因らしい物をジルは見つけた。原因になったであろうそれを手に取り手拭いで包み懐へとしまった。
それよりも今は救助や治療が先だ。火傷や怪我をした者たちが多く、治療を施さなければ生活に支障が出るだろう。とりあえずジルは、小犬族を回復魔法で治療するため村全体を囲むように魔法をかけた。
(小さな村だから、これで全員、治るだろう。)
「領域回復魔法。」
火傷や怪我を負った小犬族達は、たちどころに軽傷や重傷に関わらず傷は治り、その場でピンピン跳び跳ねていた。
ジルはネロと最初に助けたビーグルに似た小犬族がいる場所へと戻っていった。
「子供を助けてくれてありがとうワン。村の者の怪我まで治してもらって感謝するワン。人族にも優しい者もいるんだなワン。」
「気にしなくていい。それよりも、この状況で聞きたことがある。この村の長のところへ案内してくれるかい?」
「族長は、某ですワン。」
「君が?若い族長だな。」
「最近、代替わりしたワン。」
「なら、話は早い。さっき、燃え盛る家の中から子供を助けたとき、そばにこれがあった。見た事ないか?」
ジルは懐からある物を包んだ手拭を出した。それは先が焦げた鉱石で作られた矢尻だった。
「矢尻??我ら小犬族の物ではないワンね。我らの矢尻は鉄製だワン。多分この矢尻、小鬼族が使う物と似ているワン。」
「ゴブリンか…。近くに集落があったりするか?」
「あるにはあるけど、今は近くに寄らない方がいいワン。部族同士の小競り合いに巻き込まれるワン。」
「部族同士の小競り合い??」
「小鬼族、森の民族、蜘蛛人族、猿人族がこの森の覇権を争っている真っ只中ワン。」
「森の覇権?なんかあるのかこの森は?」
「この森は『深翠の森』といい、十大竜王が一角『翠蒼竜ニーズヘッグ』様が眠る森だワン。その4種族がニーズヘッグ様の最上位従者の席をめぐり、永く争っているワン。」
「だから、ミーア国の建国に参加しなかったのか…。」
「多分……。そんな事よりも従者の席が大事だと思ってるワン。ほとほと困っているワンが、我らみたいな弱小部族は我慢するしかないワン……。人族も怖いけど、森の争いに巻き込まれるのも……。」
「ニーズヘッグはこの事を知っているのか?」
「知らないと思うワン。永き眠りからまだ覚めないワンから、そいつら、勝手にやってる事だワン」
「……くだらんな。本人の意思を無視かよ……。」
「ニーズヘッグ様が外で、こんなことになってると知ったら可哀想だワン。」
「しょうがない……。ニーズヘッグの為にも止めるか。」
「へっ???」




