~小さな村~
ヒルデやポルタから別れてから半日が過ぎた夕暮れ時、辺りはゆっくりと茜色に包まれていく。春も終わりを告げ、もうすぐ秋になる。この世界は四季はあるが順番は違うのだ。
白鯨に乗って見る夕焼けは、眼前いっぱいの地平線からの広がりに目を奪われていた。
「ネロ、領地内には他種族ってまだいんの?」
「いますよ。ジル様は、ミーア国の成り立ちはご存じで?」
「成り立ち?他国に対抗するために、いくつかの種族が合流して出来た国って事くらいだが。」
「そうです。その合併を受け入れたのは、人族、人馬族、牛頭族、猫妖精族、羊角族、月兎族、火の民族、水の民族だけなのです。」
「え?じゃあ、ヒルデやゼネガーの種族は?」
「詳しくは解りませんが、森の民族は独自文化を重んじる部族なので参加しなかったのでは。ゼネガーさんは、どこからかの移住者なのでミーア国が出来てから王に仕えるようになりましたよ。」
「ゼネガー移住者だったんだ。じゃあ元から領内にいた小鬼族は参加してないのか?」
「ええ。小鬼族は、他種族の者には従わないきらいがありますから。」
種族的な理由でミーア国建国時に参加しなかった者達は領地内に多々いるらしく、ネロは自分が知る全ての種族をあげてくれた。
小鬼族
森の民族
小犬族
蜘蛛人族
猿人族
「私の知ってるのはこれくらいですね。元バルバロッサ領内にいる種族はわかりませんから他にもいる可能性はあると思いますよ。」
「けっこういるんだな。ってか、グレイもこんなに他種族がいること、知ってるなら城を出る前に教えてくれりゃいいのに。」
「多分、わざと教えなかったのでしょう。ジル様ならば、種族など関係なく誰とでも仲良くなれるので。現にヒルデさんはエルフですし、ラゴールさんは大鬼族ですから。」
「まぁいいや。それよりネロ、腹も減ったことだし今日はこの辺りの村の宿にでも泊まるか?」
「……。一応、近くに村がありますが行ってみます?」
「ん?なんかあんの?もしかして宿が無い村なのか?」
「いや、そういうわけでは。宿も、あるとは思いますが……。」
「????」
「……。その村に住む者達がちょっと人族を恐れの対象としている種族なもので…。」
「ちなみに、なんて種族?」
「小犬族です。」
「さっき教えてくれた種族ね。まだ会ったことないわ。」
「自給自足の生活をしてますから。人前には滅多に出ませんね。あとは、手が肉球なのに、すごく手先が器用ですよ。」
「一度会ってみたいもんだ。けど、なんで人族を怖がるんだ??」
「昔から、奴隷として捕まえられ人族に売られる事が多い種族ですから恐れているのでしょう。身長が高い者でも1mほどなので人族に小犬族の奴隷は人気や需要が今でも多いのです。」
「そりゃ、恐れるわな。」
「ええ。他の種族には需要はありませんから。」
「なんで??」
「他の種族は奴隷を労働力としてみますから。力が強い者や、体が丈夫な者を選びます。可愛いとかでは選びませんから。」
「なるほどね。どのみち、会いたいと思っていたのだから行ってみよう。」
「わかりました。警戒されますから、白鯨から降りて歩いていきましょう。」
ここから、小犬族の村までは遠くない距離ではあったが暗闇が押し迫る日暮で森の中ということもあり辺りは暗く、少し肌寒くもあった。幸い同じ犬科で臭いが似ていたこともありカムイの嗅覚で、村のありかはわかる。草を掻き分け森の奥へと進んでいくと、鬱蒼と生い茂った木々の間から焚き火の明かりが大きく揺らめき、小犬族の村と思われる小さな集落が見えてきた。遠目から見たその村の印象は、藁や葭で出来た家がありお世辞にも綺麗とは言えなかった。
『主、何か騒がしくないですか?それに何か焦げ臭い?』
カムイが何かを鼻と耳で感じ取ったらしく、それは村から聞こえてくると俺に告げてきた。良く見ると村から黒煙が空に上がり、悲鳴や叫び声が聞こえてきた。
「おい!あの明かりは焚き火じゃねぇぞ!!」
「みたいですね!家も燃えてます!」
『我が先行します。主達は後から来てください。』
カムイは俺とネロを置いて、木々の枝に飛び移りながら小犬族の村まで素早く移動していった。
「わかった。無理すんなよ!行こうネロ!」
「はい!」




