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ダーク・サラン  作者: GDB
3/3

第三夜 バッグの中身

傷を処置してもらい、一緒に先ほどの集落に行くことにした。


この世界から出られる手掛かりがある…!

かすかな希望を見出した私の歩みは軽快であった。あんな怖い目に会ったばかりだというのに…。やはりそこに私の単純たるゆえんがある。


集落に到着すると、リバーシ・ピープルは誰も外にはいなかった。どうやら皆家の中に入っているようである。どうやってバッグを取り返そうと私が悩んでいると、驚くことに彼が単独で乗り込むことを申し出た。


「莉緒はここで待ってて。僕が一人で行ってくるから。」


「一人って…えっ!?危ないよ!」


「大丈夫。僕にはこれがある。」


そう言って彼はポケットから猫じゃらしのようなものを取り出した。


「これは『ジャーシー』。まぁ名前は僕がつけたんだけど。リバーシ・ピープルはこの植物が本当に嫌いなんだ。だからこれがあれば大丈夫さ。」


「へー!そうなんだ!…でも…。」


「いいからいいから。それで、莉緒が入った家はどれ?」


「あれだけど…」


私は、忘れもしない、あの家を指さした。


「わかった。行ってくるよ。ここで待ってて。もし危なくなったら逃げろよ。」


と言って彼は行ってしまった。私は心配で心配で仕方なかった。あんな変な植物で本当にリバーシ・ピープルを撃退できるのか。そして彼は私が指をさした家に躊躇なく入っていった。


彼が家に入った途端、悲鳴が聞こえた。


「あああああああゃぎ!!!」


それはおそらく彼のものではなかったのでひとまず安心した。リバーシ・ピープルの悲鳴であろう。


(本当に効くんだあれ笑)


彼がひょこっと家から顔を出し、屈託のない笑顔で私の方を見て言った。


「おっす!」



バッグを無事奪還した私たちはひとまず例の洞穴へ戻った。カバンの中身は着いてから見てみようということになった。戻ってる道中、何度も見たくなったのはここだけの話…。


「それじゃあ!バッグを開けてみようぜ!」


洞穴に着くなり、開口一番彼は言った。どうやら彼も待ちきれなかったようである。バッグは大きい口が1つと小さい口が1つという典型的でかつ量産型のバッグである。どちらの口を先に開けようか…。少し悩んで、大きい方から開けることにした。


ジジジ…


バッグはとても重かったので何が入っているのかとワクワクしていたが、大量の食品缶詰、非常用の水。絆創膏、小さめの毛布。少しがっかりした。いや、これらはこれからの生活で必要なものである。しかし、


(もっと面白いもの期待してたのにーー)


私はバカなのである。私とは対照的に彼は喜びと驚きの顔をしていた。


「こんなの…誰が用意したの…?まるでこの世界の生活を知ってるかのような…」


彼の真剣な質問にバカな私はてきとうに答えた。


「うーん。わかんないや!まぁ私ではないよ~。ねぇねぇ!小さいほうの口も開けてみようよ!」


私の関心はすでに未開の口へと移っていた。私はこのバッグを誰が用意したかなんてどうでもよかった。小さい口を開けるまでは。


ジジジ…


小さい口の中に入っていたのは、小型の歯ブラシと石鹸と方位磁石。そして紙だった。


(良かったー!歯ブラシと石鹸ある!!あーでも化粧水とかもほしかったな。)


としか考えることができなった私は本当にバカであった。彼は違うところに着眼していた。


「その紙って何…?」


紙はどうやら二枚あるようだった。どちらも小さく折りたたまれていた。恐る恐るその片一方の紙を広げてみた。するとその紙はB5サイズほどになった。そこには文章が書かれており、どうやら手紙のようであった。



『親愛なる春川莉緒さんへ


こんにちは。この手紙を見ているということはあっちの世界に無事行けたということだね。本当に何もかもわからない状況だと思う。でも頑張って!あなたがこの世界に来たのには意味があるから。今は、それはわからないと思う。でもいつかきっとわかる。だからその時までこの世界を旅して。大丈夫。この世界のだいたいの人はあなたを知っている。きっと親切にしてくれる。でも敵もいるから気を付けてね。そして絶対に諦めないで。あの子はあなたが来るのを待っている。


P.S 核心ついたことを書いてしまうのこの手紙は消されてしまうので、ある程度ぼかして断片的に書かないといけなかった。ごめんね。

まずはキーカントに行ってみては??特別に地図を付けることを許されたので地図を付けとくね~!』



頭が真っ白になった。ツッコミどころが多すぎてどこから手を付ければいいかわからなかった。それは彼も同様らしかった。


「なんだよこれ…」


それが彼の精一杯の言葉だった。私は大きく息を吐いた。そして状況整理のため、一つ一つつぶしていくことにした。


(まず、これはおそらくこのバッグを用意した何者かが書いたんだよね…。私のためにすべて用意してくれた。じゃあ味方なんだよね。「この世界に行けた」ってことは私がこの世界に来た意味はプラスだということ。意味というのは多分今はわからないんだろうね。それは置いといて、あの子って誰なんだろう。まぁ多分これもわからないやつだね。あとは推理できるとしたら、この世界には管理人みたいなのがいて、それが手紙を消してしまう?それはあのお婆さんなのかな。てか、キーカントってなに!!)


バカな私が珍しく思案に暮れていると


「ここを東か…」


彼がポツリと呟いた。彼はもう一枚の紙をすでに持っていた。私の視線に気が付くと顔をこちら側にして


「キーカントってのは地名みたいだね。ここを東にずっと行くと着くみたい。縮尺がよくわからないからどれだけ遠いかわからないけどね」


(なるほど、もう一枚は地図だったね。とりあえず、そのキーカントってのに行ってみよう。そしたら何か分かるかも!)


めきめきと希望がわいてきた。当てのない旅を楽しめる能力は持ち合わせていない私にとって、目的があるということはとにかくうれしいことだった。


「それじゃあ私キーカントに行ってみるよ!!思い立ったが吉日だからもう行くね!ホントにありがとう!!」


私が彼に別れの挨拶を述べ、歩みだそうとしたとき


「さっき断って、すごい言いにくいんだけど…僕も一緒に行ってはだめかな?」


と彼は遠慮がちに私を引き留めた。


「だめなわけないじゃん!!一緒に行ってもらえるなんてこっちからお願いしたいくらいだよ!」


願ってもないことだった。彼が来てくれるのは心強い。しかし、私の中に一番大きかった気持ちは


(やったー!イケメンともっと一緒に居られる!)


という浅はかなものであった。どちらにせよ嬉しい申し出であることは間違いなかった。


「じゃあ改めてよろしくね!石井くん!莉緒って呼んじゃっていいから」


「よろしく莉緒。僕も豪でいいよ。ところでさ、もしかして同い年くらい?」


(えぇー私ってそんなに大人に見えるかなー。ちょい複雑。豪って24歳くらいの見た目だし、私もそれくらいに見られてるってことなのかな。)


「豪って24くらい?」


「おお!ぴったり24だよ。」


「じゃあ私16歳だから全然年齢違うじゃん。」


一瞬彼はとても驚いた顔をした。しかし何かを悟ったように


「あー…。そういうことにしておくね」


と言った。どうやら永遠の16歳的な感じのイタい人に思われているようだった。


(本当に16歳なんだけどなぁ…)


「何はともあれ出発だね。ここを離れると思うと少し寂しいけど、莉緒についていけばこの世界から出られそうな気がするんだよね。よし!行こう!」


そして私たちは出発した。

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